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壊れてしまった夫人
しおりを挟むサイモン視点
使用人部屋で仮眠を取って、すぐロックハート家に向かった。
魔王に見つかったら大変だからだ。
まだ朝早いのでロックハート夫妻は寝ているだろう。
なら今のうちに使用人から屋敷の情報を集めようと思うが、
今回は下準備が出来なかったので、屋敷に“影”は仕込んでいない。
さてどうするか…
とりあえず朝食にしよう。
朝早くから開いているパン屋に向かう。
ここは“影”御用達の店だ。
引退した元“影”がやっている。
“影”は朝早くから夜遅くまで働いてますんで、こういうとこって大事!
「おはようございます、モトサン。」
モトサンは元No.3だから。
他の番号の人はそれらしく、
5ならゴモート、6ならモトロクとかね。
通称なので適当。
ちなみに僕は“若”ね。
「あ、おはよう。ご苦労さん。」
「軽く摘めるの下さい。ちなみにロックハート家に入るツテってあります?」
「若は自分で考えなさいな。長官継げないですよ。」
「ウチの魔王様が急かしてるんですよ。早く終わらせないと継ぐ前に死んじゃう。」
「あはは、それは急がないと。ロックハートにはパンは卸してませんが、小麦粉は卸してるので一緒に行きますか?」
「いいね~それで行こう。」
「じゃあ、息子に留守番させるので私が一緒に行きましょう。」
「有難い。助かるよ。」
そうしてロックハート家に向かった。
荷馬車の中で服を着替えて、モトサンについて行く。
小麦粉を担いで裏の勝手口にまわる。
「おはようございます。小麦粉を持って参りました。」
「おはようございます。ご苦労様です」
厨房は人が多いが、小麦粉は重いので勝手口に若手が運ぶ為に集まる。
荷馬車から運ぶ為、何度か行き来するのを狙ってスーっと気配を消して入った。
朝は各自する事が多いので意外と他を見ていない。
すばやく天井裏に入れそうな所を見つけ、身を潜ませた。
天井裏を移動し、隠し部屋の上まで来て覗ける箇所を探した。
微かな隙間を見つけ部屋を覗く。
カーテンが閉まっているのか真っ暗だ。
しかし、何かが匂う。
なんだ?何の匂いだ…?
部屋に入らなければ分からないかぁ…
しばらくして、隣りの寝室で人の気配がした。起きたのだろう。
寝室の掃除が終わるのを待つ。
朝食をとり終えたであろう時間の頃、誰かが隠し部屋に入ってきた。
灯りをつける。
ロックハート男爵だ。
これは・・・薬草か?
室内で薬草の育成…ヤバいものなのだろう。
持って帰って調べないと駄目だな…
しかし、どうしてここまでやるのか…
男爵が出て行く前に隣りの寝室の境目に行き、小さな覗き穴を開けて隠し部屋の出入口を確認する。
ありがち…本棚ね。
しばらく周りの気配を探り、気配がないのを確認して寝室のクローゼットの上の天井の確認窓へ移動する。
ほとんどの家には天井に入れる確認窓と言われる入り口がある。意外と知られていない。
クローゼットの上なんて見ないからね。
再度気配を探り、音を立てずクローゼットに入る。
本棚に移動し、閉める時にカチッと音がした箇所を調べる。
あった。
一冊の本を押すとスイッチが入ってロックが外れ、本棚が動く仕組みらしい。
もう一度気配を探る。
すばやく隠し部屋へ入り、中の薬草を何種類か分からないように取り、一つだけ取られたのが分かりやすいように採取した。
隠し部屋から出て、また天井へ戻る。
さて、次隠し部屋に男爵が来るのはいつだろう…
今日だといいなぁ~
そろそろ寝る時間だろう頃に、男爵が隠し部屋に入った。
「これは⁉︎」
と言って隠し部屋から出て、夫人を連れてきた。
「お前が入ったのか?」
「私は入らないわ、匂いが付いてしまうもの。」
「誰かがここに入った。」
「誰が入るのよ。ここは私達しか入れないもの。」
「しかし薬草が取られた形跡がある!」
「あなたが今朝取ったんじゃないの。それか何か引っ掛けてしまったとか。」
「私は取っていない!ここがバレる訳にはいかない!しばらく夜会は中止だ!」
「いやよ!私は嫌!私は息子を殺したあの女が許せないの!だから私が罰を与えているのよ!」
「もう止めようと何度言えば分かるんだ!彼女は息子を殺してなどいない。息子は病気で亡くなったんだ!」
「違う!あの女よ!あの女さえいなければ息子は死ななかった!あの女が息子を誑かして、あの女が殺したの!だから私は何度も何度もあの女に罰を与えているのよ!
でもあの女は何回も何回も夜会に来るの!」
「分かった分かった、だが、夜会はしばらく出来ない。」
「・・・・・」
「ここもバレたかも知れない、作れるだけ作ってこの薬草は片付けよう」
「・・・・・」
「さあ、もう行こう。」
・・・・夫人は壊れてしまったんだな…
とりあえず殿下に報告しますか。
そして僕は王宮に向かった。
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