私の婚約者の苦手なもの

jun

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結婚式

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今日は結婚式だ。


今日は朝早くから支度が始まるから、昨日の内にお父様に挨拶しようと思っていた。
なのに、
「泣いちゃうから何も言わないでーー」と逃げ回り、何も言えてない。


特別に大聖堂での結婚式を陛下が許可してくれて、今はそこで支度しているのだが、
普段も綺麗に磨いてくれているけど、
今日は全員の気合いが凄くて、圧倒されている。
全身を磨かれ、お父様が作ってくれたドレスに着替えている。

着替え終わり、髪もセットし終わり、
今は化粧をしてもらっている。


今まで準備でバタバタしていた事もあり、
全く実感がない。

ロイとは毎日一緒にいたし、
お父様もお母様もすぐ近くにいるし、
会えないわけじゃないし、
おじ様もおば様も小さい時から可愛がってもらっている。
ただ、“おじ様、おば様”から“お義父様、お義母様”に変わるだけだ。

“お義父様”…


あ…そうか、お父様と呼ぶのはお父様だけじゃなくなるんだ…


いつも私に優しく微笑んで頭を撫でてくれるお父様。

お母様に怒られると私の所に助けを求めてくる可愛いお父様。

何かあるとすぐカイルおじ様の所に行っちゃうお父様。

ダメだ。泣きそう。


そう思ったらもうダメだった…


「お嬢様ー、どうしたのですか!」
周りが大騒ぎしたので、お母様とお父様が飛び込んできた。


「リリー、泣いたらダメよ、どうしたの?」

「リリー、どうしたんだい?何かあったのかい?」


「お父様が…」


「アーラーン!何やったの!」

「いやいや、一緒に居たでしょ、何もしてないよ!」

「違う…」

「何?何が違うの?」

「お父様だけを、“お父様”と呼ぶのは今日で終わりなんだと思ったら、涙が止まらなくなった…」

「⁉︎」

「リリー、少しお父様と話しておいたら?その代わり少しだけよ。瞼が腫れたら大変だからね。アラン、よろしくね。」

「ちょっと待って…」

「よ・ろ・し・く。」




「リリー、大丈夫かい?」

「大丈夫じゃないかも…」

「ダメだよ、今日はリリーが一番綺麗になる日なんだから。泣いちゃったら不細工になっちゃうよ。」

「だって…」

「僕の可愛いリリー、お父様はいつまでもリリーのお父様だよ。
そして今日から僕の大切な友人のカイルもお義父様だ。
そんな素敵な事はないよ。
カイルの事をお義父様と呼んでも僕は寂しくないよ、だからリリー、泣かなくてもいいんだよ。」

「うん…分かった…時間ないもんね、もう泣かない。」

「そうだよ、リリーは笑顔が一番可愛いんだから。
こんな綺麗なリリーを見れてお父様はとっても嬉しいよ。」

「お父様、ありがとう。大好き。」

「うん、僕もリリーが大好きだよ。」



「もう大丈夫?」
とお母様が来て、化粧直しを急いでしてもらった。



「リリー、とっても綺麗よ…素敵なお嫁さんだわ。」

「ありがとう、お母様」

「リリー、幸せにね。
ロイ君と喧嘩したらいつでも帰っておいで。
愛してるわ、リリー。


お母様は先に席につくわね。アラン、頑張って!」

「お母様、私も愛してる。」




「それじゃあ、行こうか、リリー。」

「はい」


聖堂の大扉の前にお父様と立つ。


「お父様、今までありがとうございました。」

「幸せになるんだよ。愛してるよ、リリー。」

「はい」



そして大扉が開かれ、お父様と入場した。

一歩一歩、ゆっくりお父様と歩く。

少し先にロイが立っている。


ロイの所まで来ると
「ロイ君、いや今日から君は僕らの息子になるからロイだね。
ロイ、ロナルド、・・・リリーナを・・よろしく・・・頼む。」

「はい、父様、リリーナを誰よりも幸せにします。」


と言って私の手をロイに渡す。

ロイを見つめると、ロイは頬を赤らめ、
「リリー、綺麗だ…さあ、行こう。」


ロイの腕に手をかけ、二人で一歩ずつ歩いていく。

途中、嗚咽を堪えるのが聞こえた。
多分お父様だ。

その姿が思い浮かんで泣きそうになる。
グッと口に力を入れて堪えていると、
ロイがさり気なく私の手に触れ、力が抜けた。
まだ泣いてはダメだ。
こんなに嬉しい日なのに泣いてはダメだ。

誓いの言葉も、指輪の交換も、誓いのキスも終わってない。

司教様の前へ二人で立つ。

司教様の顔をチラッと見てみた。

「「⁉︎」」

司教様は、

陛下だった。


「驚いてるな、二人共。今日は私が立ち会うぞ。
さて、誓いの言葉だ。

ロナルド・グランディ、
健やかなる時も
病める時も
悲しい時も
楽しい時も
怒られた時も
死ぬ時も
他の美女には目もくれず、
リリーナ・ワソニックを愛す事を誓うか。」


「誓います。」


「リリーナ・ワソニック、
健やかなる時も
病める時も
悲しくて泣きそうな時も
怒りまくっている時も
ロナルドが美女に追いかけられてる時も、
ロナルド・グランディを愛す事を誓うか。」


「はい、誓います。」

「ではここに署名を。」

名前を記入する。

「それでは指輪の交換を。」

お互い手袋を外し、
ロイが私の指に指輪をはめる。
私もロイの指に指輪をはめる。


「誓いのキスを。」


ロイが丁寧にベールを上げる。

そっと唇に触れるだけのキスをした。


「よし!これで二人は夫婦になった!
今日は無理を言ってここに立たせてもらった。
私の大事な友の子供達だ。
そして大事なこの国の民だ。
たくさん子供を産んで未来の国を支えてくれ。

ロナルド、リリーナ、おめでとう。
カイル、アラン、おめでとう!

皆、二人を存分に祝福してくれ!」


「「「おめでとうーーーーー」」」

と声が上がり、ロイが私を抱きしめた。


「リリー、リリー、ずっと抱きしめたかった!やっとリリーが僕のお嫁さんになった!愛してる、リリー!」


「ロイ、大好きなロイ、
ロイは私の旦那さまになったよ、愛してる、ロイ!」


ロイが高々と私を抱き上げ、

「みんなーーーー、リリーを世界で一番幸せにしまーーーーーす!」


と叫んだ。



私の婚約者は、
もう走って逃げては来ないけど、

私を抱きしめる為に、
駆け寄ってくる旦那様になるだろう。


私はもう虫たたきも殺虫剤も持っていないが、

駆け寄ってくる旦那様を抱きしめる為に、
手を空けておこう。



ロイの苦手なモノは、これからもちょこちょこ出てくるだろう。

その時はまた私が退治してあげよう。



だって私は今日から

リリーナ・グランディなのだから。








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