帰らなければ良かった

jun

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媚薬

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ナーディアに指名手配されている盗賊団が潜伏しているとの情報が入り、ファルコン、イーグルの団長、他精鋭を数名引き連れ出立したのは五日前、後数日で帰ってくるだろう。
そのメンバーに俺の婚約者のシシリーも入っている。
俺は副団長として、留守を預かっていた。

その日の仕事を終え、遅い夕食代わりのチーズとパン、ワインで済まそうと準備している時に来客のベルがなった。

こんな時間に誰だ?

玄関を開けると、シシリーの友人で近くの定食屋のベルが立っていた。

「ベルさん、こんな時間にどうしたんですか?シシリーはいませんが…」

「ええ、任務でナーディアに行くと聞いています。ブライアンさんが一人なので食事も適当だからたまに食事を持って行ってあげてと頼まれていましたので。
もう食事は済んでしまいましたか?」

「いえ、今から食べようかと思っていました。」

「それなら丁度良かった。たくさん、持ってきたので食べて下さい。
少し冷めてしまったので、私温めますから。」

「わざわざ、すみません。シシリーってば俺を何も出来ない子供だと思ってるんだ。
ありがとう、温めるくらいは自分で出来ますから。」

「白身魚のムニエルや、グラタンもあるんです。火加減が難しいので、私にやらせて頂けますか?美味しく食べて欲しいので。」

確かに火加減が難しそうな料理だ。
しかし…
迷っていると、
「失礼しま~す」といって家の中に入ってしまった。

ハア~と溜息がもれてしまったが、折角シシリーが気を遣ってくれたのならとキッチンへ案内した。

「ウワァー素敵なお家ですね~ここが二人の新居なんですね~羨ましいです、素敵な旦那さんと素敵な家に住めるシシリーさんが。」

なんとなく棘があるような言い方が嫌で、
「やっぱり自分で温めますから、今日はありがとうございました。」
と少しキツめに言ったのに、

「いえいえ、お気になさらず。じゃあ、キッチンお借りします。」
と言い、勝手に温め出した。

ハア~早く帰って欲しい…。

「ブライアンさんは伯爵家の次男さんなんですよね?」
とムニエルを温め、オーブンにグラタンを入れながら聞いてきた。

「まあ、そうです。ですが、兄がいますので私はただの騎士ですけどね。」

「それでもやっぱりどこか品があって素敵です。平民とは違いますよね~」
と、どうでもいい話しを延々している。

ようやく温め終わったのか、テーブルに運び出した。

よく見ればすべて二人分だ。

ん?

「あれ?二人分あるけど?」

「せっかくなので私も食べようかと思って。」

「え?どうして?」

「一人で食べるより二人で食べた方が美味しいじゃないですか~」

この人の家の定食屋にはシシリーと何度か行った事があったが、店での態度と今の態度が違いすぎる。
シシリーがいる時はシシリーがこのベルという娘と話しているので、俺はほとんど話した事はない。
シシリーも特別仲が良いという感じではなかった。

「さあ、冷める前に食べましょう。私、ワインも持ってきてるんですよ!」

この娘が持ってきたワインは飲みたくなかったので、
「今、家にあるワインを開けてしまったところなのでそちらのワインは持って帰って下さい。」

「そうなんですね、じゃあそのワイン、私も頂いて良いですか?」

早く帰ってほしくてワインをグラスに注ぎ、さっさと食べてしまおうとがっつくと、なんだか身体が熱くなってきた。

「ブライアンさん、どうしたんですか?暑いんですか?暑いなら脱いでもいいですよ…」

「いや、なんだか…少し…」

それからは誰かが俺を呼び、その声はシシリーだと思い、

「シシー…助けて、シシーを抱きたい…」

シシリーの服を剥ぎ、自分も服を脱ぎ、それからはただひたすらにシシリーを抱いた。
何度も何度も精をシシリーの中に出して、朝方ようやく満足して眠った。

ふと人の気配を感じ、いつも置いているベッド脇の剣を持ち、戦闘態勢をとった先に立っていたのは、昨日抱き潰したはずのシシリーだった。

そうだ…シシリーはナーディアに行っていて、ここにいるはずがない…。じゃあ、隣で寝ているのは…

「シシリー…どうして…」

シシリーは真っ青な顔で一言も発さず寝室を出て行った。

俺は思考が追いつかず、でも頭は昨日のシシリーとの情事をしっかり覚えている。
隣りでぐっすり寝ているのは、ベルだ…。

シシリー…

服を急いで着てる間も隣りにいるだろうシシリーに、
「シシリー、待って、聞いて、シシリー!」

バタンとドアの閉まる音が聞こえた。
急いで後を追いかけた。

玄関を開け、見渡したがシシリーの姿は見えなかった…。
とにかく追いかけなくては。

その前にあの女に避妊薬を飲ませなくては。
そしてその後尋問だ。

家に入り、あの女が寝ている寝室に入り、ベッドを蹴り、

「とっとと起きろ、お前が俺に薬を盛ったことは分かってる。さっさとこの薬を飲め!」

サイドテーブルの引き出しから避妊薬を出して、口に押し込む。

「ぐっ…ウッ…」

口が開かないように顎をおさえる。

嚥下したのを確認し、口を無理矢理開けさせ、口の中を確認する。

「服を着ろ。今すぐだ。これから騎士団に行く。」

「いや、どうして!昨日はあんなに愛してくれたのに!」

「お前は俺に薬を盛った。媚薬の使用は禁止されている。立派な犯罪だ。」

「でもあなたの子種をたくさん貰ったわ!」

怒りで身体が震える…
こんな女を俺はシシリーだと思い、何度も何度もイカせ、俺の精を吐き出した…。
吐きそうだ…

「避妊薬を今飲ませた。48時間以内に薬を飲めば受精しない。」

「・・・・」

「俺はお前を決して許さない。そしてこの事で俺が騎士団に居れなくなったとしてもお前に必ず償ってもらう。逃げても誤魔化しても俺は必ずお前を地獄に堕とすまで許さない。」

「ずっと好きだったのよ!あの人と付き合う前からずっと!」

「だからなんだ。好きなら何しても良いのか?俺はお前のような女が死ぬほど嫌いだ!」

「そんな…だって…私に微笑んでくれたじゃない…」

「早く服を着ろ。その後拘束する。」

ノロノロと服を着出した女を後ろ手で拘束し、話せないように口にタオルを噛ませ、猿轡した。

急いで、近くの警備隊に連絡し、家に来てもらい、騎士団に連れて行ってもらった。
制服に着替え、騎士団に向かった。
シシリーは実家には帰ってないだろう…
俺が行くから。
無意識に行くのは騎士団。
おそらく団長の所だ。

急がなくては。

ごめん、ごめん、シシー、ごめん…。
頼むから話しを聞いてくれ…


シシリーの真っ青な顔が頭から離れない…


今行くから。
泣かせてごめん…
あんな顔させてごめん…


泣きそうだ…
俺に泣く資格はない…
でも、溢れてくる涙を止める事も出来ずひたすら俺は走った。













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