王子と従者と私〜邪魔なのは私だった

jun

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“会いたい”

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父がシリルを殴った日から数ヶ月経った。
その間にシリルに会ったのは一度きり。
何度かお茶の誘いを受けたが、我が家に呼んだ一度きり。
シリルは私の好きな物を私が気を遣わない程度の量を持ってきて、私の体調を気遣い帰って行った。
学院でも会う事もなく、王子妃教育で王宮に行ってもシリルの事もケネスの事も見かける事はなかった。
月に一度の陛下や王妃様、王太子殿下、王太子殿下の婚約者のマリア様とのお茶会にシリルが出席する事もなかった。

あまりにもシリルへの疎外感が居た堪れなく王妃様に、
「私は気にしませんので、シリル殿下もお呼び頂いても構いません。」
と伝えると、
「気にしなくても良いのよ、今はあの二人は反省中だからほっときなさい。」とにこやかに言われたのでそれ以上は言えなかった。
こっそりマリア様が、
「ブリジット様の信頼を取り戻す為に頑張ってるらしいわよ」と教えてくれた。

私への信頼?と首を傾げたが、ウフフと笑ってそれ以上の事は教えてもらえなかった。

私は飛び級する為、特別に授業内容も変えてもらい、今は2年生の勉強をしている。
今学期合格すれば、新学期からは3年になる。
下手すると今学期で卒業出来るかもしれない。

エリザや他の友人達ともっと楽しんでいたかった。
でもやっぱり耳を塞いでいてもシリルとケネスの話しは聞こえてくる。
前ほどベッタリではなくなったらしいが、相変わらず仲睦まじいのだとか。
二人の仲の噂も聞こえるが、二人が勉強も剣の訓練も今までとは比べものにならないほど真剣に取り組んでおり、成績は上位を常に確保しているのだとか。

たまに放課後、2階の図書館の窓からシリルとケネスが騎士科の訓練場からシャワー室に向かっている所を見る事がある。
いつも隣りにいたケネスはシリルの斜め後ろを歩くようになった。
たまに振り返ってシリルがケネスに話しかける事があるが、ケネスはニコリともせず頷いている姿を見かける。
まるで本当の従者のようだ。
だから図書館によく通うようになった。
そこからなら誰にも気付かれずにシリルを見ていられるから。
最近は立ち止まる事が多い。
何かあるのだろうかと探すが、シリルが足を止める理由を見つける事は出来なかった。

ある日、いつもの図書館の窓辺に行くと、小さな黄色の可愛らしい花が一輪置いてあった。
周りを見ても誰もいない。

このままでは枯れてしまうと思い、司書の方に花がある事を伝えると、
「いつもあの場所にいるのは貴方なので、貴方にあげたかったかもしれませんね。
どうか貰ってあげてください。」と言われ、花を持ち帰った。

次も小さな花が置いてあった。
何度か続き、いつしか楽しみになった。
花を大事にハンカチで包み、帰りに茎にちり紙を濡らして巻いて家に帰ってから一輪差しに入れて屋敷中に飾っている。
ある日、いつものように花があった。
ふと花に意味はあるのではないかと思い、司書の人に花言葉の本はあるのかと尋ねると、

「気付くのが遅いですよ!全部“愛”に関する花言葉ですよ。」
と笑顔で教えてくれた。
「ちなみにどなたが置いているのか知っていますか?」と聞けば、
「もちろん!誰にも取られないように見張っていますし、美味しいお菓子の口止め料も貰っていますから!
多分そろそろヒントをくれますよ、お楽しみに!」と言った後は何も教えてくれなかった。

ヒントって何?と思いながら帰った。
次の日図書館に行くと、花の代わりにカードがあった。
そのカードには“会いたい”と一言だけ書いていた。
それだけで分かった。
花を置いていたのはシリルだ…。
カードを胸に抱き、窓から下を覗くとシリルがこちらを見上げていた。
ケネスは近くにいなくて一人のようだ。
久しぶりに正面から見たシリルは相変わらず綺麗だが、男らしくなっていた。
なんだか泣きそうになった時、シリルが何か喋っている。
え?と思い、よく口の動きを見ると、

“会いたい”

と言っていた。
私も会いたかった…でも会いたいなんて言える立場ではないと思い、我慢していた。
嫌がらせの最中なのだからと必死に我慢して、でも少しだけと思いこの場所を見つけた。

泣き顔を見せたくなくて急いでしゃがみ込んだ。
切なくて、苦しくて、声を殺して泣いた。
すると近付いてくる足音が聞こえ、私の前まで来ると、
「一人で泣かないで、リジー…」
と会いたかった人の声が聞こえた。
シリルは私を立たせた後、ギュッと抱きしめてくれた。
「我慢出来なかった…何度も上を見上げようか迷った…一度でも破ったら次はもっと会いたくなるからずっと我慢してた…でもリジーに会いたくて…次のお茶会の前借りって事で今日は見上げようって決めてた。
顔を見るだけって思ってたのに、リジーが泣きそうになってたから、つい来ちゃった…ごめん…」と小さな声で抱きしめながら話す久しぶりのシリルは私が大好きだった香水ではなく、私が使っている香水の香りだった。
「グス…シリル…香水…変えたの?」

「うん、会えないからせめて香りだけでもと思った。嫌だった?」

「プッ…何それ、女性モノの香水なのに…勘違いされちゃうよ、ケネスに。」と言うと、
「怒るわけないよ、アイツ好きな人いるから。」とあっけらかんと話すシリルに、「へ⁉︎」と間抜けな返事をしてしまった。

「こうしてリジーに会ってるのがバレると、父上にまた罰が増やされるからもう行くよ。
リジー、たまにお茶に誘ってくれると嬉しい…。少しの時間でも良いから…」
と私を一度強く抱きしめた後、走って図書館を出て行った。

あっという間の出来事に呆然としていると、司書のお姉さんと目が合った。
口パクで「良かったね」と言った後、良い笑顔で親指を立てて何度も頷いていた。
一部始終を見られてた事に気付いて恥ずかしくなり、私も急いで図書館を出た。

馬車まで走り、乗り込んでからさっきの出来事を思い返すが突然だったし、情報が多すぎて頭が混乱していた。

持ったままだったカードを見た。

たった一言だけのカード。

それでも今まで贈り物の中で一番の宝物になった。


私もシリルに“会いたい”。







*************************
最初に置いてあった黄色の花は、キンセンカ、別名「カレンデュラ」をイメージしています。キンセンカの花言葉は「別れの悲しみ」「寂しさ」「静かな思い」ですが、黄色のキンセンカは「変わらぬ愛」「献身」「乙女の姿」です。
ちなみにシリルは図鑑を見て「変わらぬ愛」、これだ!と決めたと思っていて下さい。
これからも学院編は続きますし、てんやわんやの3人ですが、応援して頂けると嬉しいです。






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