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捜索
しおりを挟むブライアン視点
男爵邸は小さいが、庭は花の手入れも綺麗にされて、古いが、趣きのある家だった。
「ファルコン騎士団のブライアン・ハワード副団長だ。何方かおられるか!」
と訪を告げるが、返事がない。
「誰もいないのか!」
そう言った時、中からガタンと音がした。
シックス副団長達と顔を見合わせ、頷く。
みな、剣に手を添え、戦闘に備えた。
「済まないが、開けさせてもらう」
と言い、ドアを蹴破った。
中に入ると、縛られ、猿轡をされた男爵が転がっていた。
急いでロープを切り、猿轡を外す。
「妻が攫われました!娘も狙われております!どうか、妻を、娘を助けてください!」
「落ち着け。娘は…騎士団で保護している。奥方は誰に攫われた?」
「分かりません…覆面をした男達が突然、家の中に侵入してきました。
妻を人質にし、私に封筒に娘の名前と私の名前を書かせた後、私を殴り、縛った後、妻を連れ去りました。使用人達は厨房で縛られているようです。
どうか、妻を助けてください!」
「何か覚えていないか?何でも良い、服装でも、髪の色でも、身に付けていたもの、落としていった物、何かないか?」
「本当に突然で…そういえば、男達が“奥様が急いでいる、早く連れて行かないと旦那様のように薬漬けにされてしまうぞ”と言っていました。後は何も…」
「そうか、よく頑張った。後は俺達に任せなさい。」
「お願いします、どうか妻を!」
俺が男爵の話しを聞いている間に、シックス副団長と他の二人が、厨房にいる使用人達を解放し、押し入った男達について何か覚えている事はあるかと聞いてくれていた。
「私…覆面の、一人の手に…傷が、あったのを…見ま…した。手の…甲に、こう、斜めに、傷が…あり、ました…。
それで、先日…母の薬を…買いに、行った時…その傷、と…同じ…のを見ました…」
とメイドの一人が震えながら言った。
「誰か覚えているか?」
「誰かは…分かりません。ですが、その人がお店の人と何か揉めていた時、“ハア~、ですから、領収書には頭痛薬、宛名はジュリアーナ・イザリスと言っているでしょう!”と言っていました。なので公爵様の所の方なんだなと思いました。」
「ジュリアーナ・イザリスと言ったんだな、その男は?」
「はい、怒っていたのでハッキリ大きな声で言っていました。誰もいないと思っていたのか、私を見て、驚いていました。」
「それはいつの事?そして店の名は?」
「えーと、三日前です。お店はパブロフ商会です。そこは薬の種類が多いので。」
「分かった、ありがとう。」
シックス副団長と頷き、男爵と使用人を騎士団で保護し、怪我の治療後、使用人は帰宅させ、男爵はそのまま騎士団で待機してもらう事にした。
男爵家の馬車に全員を乗せ、急ぎ騎士団へ戻った。
騎士団の応接室に男爵達を案内し、そこでしばらく待ってもらうよう伝え、団員二人に怪我の処置を頼み、ラルス団長の所へシックス副団長と戻った。
男爵とメイドの話しを報告すると、
「公爵は薬漬けにされていたのか…いつから…どうして…考えても分からんな。
後は手の甲に傷の男…いたような気がする…クララと婚約していた頃、見た事がある…。誰だった?何度か見た傷…傷…
あ!御者だ!クララが馬車から降りる時にクララに手を出していた時だ!
そうだ、確かに傷があった!
ブライアン、その店は?」
「パブロフ商会です。」
「パブロフ商会…ナタリアの行きつけだ。」
「まさか夫人の事もナタリアが⁉︎」
「まだ分からない。だが、店を紹介したのはナタリアだろう。いや、ひょっとしたら夫人がナタリアに紹介したのかもしれない。」
「まさか…。」
「とにかく傷の男はイザリス家の御者だと分かったが、男が勝手にやったと言われればそれまでだ。
公爵に与えていた薬が、その“頭痛薬”なのか、それともその薬も媚薬だったのか。
スーザンに手紙を持ってきた男が御者ならまだイザリス家に揺さぶりをかけられるが、
別の男だったなら、御者はシシリー殺害の首謀者となり、全てその男に罪を被せるだろうな。そして公爵家は何も知らないで通すだろう。
さて…どうするか…。」
「パブロフ商会に行ってみますか?そこには行ったことはありませんが、もうすぐ夜が明けます。」
「下手に行って突けば証拠を消される可能性がある。」
「騎士としてではなく、客として。」
「“頭痛薬”を買いにか?」
「はい。“イザリス夫人の紹介で頭痛薬を買いにきた”と言ってみます。後はその時の店員の様子を見ながら対応します。」
「そうだな、何を出してくるか確認出来る。でもブライアンは買いそうなイメージがないなぁ~誰か別の奴が良いな。」
「俺、やります!」
「ヤコブ?」
「俺なら姉がナタリアなので、姉も常連なら弟の俺が行っても不自然ではありません。
それに、少しでも副団長やシシリーリーダーのお役に立ちたいです!
罪滅ぼしにもなりませんが…。」
「確かにヤコブなら不自然ではないな。でも一人では行かせられない。」
「俺が…「だから、ブライアンは不自然なの!」」
「私が行きましょう。この目付きの悪さで近くにいたら、護衛にもなるでしょうから。」
「シックス、行ってくれるか?」
「はい。私は大変腹が立っていました。
我ら騎士の誇りや尊厳を傷付けている輩達に早く鉄槌を下さなければ納得出来ませんから。」
「分かった。おそらくここにいる者達全員そう思ってるね。
代表してシックスに決定。
ヤコブとシックス、開店時間になったらよろしく。今、朝の五時だから、後三時間位だね、二人は着替えと打ち合わせしておいて。」
「「はい」」
「ブライアン達が男爵邸に行ってる間に、スーザンに尋問をした。
エドが聞いた以上の事はなかったが、
スーザンを乗せた馬車の御者はさっきの傷の男だったようだ。スーザンも手の甲に傷があったと言っていた。
そしてシシリーが死んだと確認が取れたら母親を帰すと言われたそうだ。しばらくそこに隠れていろと言われたらしい。その後の事は何も言われてはいないそうだ。
食料や飲み水はあの小屋に揃ってたらしいからスーザンをすぐに殺すつもりはなかったようだ。
何かに利用しようと思ったのかもしれない。」
「会話に夫人やイザリス公爵の名前は出なかったんですよね?スーザンはどうしてイザリス公爵夫人だと分かったんでしょうか?手紙に書いてあったんでしょうか?」
「手紙は燃やしたと言っていたようだが…普通名前は書かんだろ、脅迫文に。
そうだな、どうして分かったんだ?」
すぐにラルス団長と取調室に行き、スーザンに確認してみると、
「便箋がイザリス家の家紋が付いていたものだったので。封筒の差出人は私の父の名前でしたが、封筒がイザリス家の家紋が付いていたので、開ける前にあれ?と思ったんです。手紙は怖くてすぐ燃やしたんですが、封筒は引き出しにいれました。」
ラルス団長と医務室へと急いで向かった。
飛び込んできた俺とラルス団長に先生が驚いて、
「なんだ、何事だ⁉︎」
「スーザンが使っている机はありますか?」
「スーザンが着替えに使っている部屋がある。そこの机はスーザンが使っている。
なんだ?何があった?」
「その部屋はどこですか?」
「こっちだ!」
部屋に案内され、部屋の机の引き出しを開けると、スーザン宛の手紙の封筒があった。
差出人はスーザンの父親。
封筒の隅にイザリス家の家紋が型押しされていた。
「あった…。紛れもなくイザリス家の家紋だ!」
「決定的な証拠だ、ブライアン!」
「はい。これで家宅捜査が出来ます!」
「ああ、戻ろう!」
「私も行きます!」
後ろを振り返るとミッシェルが立っていた、
何故か団長の上着を持って。
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