帰らなければ良かった

jun

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引っ越し



三人で兄さんのいる部屋に行く為団長がいる取調室の前を通った。
中からの殺気が廊下まで漏れ出ていて、護衛で立っている二人は顔色が悪い。

中は大丈夫だろうか。
ナタリアにこの殺気を向けているのだろう。
あの女はこれくらいやらないと聞きたくない事をベラベラ喋っていただろう。


兄さんがいる部屋へ行き、ミッシェルが兄さんへの聴き取りをした。

聴き取りが終わり、ヤコブが泣きながら謝っていた。
俺が、ヤコブは何も知らないし、情報漏洩もしていなかった事を説明すると、
「お前が捕まるような事をしていなくて安心した。良かった。」
とヤコブを抱きしめながら、そう言った。

ナタリアの処罰はまだ決まらないが、少なくとも今日は帰れないだろう。
なので兄には帰ってもらった。

ヤコブが姉に会いたいと言ったが、俺もヤコブも関係者だ。
それは出来ないと俺とミッシェルに言われ、ようやく諦めた。

「ブライアンも帰っていいわよ。シシリー、待ってるんでしょ。貴方達の調書は急ぎではないし、粗方聞いてるしね。」

ミッシェルがそう言ってくれたので、団長に帰る事を伝えてもらい、シシリーの実家へ帰った。


かなり遅くなってしまった。
出迎えてくれたこの家の執事にシシリーがいる部屋に案内してもらい、部屋へ入ると、案の定、心配していたらしく駆け寄ったシシリーが、
「何があったの?」
と聞いてきたので、ナタリアが元凶だったと説明し、今ナタリアは騎士団で団長の尋問を受けていると伝えた。

「ナタリア様に嫌われているのは知っていたけど、それほど嫌われてるとは思わなかった…。
そっか…ナタリア様が全部誘導してたんだね…。
そんなにライの事が好きなのに、どうしてライが傷付く事をしたんだろう…私が嫌いならフランシス様達のように直接私を狙えばいいのに。
回りくどい事をしてるから私ではなく大好きなブライアンを傷付ける事になるのよ!
許せない、絶対許せない!
ベルもカールもフランシス様達も、私やライの事が好きだから、好き過ぎてやってしまった事だって分かる。
でもナタリア様の事は理解出来ない!
そんなに好きならライにちゃんと謝ったの?
ライがこんなに傷付いたのに、あの人はちゃんと謝罪したの?」

「そういえば謝罪はなかったな。兄さんに離婚と言われて謝るなんて考えなかったみたいだな。ま、謝られても許さないし。
正直もう顔も見たくないし、声も聞きたくない。」

「ライ、私、許せない。ライに薬を飲ませたベルも許せないけど、ナタリア様の事は絶対許せない。なんでライの事好きなのにライを傷付けるの?あの人さえそんな事しなければ、誰も何もしなかったかもしれないのに!
悔しい・・・悔しいよ、ライ…」

悔しかった。許せなかった。怒りでどうにかなりそうだった。
自分は何もせず、周りを誘導してこんな事するなんて、許せない。
直接手を下したベルやカール、フランシス様の処罰は厳しいものだろう。
それをさせた彼女はその処罰よりは軽いものになるだろう、手は出していないのだから。
一番悪質なナタリア様の罪が軽いなんて許せない。
悔しくて涙が止まらなかった。

ブライアンが抱きしめてくれたけど、涙が止まる事はなかった。

その日は気付けば眠っていて起きた時にはベッドで寝ていた。
隣りにはブライアンも寝ていた。
黙ってブライアンの寝顔を見ていた。

たった二日しか経っていないのに、もう何日も経ったような気分だ。

盗賊団の捕縛に向かって帰ってくるまでは充実した幸せな日々だった。

まさかこんな事になるなんて想像もしていなかった。

あのブライアンが裸でベルと抱き合っていた姿や脱ぎ散らかした下着や服、匂い…

思い出すと辛くて未だに震えそうになる。

引っ掻き傷をたくさんつけたブライアンの背中は今は私がつけた傷で、どれがベルのかは分からない。
キスマークもブライアンにはどれがベルがつけたものか分からないだろう。

それでも私は覚えている。
どこにベルがつけていたかを。

きっと忘れない。
それほどショックだったから。
日々の生活の中で記憶は薄れていくだろう。
それでも、時折思い出すだろう…あの光景を。

ブライアンも同じだろうと思う。
この美しい人も私にばれないように、あの日のことを思い出し、隠れて苦しむのだろう。

だから、どんなに苦しくても辛くてもこの人の側にいる。
あの辛さが分かるのは私だけだと思うから。
そして私の苦しさが分かるのはこの人だけだ。

ブライアン…ライ…私の愛する人…

絶対私が貴方を守るから。


そんな事を思いながら寝顔を見ていたら、
急に抱きしめられた。

「どうして泣いてるの?」

「ライ、起きてたの?」

「今さっき起きた。目を開けたらシシーが泣いてるから驚いた。」

「ライの寝顔があんまり綺麗で涙が出た。」

「なんだよ、それ。だったら毎朝俺なんか号泣するしかないだろ、シシーの寝顔は女神のようだからな。」

「フフ、なにそれ。」

「ほんとにどうして泣いてたの?俺には言えない?」

「ううん、言えるよ。隣りにライが寝ていてくれて良かったって思ったの。
昨日泣いてからの記憶がなかったから」

「泣き疲れて眠っちゃったからな。
俺もシシーの寝顔をずっと見てから眠った。」


少しイチャイチャしてからシャワーを浴びて着替えてから食堂に行った。

お父様とお母様に二人で挨拶し、朝食を食べた後、本格的な引っ越しの準備に取り掛かった。

使用人を連れて、あの家に着いた。
昨日、固めて置いた証拠の品は警備隊に来てもらい渡した。
必要な物を馬車に詰め込んでもらい、家具は全て廃棄してもらう事にした。
食器もカーテンも絨毯も捨ててもらった。
持っていく物はかなり少ない。
馬車一台で済んだ。

掃除は使用人に任せた。

あんなに幸せが詰まっていたこの家は、なんの名残惜しさもない家となった。

馬車に乗り、新居へと向かった。

荷物を新居に運び入れてから使用人達には帰ってもらった。

ベッドもソファもないので二人で家具屋へ行って選んでいると、また例のフランシス様が絡んできた。

「イザリス公爵令嬢、ちょうど良かった。
近いうちに騎士団から呼び出しがあると思いますので。」

「どうしてですの?」

「それは騎士団に来た時にでも説明致しますので。そして、今後シシリーに何かしてきたら、俺はあんたを許さない。今も顔も見たくないほど嫌悪している。
あんたがシシリーに何をしてきたか、とことん調べる。証拠があろうがなかろうが、俺はあんたを死ぬまで許さない。
それでは失礼。」

今までは無視するだけで、こんなに嫌悪感を出していなかったブライアンの態度にフランシス様は何も言えず震えていた。

私達は無言で歩き出し、フランシス様の姿が見えなくなってから漸く、

「あーースッキリした!」
とブライアンが言った。

その後は楽しく買い物をした。

たくさんの買い物をして、新居に帰った。
大型のものは夕方に届くらしいので、私達は買ってきた昼食を食べながらゆっくりした後、備え付けの家具に荷物を入れていった。

あっという間に夕方になり、ベッドやテーブル、ソファ、絨毯などが運び込まれた。

ベッドにシーツやカバーをつけて、今夜の寝場所を確保した。

夕食後、二人でお風呂に入ったが、二人ともクタクタで、すぐに眠ってしまった。

二人とも何も考えずに眠ったのは久しぶりだった。












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