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はじめまして
しおりを挟むあの後、モリスとジョバンニの協力でヒーナス邸のシルビオがほとんど足を踏み入れない、シルビオのお祖母様の部屋を私の拠点として、荷物を運び込んだ。
シルビオの留守に、私がヒーナス邸に戻った時の使用人達の歓迎ぶりには驚いた。
そして、シルビオの子に会った。
シルビオと同じ、深みがある黄色みが強い金髪、翠緑の瞳の小さな赤ちゃん。
なんて可愛らしいんだろう。
乳母のレーネに教えてもらい、抱っこさせてもらった。
私の片腕でも抱けるほど軽く、温かくてミルクの匂いがする愛らしい生き物。
頬に触れれば、指を吸おうと口を寄せる様は血など繋がっていなくとも愛しさが自然と湧いてくる。
大丈夫、ちゃんとこの子を私は育てられる。
「この子の名前はもう決まってる?」
「旦那様が、“エルビオ”様と名付けられました。」
「・・・なんか…まんまで恥ずかしいわね…。
エルビオ、こんにちは。
私があなたの母親になるエルザよ。
これからこっそり貴方に会いに来ますからね。
貴方のお父様には内緒よ。」
エルビオの頬を指の背で優しく撫でた。
ここに案内してきてくれたジョバンニが、
「エルザ、シルビオはエルビオ様を“エル”と呼んでいる。多分、お前を呼んでいるんだと思う…」
「そう・・一度も“エル”なんて呼ばれた事はないけど、シルビオはそう呼びたかったのかもね…。
だったらそうすれば良いのに、バッカみたい、ねえ、ビオ。」
「お前もじゃねえかよ。」とジョバンニ。
「だって、エルって私を呼ぶなら、エルビオは同じじゃダメじゃない。
あ、ジョバンニ、例のアレは順調?」
「ああ、後は家具をいれるだけだ。」
それからは忙しい毎日になった。
母乳はあげられないから、おしめの交換や沐浴など、初めての子育ては日々勉強でクタクタになった。
シルビオは以前のようにフラフラ出かけないので、細心の注意を払った。
皆んなとの連携も取れてきていたが、エルビオの部屋にいる時にシルビオが急に来る事がある。
クローゼットに隠れるしかなかった、パールと2人で。
「ん?誰か他に人はいた?なんだかエルザの匂いがする・・・・気のせいか・・・気のせいだよな・・。」とシルビオ。
恐ろしい子・・・私の匂いって何よ!
香水なんか子供がいるのに付けてはいない。
石鹸?私の使ってる石鹸の香りを覚えてるの?
怖ッ!
クローゼットでパールを抱きしめた。
そんな事も何度か経験はしたが、シルビオは私がこの屋敷で生活している事に全く気付いていない。
一度、寝る前にエルビオの顔を見ようと、子供部屋に行った。
エルビオは眠っていた。
可愛い寝顔に癒される。
緩みきっていたその時、
子供部屋のドアが『トン、トトン』と“シルビオ接近!”の合図がなった。
ヤバヤバやばい!
急いでクローゼットに入ると、
「もうエルビオ様は寝てますよ、私が開けて様子を見ますから、ちょっと待ってて下さいよ、分かりましたね!」
と時間稼ぎをしてくれる声がした。
ジョバンニは私が隠れたのを確認したのだろう。
「エルビオ様は眠っていますよ。顔を見るだけにして下さいね。」
と言っているのが聞こえた。
静かに歩いてくるのが分かる。
すぐそこで寝ているエルビオのベッドに来て寝顔を見ているのだろう。
「エル、今日は何をしてたの?たくさん食べた?いっぱい眠れた?俺は…いっぱいお仕事をしたよ、褒めてくれるかい?
エルビオ、良い夢を見るんだよ。」
まるで私に語りかけるような言い方に唇を噛んだ。
また静かに歩いていく気配があり、パタンと静かにドアが閉まった。
クローゼットの中で、しばらく動けなかった。
久しぶりのシルビオの声。
赤ちゃん相手だからか、小さく、とても優しげに話すシルビオの声に泣きそうになった。エルビオに話しかけていたのか、私に話しかけていたのか、分からない。
こうして毎日話しかけているのだろう…。
それ以上考えると泣いてしまいそうなので、クローゼットから出て、隣りの部屋にいる乳母のレーネに声をかけ、廊下に誰もいないか確認してもらった後、すぐ拠点に戻った。
パールが待っていてくれて、
「エルザ様?どうされました?泣いたんですか⁉︎何があったんですか⁉︎」
クローゼットの中で聞いた事を教えると、
「シルビオ様って・・・なんか、バカ…ですけど、一途なのだけはちょっと尊敬します、ちょっとだけですけど。」
とパールが苦笑しながら言っていた。
ちょうどその頃に、モリスとジョバンニに頼んでいた事が終了したと聞き、私はその日から夜勤に出た。
給料なんか出ない。
ほんの1時間。
ボランティアのようなもの。
エルビオは少しずつ哺乳瓶からもミルクを飲ませるようにし、私が抱っこをしてミルクを飲ませる回数も増えた。
抱っこしてミルクを飲ませているという行為は、母性が溢れて止まらない、もうエルビオは私の子だと、着々と洗脳されていった。
なんだかお父様の思う壺のようだ。
夜泣きも昼間の散歩で減っていった。
時折、シルビオも抱っこして散歩していた。
遠くからチラッとしか見られないが、とても疲れているのが分かる。
だから今夜も私は夜勤に出る。
少しでもシルビオが眠れるように。
泣いて眠る事がないように。
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