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目覚め
しおりを挟む背中と頭の痛みで目が覚めた。
頭がボォーっとしていて働かない。
身体を起こそうとしても怠くて起こせない。
喉が渇いて水が飲みたい。
声も出せない。
誰もいないの…?
目だけで周りを見るが、誰もいない。
「だ…れ…か…」
ダメだ…誰もいない。
ブライアン…側にいないの?
疲れて目を閉じた。
周りの音を拾い始めた。
医務室に人はいるようだ。先生だろう。
でも、医務室の外がなんとなくバタバタしてるような気がする。
そういえば、私を刺した人はどうなったんだろう…
あの時、急に背中に衝撃があって、痛みで蹲った。
ブライアンが駆け寄って、私の名前を呼んでいた。
団長は横を走り抜けたのは覚えている。
その後意識を失くした。
どれくらい私は眠っていたんだろう。
気付けばまた眠ってしまった。
誰かが私の腕を掴んでいる。
「だ…れ?」
「シシリー!目覚めたのか⁉︎シシリー!」
「先…生」
「そうだ、私だ。シシリー、痛みはどうだ?」
「背中…と…あた、まが…」
「背中と頭が痛いんだな、待て、今水を持ってくる。」
先生が水をとりに行き、すぐ戻ってきた。
「少し身体を起こす。痛いかもしれないが、我慢してくれ。」
私に水を飲ませる為に少しだけ、身体を起こしてくれた。
水を飲んでようやく話せるようになった。
「先生、ありがとうございます。」
「良かった。心配した。」
「先生しかいないんですか?私さっき目覚めたんですけど、誰もいなくてもう一度寝てしまいました。」
「そうか、済まない。」
「でも助手の方、いましたよね?今、ひょっとして夜中ですか?」
「いや、いたんだが今いない。
シシリー、少しだけ説明する。
シシリーは刺されてここに運ばれた。
その後、ここが襲撃された。
ラルス、ブライアン、ミッシェルが睡眠薬で眠らされ、シシリーは毒を注射されて心臓が止まる寸前だった。
エドワードが気付いて蘇生に間に合ったが、危ないところだった。
それで、今その事件の捜査の為に誰もここにいないんだ。」
「みんなは大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だ。みんな犯人を追っているだろう」
「私に毒を注射したという事は私を殺そうとしたという事ですか?」
「まだ私は何も分からない。
ここはさっきまでバタバタしていたからな。近衛に手を借りておった。
ラルスもブライアンも眠らされてたからな。エドワードが一人で頑張っておった。」
「そうなんですね…。でもどうして私を…。」
「実はな、エドワードはわしの助手を追って行った。ラルスらにお茶を持って行ったのは助手のスーザンだった。
あ、さっきブライアンがお前の顔を見にきた。今から家宅捜査に行くような事を言っていたな。」
「家宅捜査?どこにでしょう?」
「イザリス公爵と言っていた。」
「イザリス?」
「ああ、スーザンの部屋に入って何かを見つけた後、その名前を言っていた。」
「何故イザリス公爵家が私を…。
あ、フランシス様・・・・」
「なんだ心当たりがあるのか?」
「フランシス様はブライアンのファンなんです…」
「あーー、シシリーが邪魔なのか…」
「そう…ですね…」
「シシリー、いいか、よく聞けよ。
お前は何も悪くないし、ブライアンが選んだのはお前だ。
誰が何を言おうがお前はブライアンの気持ちだけを信じろ。
アイツは本当にお前を大切に想い、お前だけを愛している男だ。
これからも嫉妬や妬みはあるだろう。
だが、ブライアンの愛を決して疑うな。
彼奴は、お前を好きになるまで女性に触られるだけで吐いていたのだ。
今でもお前やミッシェル以外はダメだろう。ミッシェルにも極力触れないようにしているはずだ。
だから、何があっても彼奴を信じろ。
そして…今から言う事は、お前にとって、とても辛く悲しい話しだ。」
そう言って先生は、私が妊娠していた事、
出血が多すぎて流産してしまった事を静かに話した。
何を言っているのか分からず、何も反応する事ができなかった。
「シシリー、ブライアンはもう知っている。後は団長二人とミッシェル、シックスも知っているかもしれんが、それだけだ。
ブライアンはしばらく動けなくなった。
何も聞こえないようだった。
エドワードとラルスがブライアンを連れて行った後の事は分からん。
だが、長い時間泣いたのだろう。
ブライアンもラルスもミッシェルも睡眠薬で眠っていても分かるほど目が腫れておった。
敢えて誰もいない時に言ったのは、皆がいる時では感情を抑えてしまうのではないかと思ったのだ…。
今は誰もおらん。ワシしかいない。
患者もおらん。だからワシがついている。
だから泣いてもいい。怒ってもいい。
怒鳴ってもいい。とにかく感情を出せ。
辛い時は我慢してはいけないよ。」
静かに話す先生をジッと見ていた。
優しく話す先生が、みるみる滲んで見えなくなった。
「せん…せ、い…泣いて・・・い、い…です、か…」
「構わんよ、いっぱい泣きなさい…」
私は子供のように泣いた。
うわーーーーんと声に出して泣いた。
泣いて泣いて、そして、たくさん怒った。
“返せ!私とブライアンの赤ちゃんを返せ!”
“絶対許さない!”
“私が何をしたっていうのよ!”
そして、次は赤ちゃんを想って泣いた。
“ごめんね、産んであげられなくてごめんなさい…”
“あなたがお腹にいる事も気付いてあげられなかった…ごめんなさい…”
“どっちだったのかな…男の子だったのかな…女の子だったのかな…会いたかったな…会いたかったよーーー”
とまた号泣し、
“ブライアンに会いたいよ”
“ブライアン…ライ…側にいてよ…”
と泣き叫んでいる時に、先生が、
「一人で偉かったな、もうお休み。」
と言い、頭を撫でてくれた。
そして、私は泣き疲れて眠った。
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