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番を殺しかけた日からの地獄
しおりを挟むシリル視点
夏季休暇に入ってすぐ討伐に向かった。
拠点作りを済ませた後、討伐が始まった。
リジーから貰ったアミュレットを俺もケネスも付けていた。
ケネスは泣いて喜んでいた。
まだ接近禁止だった頃、図書館からリジーがケネスを呼んで、クッキーを投げて寄越し、お疲れ様とケネスに微笑んでくれたリジーを見たケネスはあの後大変だった。
泣きながら喜んでいた。
「ブリジット様が…俺に…また、クッキーを…くれた…笑ってくれた…」と同じ事を繰り返し繰り返し言いながら泣いていた。
接近禁止が解除されてからは以前のようにケネスにも話しかけ、楽しげな姿が見れるようになった事が何より嬉しかったようだ。
だからリジーから貰ったアミュレットが原因でケネスが怪我するなんて考えてもなかったし、執拗に俺とケネスを襲う魔獣に何かおかしいとは思っていたが、まさかそのアミュレットが魔獣寄せの効果のあるものだなんて想像もしていなかった。
なんとか魔獣を倒したが、熱が溜まりケネスに処理してもらっていたその時に魔獣が襲ってくるとは思わなかった。
真っ裸の俺達は咄嗟に動けず、ケネスの背中を魔獣の爪が引き裂いた。
俺はすかさず枕元に置いていた剣で反撃するが、熱が散らして切れていない為、力が入らなかった。
団長が来てくれて何とかなったが、来るのが少しでも遅かったら危ないところだった。
俺とケネスを別のテントに運び、団長が俺達のテントを検分していた時、また魔獣が襲ってきた。
他にテントはあるのに俺達がいたテントだけを襲う魔獣に団長が、
「魔獣寄せがあるのかもしれない」と言い、探すと俺達のアミュレットだった。
厳重にアミュレットを封印し、それを持って俺とケネスだけ先に王宮へと帰った。
俺は熱が溜まり興奮状態だったが、ケネスから離れなかった。
ケネスは魔獣の毒に苦しんでいたが、解毒剤や化膿止めの薬を塗り、飲み薬も飲ませると息苦しさも無くなったようで安心した。
俺は熱が溜まり過ぎ興奮状態で、誰彼構わず殺気を放っていた。
そのうち思考も殺意が増し、ケネスを殺そうとしのは誰だとそればかり考えていた。
フゥーフゥーと肩で息をし、誰も俺の部屋には入れなかった。
そんな時、寝室のドアが開いた。
そこにいたのは俺とケネスにアミュレットをくれたリジーが立っていた。
頭では分かっている、冷静な時ならリジーが悪いんじゃないと言っていた。
なのに俺はリジーの首を絞め、罵声を浴びせた。
やめろと思っても止まらない。
兄上や騎士達に押さえつけられても罵声を抑える事は出来ず、リジーを殺すとまで言ってリジーは意識を失くした。
俺はベッドに縛り付けられ、娼婦に跨られ、無理矢理射精させられた。
次に目覚めた時に見た母と兄上の顔は忘れられない。
「シリル…どうしてブリジットを殺そうとしたの…あの子がどんなに貴方達を好きか知ってるだろうに…そんなにケネスが大事ならお願いだからブリジットと婚約を解消して頂戴…あんなブリジット見てられないわ…」と泣く母。
「済まない…済まなかった、シリル…俺がブリジットを連れて行かなかければ、こんな事にはならなかった…済まない…」と泣く兄。
最初何を言ってるのか分からなかったからキョトンとした。
そのうち思い出した、俺が何をしたのかを。
それから何度もリジーに会わせて欲しいと頼んだ。何度も何度も。
お願いしますと土下座もした。
だが、会わせてもらう事は出来なかった。
父が、
「ブリジットは男が怖いらしい…。私、サーシャ、あの時お前を押さえつけた騎士達、ブリジットの家族以外は駄目だ…。
身体の震え、動悸、過呼吸、号泣、それにお前に喉を潰される直前だったから声も今は出せない。
それにお前の名前が出るだけで発作が出る。
ケネスも同じだ。
だからブリジットに会うのは不可能だ。
いつ治るかも分からない。婚約は保留にした。」
俺は何もする気がしなくて部屋に篭もった。
ケネスは自分の部屋に戻ったので、今は俺一人だ。
アミュレットはリジーと同じクラスの侯爵令嬢が人を使い、店の店主を脅しリジーにあのアミュレットを買わせたらしい。
あんなに俺達を心配して、急いで買いに行き、態々学院まで戻ってきてまで渡しに来てくれた優しいリジー…。
無事に帰ってきてと泣きそうな顔で言っていたリジーのあの細い首に、俺は喉を潰す直前まで強く絞めた。
恐らくリジーは俺達が心配で見にきたのだろう、なのに殺されかけたのだ…俺に。
会わす顔など無いのは分かってる…それでも震えている身体を抱きしめ背中を撫でてあげたい…
泣いてる涙を拭ってあげたい…
何でもしてあげたいのに俺が1番リジーから遠い場所にいる。
同じ王宮にいるのに遠い。
ケネスは俺の話しを聞いてショックで熱を出した。
その後俺は会っていない。
それからの俺は淡々とした毎日を送った。
学院にも通ったし、討伐にも行った。
執務も熟したし、訓練もした。
学院でエリザ嬢に謝られた。
自分が侯爵令嬢を煽ってしまったせいだと泣くのを堪えながら頭を俺に下げた。
誰のせいでもない、全部俺のせいだから。
俺がケネスを学院でなんか抱かなければリジーは飛び級試験なんか受けなかった。
飛び級で一つ上のあんな女に目をつけられる事もなかった。
俺の番でなければ婚約もしてなかっただろう。
ライアンみたいな男の婚約者になって幸せになってただろう。
全て俺のせいで学院に入ってからリジーは楽しい思い出なんて作れなかった。
王子妃教育と勉強、痩せてしまって落ちた体力を戻す為、体力作りや食事も以前とは違った栄誉重視の献立で、好きなものを食べる事も出来なかった。
俺さえいなければ…。
俺は眠りもせず執務や学院、訓練を続けた。
そして倒れた。
自室のベッドで目が覚めた時、ケネスが無表情で俺を見ていた。
リジーに会えなくなってからの討伐後の処理はケネスは淡々と処理してくれたが、一言も話さなかった。
従者として俺の後ろにいても必要以上に話さなくなった。
俺も何も話しかけないのだが。
そんなケネスが俺を見ていた。
「俺が怪我して熱を処理出来なかったとしても、娼婦でも何でも呼んで処理するだけで良かったのに、お前はそれを怠った。
その挙句、あんなに俺達を心配してくれたブリジット様を殺そうとした。
今では外に出る事も、声を出す事も、食事を取ることも、眠る事も出来ない状態だ。
その上、男が怖くて誰も近付けない。
お前と俺の名前を聞いただけで、震えて、泣いて、過呼吸を起こす。
謝る事も、慰める事も、顔を見る事も出来ない。
なんで俺なんかより、自分の身体を優先しなかったんだよ…俺は…俺が死んでブリジット様に泣いてもらった方が幸せだった…助かってもこんなならあの時死ねば良かった…」
と言ってケネスは泣いた。
俺も泣いた。
俺もこんな風になるならあの時魔獣に殺されたかった。
秋も深まった頃リジーが侯爵家に帰ることが決まった。
リジーからは見えない場所から何度か庭園を散歩している姿を見つめた。
以前よりも痩せて、歩くのもゆっくりとしか歩けないような姿に大声を上げて泣いた。
鎮静剤を打たれて、眠ってる間にリジーは侯爵家に帰って行った。
ケネスも俺も筋肉を落とさないよう訓練は続けていたが、眠れてないから目付きはどんどん悪くなって誰も寄ってこなくなった。
ライアンが何かと俺達に気を遣い、周りのフォローをしていたが、ライアンを気遣う余裕はなかった。
俺はとにかくイライラしていた。
そして俺とケネスは北に向かっていた。
あの女に会うために。
殺すためでは無い。ただいつか殺すつもりだとだけ伝えたかった。
修道院に着き、あの女を呼んでもらった。
女は俺とケネスが来た事に喜んでいたが、俺達の様子がおかしい事に気付くと、怯え出した。
「俺は新学期に言ったな、リジーに手を出したら潰すと。
なのにお前は手を出した、それも最悪な形で。俺とケネスはお前を忘れない。
ずっとお前を狙う事にする。
お前が反省しようが関係ない。
生まれ変わっても、死んでも、お前を狙い続ける。
俺はお前を死んでも許さない。
分かったか、お前が死んでも、生まれ変わっても許さない。」
「俺の大事な人をお前は壊した。
お前も存分に壊れろ。身体も、心も、魂さえも壊れてしまえ。
俺もお前を許さない。
お前が死んで地獄に行っても追いかけ、二度と生まれ変われないほど、魂も何もかも刻み尽くしてやる。」
失禁し震えて泣く女を残し、俺達は帰った。
多分この時の俺もケネスも壊れかけてたんだと思う。
だって番を殺しかけたのだから。
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