帰らなければ良かった

jun

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疲れた

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王都から西のナーディアは早馬で三日はかかる場所にある。
そこに指名手配されている盗賊団のアジトがあるという情報が入り、ファルコン騎士団の選抜隊とイーグル騎士団の選抜隊で十日前に王都を出発し、無事全員捕縛する事が出来、予定よりも早く帰ってこれた。
今回の任務には隊長がメンバーに入っていたので、副隊長のブライアンは居残りだった。

私、シシリー・フォードはファルコン騎士団の一番隊リーダーだ。
副隊長のブライアン・ハワードは私の婚約者で、三ヶ月後には結婚式を控えて、今は新居に移り住んでいる。
早く顔が見たくて、書類仕事を急いで終わらせ、夕飯の買い物をしながら献立を考える。

ライはチキンが好きだからトマト煮込みにするか、チキンのソテーにしようか…

久しぶりに会える恋人を考えると、自然と笑顔になってしまう。

買い物を済ませ、急いで自宅へと急ぎ、玄関前で、驚かせる為に静かにドアを開け、家の中に入った。
今日は非番で休みなので家にいるはずなのに物音はしない。
寝てるのかなと思い、足音を立てないようにリビングルームに入ると、テーブルの上はグラスや食事で使ったであろう食器が置きっぱなしだ。
それも二人分…。

買った物をキッチンに置いた後、寝室へ向かう。嫌な予感がする…

そんなはずはない…マイクが遊びに来て飲み過ぎて寝ているだけ…。

仕事でもこんなにドキドキした事がないほどの鼓動だ。

ドアの前で人の気配がある事は分かった。

音が出ないようにドアを開けると、


いつも二人で寝ているキングサイズのベッドにライは寝ていた…裸の女と抱き合いながら。


私の気配に気付いたのか、ベッド脇に置いてあった愛用の剣を即座に手に取り、真っ裸のまま戦闘態勢をとったライと目が合った。

一瞬、キョトンとした後、真っ青になったライは、

「シシー…なんで…」

散乱した服や下着、そして独特の匂い…。

直様、寝室を出て任務の為に持っていっていた荷物と剣を持ち、家を飛び出した。

後ろでライが叫んでいたが、無視して走った。


頭が真っ白で何も考えられない。
ひたすら走って、気付けば騎士団本部にいた。
フラフラと歩き、途中、同僚に声をかけられても何も答えず、団長の執務室へと向かった。

しばらく執務室の前で佇んでいると、中から
「入れ」と言われ、ドアを開けた。

「なんだ、シシリー、忘れ物か?お前大丈夫か、顔色悪いぞ、青じゃなくて真っ白だ。どうした、何があった!」

ファルコン騎士団の団長、エドワード・セイガルが近づいてきた。

「帰ったんじゃなかったのか?ブライアンはどうした?」

“ブライアン”の言葉に思わず、ビクッと反応してしまい、さっきの二人の姿を思い出し、吐き気がした。

必死に吐かないよう堪え口をおさえた。
団長が、
「吐きそうなのか?」と言うと、私を仮眠室のトイレへ連れて行ってくれた。

トイレで胃の中の物を吐き出し、吐くものがなくても吐き気は止まらない。
何度もあの場面が浮かび、涙が込み上げた。

二人で選んだベッド…
これなら狭くないねと、
子供が生まれても親子で寝れるねって言ってたのに…。
幸せな未来しか想像してなかったのに、どうして…。
よりにもよって新居の夫婦の寝室のベッドで私以外の女と…。

「うっ・・う…なんで・・・うっ・・」

「シシリー…大丈夫か…?」

そうだ…ここは団長の仮眠室だった…。

「・・・すみません、今出ます…」

涙を拭き、トイレから出ると心配そうに団長が立っていた。

「シシリー、話せるか?」

「はい…」

執務室のソファに座り、向かい側に座った団長にさっき見た事を説明した。そして、

「団長…移動の話しを早める事は出来ますか?」

夫婦は同じ騎士団に居られない。
だから来月からはイーグル騎士団への移動が決まっていた。

「それは大丈夫だが、まさかブライアンがな…」

「今は名前を聞いただけで吐きそうです…団長…。」

「すまんすまん。
家には帰れんだろうし…今夜は実家に帰るか?それとも寮に泊まるか?」

「寮に泊まります…明日からは、あの人が出勤してくるだろうから、朝早くに寮を出て、宿屋にでも泊まります。実家には、あの人が来そうなので帰りません。
明日からの一週間の休み…キツイです…。
一人になるのが怖いです…。」

「これからラルスに移動早められるか聞いてくる。俺が戻るまでここにいろ。仮眠室で寝ていてもいい。ミッシェル呼んでくるか?」

「ありがとう…ございます…。呼んで頂けたら助かります…。」

「分かった。」

そう言うと、団長は執務室から出て行った。


一人になると、裸で抱き合って眠る二人の姿が浮かび、トイレへと駆け出した。

吐くものなどないのに吐き気が止まらない。

今日ではなく明日帰れば良かったな…。
あんなモノを見る事もなかったのにな…。

いや、知らずにあのベッドに寝ていたら…

「ウエッ…」

ダメだ…気持ち悪い…。
もうあの家には帰れない。

「もう嫌だ…助けて…誰か・・・」

吐きながら泣いて、そして意識をなくした。














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