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知らなかった思い
しおりを挟むブライアン視点
その日、仕事も終わり帰ろうとしている時、話しがあると団長に呼び止められた。
シシリーに先に帰るように伝え、執務室に戻ってきた。
「何かありました?」
「言おうか迷ったが、ブライアンは知っていた方が良いと思い至った。
それは、シシリーの本当の思いだ。」
「シシリーの本当の思い?」
「シシリーは今まで、ベルやナタリア、フランシス、スーザン、キャシー、ジュリアーナの尋問の記録を聞いていなかった。
それは知っているな?」
「はい。」
「シシリーは、それを全て聞いた。」
「どうして⁉︎あの女のも聞いたんですか⁉︎」
「ああ、全て聞いたからな。」
「今になってどうして?」
何も言ってなかったし、いつもと何ら変わらなかった。
何故?
忘れていた訳ではないだろうが、何故今なんだ?
俺は二度とあの女の声を聞きたくない。
それはシシリーも同じだと思っていた。
「大丈夫か?」
「あ、はい、すみません…考え事をしていました…。」
「シシリーが町で、ある噂を聞いてしまったらしい。」
「噂?」
「若い男達が、あのベルの話しをしていたらしい。ベルは、襲われたから修道院に入ったらしいと、可哀想だと言っていたそうだ。
それを聞いたシシリーは、腹が立ってどうしようもなかったんだそうだ。
その時、たまたまイーグルのチャーリーとダニエルが通りかかって、シシリーの話しを聞いた。
その事は後で聞いたんだがな。
その時シシリーは、ベルが憎くてたまらないと言ったそうだ。
お前を傷付けたくせに可哀想だなんて言われてるのが我慢出来ないって。
今でもお前に抱かれた事を大切な思い出として、それを支えにしていたらと思うと、腹が立って仕方ないと。
死んでも許さないって言ってたそうだ。」
「あ…チャーリーとダニエルに会って話したと言ってた時があります!
あの時、チャーリーに山に登れって言われたとしか言ってなかったけど…」
「まあ、その時だろうな。
その後に、録音した尋問を聞きたいと俺の所に来た。
一人では聞かせられないので、俺かラルスも一緒ならと許可した。
理由を聞いたら、自分の中のドス黒い感情を飲み込んでいいのか、吐き出せばいいのか分からないから、あの時、どんな風に行ったのか、どんな言い回しをしたのかを知ったら、判断出来ると思ったらしい。
それで俺が付き添い、初日はベルのだけを聞いた。」
「それでシシリーは?」
「お前があの女を抱いた時の話しを聞いて、吐きそうになっていたが必死に堪えていた。その後はずっと泣いていた。
それでも最後まで聞いて、シシリーは、あの女がお前達に与えたドス黒い気持ちも感情も、飲み込みたくないから、あの女に返すそうだ。
そんな汚いものは身体に入れてはダメだと。
飲み込まないが、返す時まで大事に取っておくんだそうだ。でないと、もう良いかと思ってしまうから。
そして、今でもあの女が大切な思い出として心の中にしまっている、お前との一夜の思い出を返してもらう、と言っていた。
何年かかっても返してもらうけど、一人では、殺してしまいそうだから、助けてくれと俺とラルスにお願いしていた。」
俺は、泣いていた。
俺の為に怒り、聞きたくもない尋問を泣きながらも聞いたシシリー・・・。
誰にでも優しくて、誰にでも笑顔で接するシシリーが、それほどあの女を憎んでいるなんて知らなかった…。
でも、俺と同じようにあの女を憎んでくれている事が嬉しかった。
俺も思い出したくないから、考えないようにしているが、時折思い出しては吐きそうになる。
この前の飲み会がそうだ。
シシリーが気にすると思ったから、言わないようにしていた。
でも、俺と同じ気持ちなら、もう隠さなくても良いのかもしれない。
俺もあの女の存在を消してしまいたい。
シシリーと俺に深い傷を付けたあの女を許せない。
シシリーは憎いと言った。
ありがとう…あの女を憎んでくれてありがとう…。
もう罰は下されているあの女には、何も出来ないと思っていた。
でも、シシリーはあの女から、俺を取り返すと言ってくれた。
俺が一番返して欲しいあの女に取られたもの・・尊厳だ。
それを何年かかっても取り返すと、
そして、あの女にこの憎しみも返すのだと言ってくれた。
「団長・・・・俺も…この憎しみを…返したい…。そして、俺が奪われた尊厳を取り返したい…です…」
「ああ、俺もラルスも決めた。あの女に取られたものは取り返し、返すものはキッチリ利子もつけて返すってな。」
「はい・・・ありがとうございます…」
「ラルスが色々考えている。気長にやろう。ブライアン、お前とシシリーには、俺やラルス、ガースもミッシェルもヤコブもいる。
シックスもチャーリーもダニエルもな。
だから、感情を隠すな。分かったな!」
「はい、もう隠しません。
団長、教えて下さってありがとうございました。」
団長に挨拶して、シシリーが待つ家まで走って帰った。
ドアをバーンと開け、シシリーに走り寄り、
抱きしめた。
「なに何、なんなの?どうしたの?何かあったの?誰かに触られた?気持ち悪いの?大丈夫?」
「シシリー、ありがとう…」
「え?何が?」
「本当にありがとう、そして、この世で一番大好きで愛してる!」
「もう!ライ、ブライアン!何なの?」
俺の最愛のシシリーは、訳が分からなくて怒っていたが、そのうち、
「私も大好きで愛してる、ブライアン。」
と言ってくれた。
俺は、この先シシリーがいてくれるのなら、
何があっても生きていける。
あの悪夢のような出来事も、
あの女から取り返せると思えるから、もう怖くはない。
何度でも言うよ、シシリー、愛している。
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