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トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~
魔神様の技術指導 ークリナム視点ー
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「息は……ある」
ベアイーターの死骸から引っ張り出し、呼吸していることを確認したものの、あまりの状態の悪さに思考が止まる。今まで四年もの間一緒に行動してきて、この男が魔獣に後れを取るなんてことはなかったのに……
「フェリシア、さっきみたいに魔法で治せない?」
「どうだろう……?」
ついさっき、妹に治療してもらったばかりのグラジオラスはそう言ったが、この状態では無理だろう。
見た目で分かる傷は体中の骨折だが、おそらく、内蔵もボロボロだ。
――なんで、こんなことに……?
斡旋所の――それも、町で暮らしている子供が請け負える範囲の仕事を体験させるだけのはずだったのに、なぜ、こんな化け物がいた?
なぜ、なぜ、なぜ。
そんな言葉ばかりが頭に浮かんで消えていく。
「グラジオラス、フェリシア……」
『ピエリスに、別れを告げてやってほしい』
ただ、それだけの言葉が、のどに引っかかって口から出ない。
「ムリなんだね、クリナムさん」
「~っ! 大丈夫だよね、クリナムっ!?」
グラジオラスの問いに、首を振るしかない無力な己がうらめしい。
「ウソだっ!」
「――君達が無事だったんだ。ピエリスも、満足だろう」
フェリシアがつまづいて転んだ瞬間、アレがはじめて動いた。
それまではなんの気配もなかったのに。
気付いた瞬間、考える間もなく体が動いたのであろうことは簡単に想像がついた。私だって、気づいた瞬間には足が動いたんだ。ピエリスがそうでないわけがない。
「……魔神様、魔神様。あなたの寵児が望みます。我が身を仮の器とし、この地に降り立たんことを。我が望みは、情報神様が眷属、諜報神様の愛し子の輪廻の輪への帰還を阻み、現し世への戻すことを望むものなり」
死相の見え始めたピエリスの顔のそばに這い寄ったフェリシアが現し世に引き戻さんとする祈りの言葉。
『無理だ』
『叶うはずがない』
言いかけた言葉が喉の奥に消えたのは、祈りの言葉が終わるのと同時に、胸元のペンダントから虹色の光が広がってフェリシアの全身を包み込み――光が消えたあと。いつもの彼女とは明らかに異なる空気をまとっていたからだ。
「――さて、フェリシアちゃんたっての頼みだからね。なんとしても叶えますとも」
静かに微笑みながら彼女が何事かを呟くと、ピエリスのまぶたが重そうな緩慢な動きで持ち上がる。姿形はピエリスそのものだというのに、その顔に浮かぶ表情がまるで違う。
「諜報神の仕事は、痛みの遮断・呼吸の確保・血流維持の三つだけど――愛し子の命を救うためだから、しばらく堪らえてね」
「承知」
短い返答に、堅苦しくしかつめらしい表情はやはりピエリスのものではなく――彼の体に別の人格が入っているのだと言うのは納得できた。
――愛し子だという噂は聞いていたが、上位神の一柱のものだったとは……
下位神のご加護を授かっているだけの私には、分不相応な相方だなとひとりごちる。分不相応だとて、相方を辞める気などないのだが。
「――薬神のお気に入り君は、コッチに来て。いい機会だから、人体の構造を教えてあげる」
既にボロボロになっているピエリスの体が切り開かれ、どこにどのような臓器がどんな形で収まっているのかを懇切丁寧に教え込まれた。
「キチンと頭に刻み込んで、今後に役立てるように」と言われたものの、きちんと覚えられたかと聞かれると、正直あまり自信がない。
なにはともあれ、すべての臓器と骨の復元が終わり、ピエリスの体が傷一つない状態に戻ったときには、安堵のあまりその場に座り込んでしまった。
「薬神のお気に入り君、ここへ」
「はい」
スッと背筋を伸ばし立つ女神の前に膝をつき、頭を垂れる。
「この度は、友を救っていただき――」
「礼には及ばない。私は、フェリシアちゃんのおねだりに応えただけだから」
礼の言葉を遮って、小さく首を振る気配。
「――あなたは、保護者としては力不足も甚だしい」
耳元でささやかれたその言葉に、肩が揺れた。
――言われずとも分かっている。
ただの事実だ。
とっさの時にピエリスのように体が動かない私では、フェリシアもグラジオラスも守ることは出来ない。
「だからね。もう一つ、強みをあげよう」
尊大さと慈悲深さを併せ持つ声音で、女神は囁く。
『先程の知識とともに、治癒の精霊を精霊を授ける』と――
「大丈夫。同じものは二つも要らないからね。君は君なりの牙を磨くといい。磨いた牙は、君自信を支える礎にもなるものだから」
女神が去ったあと、授けられた技術と魔法をよくよく考えて、私は、自分に求められたことを理解した――ような気がする。
※少しだけお休みして、次章は八月一日から再開します。
あわせて更新頻度も、1日おきに変更予定です。
ベアイーターの死骸から引っ張り出し、呼吸していることを確認したものの、あまりの状態の悪さに思考が止まる。今まで四年もの間一緒に行動してきて、この男が魔獣に後れを取るなんてことはなかったのに……
「フェリシア、さっきみたいに魔法で治せない?」
「どうだろう……?」
ついさっき、妹に治療してもらったばかりのグラジオラスはそう言ったが、この状態では無理だろう。
見た目で分かる傷は体中の骨折だが、おそらく、内蔵もボロボロだ。
――なんで、こんなことに……?
斡旋所の――それも、町で暮らしている子供が請け負える範囲の仕事を体験させるだけのはずだったのに、なぜ、こんな化け物がいた?
なぜ、なぜ、なぜ。
そんな言葉ばかりが頭に浮かんで消えていく。
「グラジオラス、フェリシア……」
『ピエリスに、別れを告げてやってほしい』
ただ、それだけの言葉が、のどに引っかかって口から出ない。
「ムリなんだね、クリナムさん」
「~っ! 大丈夫だよね、クリナムっ!?」
グラジオラスの問いに、首を振るしかない無力な己がうらめしい。
「ウソだっ!」
「――君達が無事だったんだ。ピエリスも、満足だろう」
フェリシアがつまづいて転んだ瞬間、アレがはじめて動いた。
それまではなんの気配もなかったのに。
気付いた瞬間、考える間もなく体が動いたのであろうことは簡単に想像がついた。私だって、気づいた瞬間には足が動いたんだ。ピエリスがそうでないわけがない。
「……魔神様、魔神様。あなたの寵児が望みます。我が身を仮の器とし、この地に降り立たんことを。我が望みは、情報神様が眷属、諜報神様の愛し子の輪廻の輪への帰還を阻み、現し世への戻すことを望むものなり」
死相の見え始めたピエリスの顔のそばに這い寄ったフェリシアが現し世に引き戻さんとする祈りの言葉。
『無理だ』
『叶うはずがない』
言いかけた言葉が喉の奥に消えたのは、祈りの言葉が終わるのと同時に、胸元のペンダントから虹色の光が広がってフェリシアの全身を包み込み――光が消えたあと。いつもの彼女とは明らかに異なる空気をまとっていたからだ。
「――さて、フェリシアちゃんたっての頼みだからね。なんとしても叶えますとも」
静かに微笑みながら彼女が何事かを呟くと、ピエリスのまぶたが重そうな緩慢な動きで持ち上がる。姿形はピエリスそのものだというのに、その顔に浮かぶ表情がまるで違う。
「諜報神の仕事は、痛みの遮断・呼吸の確保・血流維持の三つだけど――愛し子の命を救うためだから、しばらく堪らえてね」
「承知」
短い返答に、堅苦しくしかつめらしい表情はやはりピエリスのものではなく――彼の体に別の人格が入っているのだと言うのは納得できた。
――愛し子だという噂は聞いていたが、上位神の一柱のものだったとは……
下位神のご加護を授かっているだけの私には、分不相応な相方だなとひとりごちる。分不相応だとて、相方を辞める気などないのだが。
「――薬神のお気に入り君は、コッチに来て。いい機会だから、人体の構造を教えてあげる」
既にボロボロになっているピエリスの体が切り開かれ、どこにどのような臓器がどんな形で収まっているのかを懇切丁寧に教え込まれた。
「キチンと頭に刻み込んで、今後に役立てるように」と言われたものの、きちんと覚えられたかと聞かれると、正直あまり自信がない。
なにはともあれ、すべての臓器と骨の復元が終わり、ピエリスの体が傷一つない状態に戻ったときには、安堵のあまりその場に座り込んでしまった。
「薬神のお気に入り君、ここへ」
「はい」
スッと背筋を伸ばし立つ女神の前に膝をつき、頭を垂れる。
「この度は、友を救っていただき――」
「礼には及ばない。私は、フェリシアちゃんのおねだりに応えただけだから」
礼の言葉を遮って、小さく首を振る気配。
「――あなたは、保護者としては力不足も甚だしい」
耳元でささやかれたその言葉に、肩が揺れた。
――言われずとも分かっている。
ただの事実だ。
とっさの時にピエリスのように体が動かない私では、フェリシアもグラジオラスも守ることは出来ない。
「だからね。もう一つ、強みをあげよう」
尊大さと慈悲深さを併せ持つ声音で、女神は囁く。
『先程の知識とともに、治癒の精霊を精霊を授ける』と――
「大丈夫。同じものは二つも要らないからね。君は君なりの牙を磨くといい。磨いた牙は、君自信を支える礎にもなるものだから」
女神が去ったあと、授けられた技術と魔法をよくよく考えて、私は、自分に求められたことを理解した――ような気がする。
※少しだけお休みして、次章は八月一日から再開します。
あわせて更新頻度も、1日おきに変更予定です。
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