お前のものは俺のもの-ハリネズミα男子と黒縁眼鏡のΩ男子-side:αY

信じられる本当の親友

2

　友達とするちょっとした悪い事… 
　実はこれも俺が憧れていたことの一つだ。

　青春ってこんな感じなのかな…？
　悪い事をしてるはずなのに、三人で何かを成し遂げられたような達成感もあるし、何よりほんとに楽しい。

　そして、いつものように俺は、裕翔の焼きそばパンを奪い取り、いちごオレもストローに口をつけて飲んでやったんだ。

「もぉ～っ！バカぁ！！」っとやっぱり頬を膨らませては、狙っているかのように可愛く見せる裕翔。

　その代わり、俺が飲んだオレンジジュースを差し出してやったんだけど、いつでも腹が減ってるはずの駿が、途中まで食べた焼きそばパンを裕翔に差し出していて…

　駿のまさかの行動に、俺は驚きを隠せなかった。

　やっぱり、駿の様子はいつもと違う…
　やべぇ…浮かれて楽しんでいたけれど、本当は元気の無い駿の思いを聞いてやんなきゃなんねぇのに…と思っていたその時だ、駿がゆっくりと口を開き始めたんだ。

「俺さ、怖いんだ…」

「こ、怖い…？」

「ああ…今月、最後のインターハイがあるだろ…？俺、こんなんでもバスケ部の主将だし、これが高校生活最後の試合にもなる…」

「そして試合に負けたらそこで終わり…主将としてバスケ生活が終わっちまうって考えちまうと、インターハイが近付けば近付く程、なんでか怖くなっちまって…」

　そうか…そういう事だったのか…
　大好きなものに打ち込み、抱えるものが大きいもの程、最後が近付く度にプレッシャーも大きくなっていく。

　ただ、駿は大好きだと思えるものに打ち込む事が出来、周りには駿の明るさや屈託のない笑顔から励まされ、身も心も支えられている奴らが大勢いるのも確かだ。

　俺には無いもの…
　そして、主将の駿にしか出来ないこと…

　俺が大好きだったバスケを今も続ける駿。
　なら…なら、俺みたいに後悔しないでほしい…

　楽しむんだ、大好きで仕方がないバスケを最後の最後まで…！

「最後なら最後らしく、楽しめばいいじゃないか」

「そ、そんな簡単な事じゃねぇんだよっ！」

「主将のお前が楽しくバスケが出来なきゃ、周りも楽しくバスケが出来ねぇだろ！？」

「…っ…！！」

　俺は、今まで二人に見せた事の無い表情で力強く思いを吐き出した。

　俺は一人…一人にされたからバスケからも身を引いた…それでいいとも思うようにしたけれど、やっぱり好きなものを奪われる程、苦しいことはねぇんだよ…

　だからこそ駿には、大好きなバスケを本当に楽しかったと、笑顔で悔いの無い終わりを欲しかったんだ。

「それと…俺は、お前と友達になれて本当に良かった」

「…はっ…？」

「そうか、楽しいってこういう事か…俺が楽しめれば周りも楽しい、裕翔が…そして駿が楽しいと思える事は自然と俺も楽しい…」

「俺はいつも元気で明るくて、みんなを笑わせてくれるお前のことが羨ましいと何度も思った」

「どういう意味か分かるか…？お前は俺らだけじゃないみんなのことも、その元気と明るさのおかげでどれだけ心を支えられて、助けられているかを！」

「だから、お前がバスケ部の主将なんだろうがよっ！」

　お前にしか出来ない事があるから、お前はバスケ部の核になっているはずだ。

　いや、お前じゃなきゃダメなんだよ…！！！

「…くっ…あ～っ！もうっ！くそっ！くそくそくそっ…！！」

　駿は俺の思いと共に、ずっと心の奥に秘めていた主将という孤独感と辛さを大声と共に吐き出し、涙を流していた…

　相当、抱え込んできてたんだな…

　そして、涙を流す駿の背中を裕翔は優しくさすりながら、声掛けてあげていたんだ。

「駿…？痛みに気付いてあげられなくてごめんね…でも、駿は一人なんかじゃないんだよ…？駿を信じているバスケ部の大事な仲間もいる…そして、ここには僕も大和もいる…」

「そう、何かあれば僕たちは支え合えるし励ましあえる…だって僕たちはもう【大切な親友】…でしょ？」

　駿は俺や裕翔の掛け声と共に、ヒクヒクと声を上げながら、涙をどんどん零していった。

　辛さは涙として流せばいい…
　沢山泣いて、沢山零して…最後の試合は清々しい気持ちで望んで欲しい…

　とにかく、俺が果たせなかった好きなものへの情熱を駿には絶やさないで欲しかった。

「駿、俺たちは親友だ…何かあれば、俺らが支えてやるよ」

「そうだね！だからいつも通り、明るく元気いっぱいな駿を部員のみんなにも変わらず、振り撒いてあげてね？」

　俺と裕翔の願いが駿の心へと届いたのか、俺たちに「ありがとう…」とその一言を残し、駿は気が済むまで涙を流し続けたんだ。