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再出発
ゆらゆらお宿
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今日お泊りするお部屋が遠すぎて、それでなくとも体力のないわたしは、階段を半分も上がらないうちにギブアップ。
「フェリシア、私の背中におぶさるといい」
「うにゅぅ~」
後ろにいたクリナムさんがそう言ってくれたお陰で、わたしはやっと周りを見る余裕ができた。
「にぃに、夕焼けがキレイだよ」
ちょうど、武神様の髪の毛みたいに真っ赤なお日様が沈んでいく時間帯で、枝葉の間から見える、黄金色から紺へと変わっていくお空のグラデーションがとってもキレイ。それに、枝から吊り下がったお宿の部屋から漏れる灯りが、時折吹く風にぶらりぶらりと揺らされて、なんだかとても幻想的だ。
この感動を分かち合いたかったのに、にぃにから返ってきたのは「そうだね」という、そっけない言葉だけ。
ちょっぴり、さみしい。
ソレはソレとして、ここまで上がってきて心配になったのは、おトイレの他にもう一つ。
「にぃに、明日は朝の鍛錬やめといてね」
「鍛錬は欠かさずやるつもりだけど、なんで?」
「いつもの調子で寝ぼけたまま外に出たら、絶対落っこちそうだから。ここから落ちたら、絶対、死んじゃう」
武神様の用意してくださった樹上ハウスを、ほとんど使ってない理由の一つがコレなのだ。本人が忘れないで欲しい。
「そんなマヌケなことしないってば」
「にぃにってば、寝ぼけたまま普段どおりの行動はしちゃうから、すんごい心配。クリナムさん、にぃにはご飯を食べ終わるまで半分寝てるから、普通に喋ってるように見えても気をつけてね」
「分かった。気をつけよう」
「ちょっ、余計なこと言わないでよフェリシアっ」
「余計なことじゃないよ。大事なことです」
にぃにがわたしに過保護なのと同じ理由なので、そこはご理解いただきたい。
なにせ、にぃにはわたしの最後の肉親だ。できる限り、元気で長生きして欲しいもの。
「身内の無事を願うのは、当然のことだな。それに、猫耳族の子供が朝に弱いのは普通のことだから、恥ずかしく思う必要はない。実際、うっかり足を踏み外せば命の危険があるのは間違いないのだから、大人が気を配るのは当然だ」
クリナムさんのその言葉で、まだなにか言いたげにしてたにぃには、口をへの字にひん曲げて前を向く。
「――確かに、ここから落ちたら死ぬね」
しばらくしてから下を見て、ポツリと呟いたあたり、少し頭が冷えたらしい。
なによりも、納得してくれたらしいことにホッとする。にぃにも、案外困ったちゃんだよね。
「そうそ、か~んったんに死んじゃうよぉ~。だから、普通に地面の上にある村や町につくまで、み~んな、酒はお預けなんだしぃ~?」
「それでも呑んで、墜落死するヤツが必ず年に何人かはいるな」
からかい口調で言うもんだから、ピエリスさんがふざけて言ってるだけかと思ったのに……クリナムさんが重々しい口調で同意すると、途端に現実味を帯びて聞こえてくるのがとっても不思議。
「気をつけます……」
同じことを感じたみたいで、にぃにも神妙な声でそう答えた。
それからしばらくの間、無言で階段を登り続けて、やっとお部屋に着いたころにはすっかりお日様が落ちた後。
ピエリスさんが、ゆらゆらゆらりと揺れている、大きな繭に向かって受付でもらったカードをかざすと、扉の下から板が伸びてきて、みるみるうちにお部屋とわたし達の立ってる枝をつないでくれる。
――魔道具の一種かな?
どんな原理で動いているのか気になるけれど、薄暗くって魔法文字は見つからない。
――まぁ、明るくなってから探せばいっか。
繭の中はいつも眠っているベッドが二つは余裕で入りそうな広さで、うっすらと壁面が明るくなっている。これも、どういう仕組だろう?
「ベッドもなにもないってことは、ここにゴロ寝ですか?」
「そ~そ~。みんなで仲良く、ゴロゴロするだけの部屋なんよ」
「寝具は自前のものを使うのだが、手持ちがなければ――」
「フェリシア、そっちにしまってあったよね?」
「うにうに。今出すね」
わたしが周りを見回している間に、ピエリスさん達はもう自分の毛布を出して床に腰を下ろしてる。結構、秋も深まってきたこの季節、毛布一枚にくるまって寝るのは寒いよね。
村で集めた寝具の毛皮は奉納しなかったからたくさんあるし、このさい、全員分出してしまおう。
寝てもいい場所に着いたことで、一気に眠気が襲いかかってくる。
大きなあくびをしながらその場にぺたんと座り込み、ポシェットから人数分x2の毛布を取り出し、また欠伸。
「……ホント、そのポシェットにどうしてそんだけのモンが入ってんのか、不思議すぎっしょ」
「使わないならしまわせるケド?」
「つかうつかうっ! 嬉しいなったらうっれしっいなっ!」
ピエリスさんが何かを言いつつ覗き込んでくるのににぃにが噛みついてるのが聞こえるけれど、もう、限界だ。その場にコテンと転がって丸くなると、目を閉じまたまた欠伸を一つ。
ゆらりゆらりとかすかに揺れる、お宿のお部屋はイイ感じに眠気を誘う。
「まじんさま――おやすみなさぃ」
――明日は、ちょっとでもいいから会いたいな。
「フェリシア、私の背中におぶさるといい」
「うにゅぅ~」
後ろにいたクリナムさんがそう言ってくれたお陰で、わたしはやっと周りを見る余裕ができた。
「にぃに、夕焼けがキレイだよ」
ちょうど、武神様の髪の毛みたいに真っ赤なお日様が沈んでいく時間帯で、枝葉の間から見える、黄金色から紺へと変わっていくお空のグラデーションがとってもキレイ。それに、枝から吊り下がったお宿の部屋から漏れる灯りが、時折吹く風にぶらりぶらりと揺らされて、なんだかとても幻想的だ。
この感動を分かち合いたかったのに、にぃにから返ってきたのは「そうだね」という、そっけない言葉だけ。
ちょっぴり、さみしい。
ソレはソレとして、ここまで上がってきて心配になったのは、おトイレの他にもう一つ。
「にぃに、明日は朝の鍛錬やめといてね」
「鍛錬は欠かさずやるつもりだけど、なんで?」
「いつもの調子で寝ぼけたまま外に出たら、絶対落っこちそうだから。ここから落ちたら、絶対、死んじゃう」
武神様の用意してくださった樹上ハウスを、ほとんど使ってない理由の一つがコレなのだ。本人が忘れないで欲しい。
「そんなマヌケなことしないってば」
「にぃにってば、寝ぼけたまま普段どおりの行動はしちゃうから、すんごい心配。クリナムさん、にぃにはご飯を食べ終わるまで半分寝てるから、普通に喋ってるように見えても気をつけてね」
「分かった。気をつけよう」
「ちょっ、余計なこと言わないでよフェリシアっ」
「余計なことじゃないよ。大事なことです」
にぃにがわたしに過保護なのと同じ理由なので、そこはご理解いただきたい。
なにせ、にぃにはわたしの最後の肉親だ。できる限り、元気で長生きして欲しいもの。
「身内の無事を願うのは、当然のことだな。それに、猫耳族の子供が朝に弱いのは普通のことだから、恥ずかしく思う必要はない。実際、うっかり足を踏み外せば命の危険があるのは間違いないのだから、大人が気を配るのは当然だ」
クリナムさんのその言葉で、まだなにか言いたげにしてたにぃには、口をへの字にひん曲げて前を向く。
「――確かに、ここから落ちたら死ぬね」
しばらくしてから下を見て、ポツリと呟いたあたり、少し頭が冷えたらしい。
なによりも、納得してくれたらしいことにホッとする。にぃにも、案外困ったちゃんだよね。
「そうそ、か~んったんに死んじゃうよぉ~。だから、普通に地面の上にある村や町につくまで、み~んな、酒はお預けなんだしぃ~?」
「それでも呑んで、墜落死するヤツが必ず年に何人かはいるな」
からかい口調で言うもんだから、ピエリスさんがふざけて言ってるだけかと思ったのに……クリナムさんが重々しい口調で同意すると、途端に現実味を帯びて聞こえてくるのがとっても不思議。
「気をつけます……」
同じことを感じたみたいで、にぃにも神妙な声でそう答えた。
それからしばらくの間、無言で階段を登り続けて、やっとお部屋に着いたころにはすっかりお日様が落ちた後。
ピエリスさんが、ゆらゆらゆらりと揺れている、大きな繭に向かって受付でもらったカードをかざすと、扉の下から板が伸びてきて、みるみるうちにお部屋とわたし達の立ってる枝をつないでくれる。
――魔道具の一種かな?
どんな原理で動いているのか気になるけれど、薄暗くって魔法文字は見つからない。
――まぁ、明るくなってから探せばいっか。
繭の中はいつも眠っているベッドが二つは余裕で入りそうな広さで、うっすらと壁面が明るくなっている。これも、どういう仕組だろう?
「ベッドもなにもないってことは、ここにゴロ寝ですか?」
「そ~そ~。みんなで仲良く、ゴロゴロするだけの部屋なんよ」
「寝具は自前のものを使うのだが、手持ちがなければ――」
「フェリシア、そっちにしまってあったよね?」
「うにうに。今出すね」
わたしが周りを見回している間に、ピエリスさん達はもう自分の毛布を出して床に腰を下ろしてる。結構、秋も深まってきたこの季節、毛布一枚にくるまって寝るのは寒いよね。
村で集めた寝具の毛皮は奉納しなかったからたくさんあるし、このさい、全員分出してしまおう。
寝てもいい場所に着いたことで、一気に眠気が襲いかかってくる。
大きなあくびをしながらその場にぺたんと座り込み、ポシェットから人数分x2の毛布を取り出し、また欠伸。
「……ホント、そのポシェットにどうしてそんだけのモンが入ってんのか、不思議すぎっしょ」
「使わないならしまわせるケド?」
「つかうつかうっ! 嬉しいなったらうっれしっいなっ!」
ピエリスさんが何かを言いつつ覗き込んでくるのににぃにが噛みついてるのが聞こえるけれど、もう、限界だ。その場にコテンと転がって丸くなると、目を閉じまたまた欠伸を一つ。
ゆらりゆらりとかすかに揺れる、お宿のお部屋はイイ感じに眠気を誘う。
「まじんさま――おやすみなさぃ」
――明日は、ちょっとでもいいから会いたいな。
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