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番外編 奪還と返還〜エドワードの純愛
計画の始まり
しおりを挟むシシリーとブライアンの結婚式も終わり、シシリーのイーグルへの移動も滞りなく終わり、ようやくひと段落という感じだ。
シシリー…
俺が初めて本気で好きになった女性。
付き合った女も結婚しても良いかと思った女もそれなりにいた。
だが、シシリーほど欲した女はいなかった。
奥手なわけではなかったのに、シシリーの素直に懐かれる愛らしさに、どうしても一歩踏み出せなかった。
俺の片腕とも言えるブライアンの事も、他の女達が騒ぐような事もなく、どちらかと言えばブライアンより俺の方に駆け寄る姿は、純粋に嬉しかった。
ブライアンはブライアンで、シシリーには一切興味もなく、団員の一人としてしか見ていなかった。
客観的に見て、この二人、気が合うと思うのだが…と思っていた。
そして案の定気が合った二人は付き合い始めた。
多少の嫉妬はあった。
だが、二人はお似合いで、見ていて微笑ましかった。
俺のシシリーに対する気持ちは変わらない。
だからといって二人の仲を壊したいとは思っていない。
ただシシリーが幸せに暮らせているならそれで良かった。
だから、シシリーとブライアンが何の憂いもなく生活する為に、残った問題を解決しなければ。
あの定食屋のベルの事だ。
あの女は今、北の修道院にいる。
行ってから今までの報告書が届いている。
あの修道院は、厳しい事で有名だが、厳しいと言っても貴族のご令嬢にはだ。
平民であればそう問題はない。
ただベルにとっては厳しい所だろう。
あの修道院は、男に暴力を振るわれた女性達がいる。
身体にも心にも傷を付けられた人達が静養する場所だ。
しかしベルは違う。傷を付けた側の人間だ。
最初は他の女性には申し訳ないと思ったが、ベルがした行為は、そこに行く事になってしまった女性達の憎い男達と、同じなんだと分からせたかった。
報告書には、どうやら自分以外の女性は自分とは真逆の立場の人間だと気が付いたようだ。
さて、どうしようか。
ラルスに相談するか。
そこへミッシェルが書類を持ってやってきた。
「団長、報告書持ってきました。」
「ありがとう。丁度良かった。ミッシェルにも読んでもらおうと思っていた。
修道院にいるベルの今までの様子が書いてある報告書だ。」
「え?ずっと監視してるんですか?」
「そうだ。
シシリーとブライアンは、あの女が大事にしているブライアンとの一夜の思い出を、時間が掛かってもいいから返してもらうんだそうだ。」
「一夜の思い出…」
「シシリーは言っていた。あの女は多分、ブライアンに抱かれた事をいつまでも大事にしているだろうと。
それに二人は耐えられないから、その思い出は返してもらって、二人の憎悪は返すとさ。」
「確かにそうだと思いますが、どうやってそんなもの返してもらうんですか?そして、憎悪なんてどうやって返すんですか?」
「基本、優しい奴らだからな、本当はそんなもん捨ててしまいたいんだろうが、シシリーはブライアンを深く傷付けたあの女を殺したいほど憎んでいるから、忘れるなんてしないで、その醜い気持ちを自分に与えたベルに、そっくりそのまま返すと決めた。
ブライアンはそんなシシリーの気持ちを知り、我慢せず“あの女が憎い”と、無理に忘れようとせず、憎み続けても良いんだと思えたからトラウマを乗り越える事が出来た。
俺とラルスはそれに手を貸すと決めた。
ミッシェルはどうする?」
「私はあの女を許せないので、いくらでも貸しますよ。でもシシリーがそこまでの負の感情を持つのが少し意外でした。」
「ミッシェルはベルが街で噂になっていたのを聞いた事がないか?街ではベルが被害者で可哀想だと言われているらしい。」
「は?なんですかそれ!それを聞いたんですね、シシリーは…」
「ああ、たまたま聞いてしまったらしい。
その後、あの時の女達のすべての供述の録音記録を聞いた。」
あの時シシリーが言ったことをミッシェルに話した。
その後のブライアンの話しも。
ミッシェルは泣くのを堪えるように、顔を歪めていた。
「分かりました。私も手伝います。いつでも言ってください。」
「ありがとう。さっそくラルスを呼んできてもらえないか。」
こうして俺達は、あの女が“一夜の思い出”として大事にしている、奪われたブライアンの尊厳の奪還、シシリーとブライアンからあの女へ憎悪の返還を達成させる為の密談が始まった。
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