「とーたま」と呼ばれたい

jun

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初めてのお泊まり 乳母イリヤ視点

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チャーリー様が初めてイナダール侯爵邸にお泊まりをする事になり、今は元気にコーリアス様と遊んでいる。

コーキン様が第二王子殿下の視察に同行する事になり、日帰りはさすがに無理なのでチャーリー様はコーリアス様のいるイナダール侯爵邸にお泊まりする事になった。

チャーリー様を送ってから王都に向かうコーキン様を、チャーリー様は振り返ることもなくコーリアス様へと走って行ってしまい、少しコーキン様は寂しそうだった。

私はコーキン様を尊敬している。


私は嫁ぎ先から追い出された。
結婚してすぐ妊娠し、出産は難産で産まれた子は息をしていなかった…。
医者には二度と子供は出来ないだろうと言われ、泣き暮らす私を追い出したのだ。
元々家格が丁度良かっただけの結婚で愛情は薄かったが、出産直後の嫁を追い出す事を許す夫に愛想がつき、離婚を承諾した。

実家の子爵家に戻ったが、飲んでくれる子供もいない母乳は搾り出し捨てるしかなかった・・。

そんな時、マウントゥイン侯爵家で母乳の出る乳母を探していると聞いた父が私にどうかと言ってきた。

マウントゥイン侯爵家の事は知っている。

あの夜会に私も出席していたから。
だからあの時の大騒ぎも知っている。

コーキン様とヒストリア様は私達世代では憧れの人達だった。
お似合いで、並べば絵画のように美しく、見つめ合っている姿は幸せそうで、結婚式のお披露目パーティーを皆が楽しみにしていた。
そんな時のあの騒動だ。
忘れるわけがない。

だから二人の幸せをぶち壊したヒストリア様の元親友がどんな結婚生活をしているのか気になったのもあり乳母を引き受けた。
来てみれば育児放棄したうえ浮気までしている始末に呆れた。
生まれた我が子を抱くこともせず、泣いてもあやすことすらしなかった。
ひたすら「コーキン様の子供だと思っていたのよ」と何回も何回も喚いていた。
元奥様が大嫌いだった。
でもチャーリー様はとても可愛らしくて、私の母乳をよく飲んで、私を見ては笑ってくれるチャーリー様が愛おしかった。

コーキン様は生まれてすぐにご自分の子ではない事が分かっても、暇を見つけてはチャーリー様に会いに来た。
慣れないながらも抱っこし、チャーリー様が泣けばオロオロしながらも一生懸命あやしていた。
チャーリー様が熱を出せば一晩中側にいた。

仕事も子育てもしながらヒストリア様を探し、精神的にも身体的にもボロボロだった頃、元奥様の妊娠が分かった。
子供の父親が誰かなど屋敷中の人間は言われなくても分かった。
コーキン様は即座に離婚の手続きを済ませたが、身重の元奥様を放り出す事はなかった。
出産し生まれた子が3ヶ月になるまで面倒を見た。
私の嫁ぎ先とは天と地も差がある対応だ。
血の繋がらない子供を大切に育て、浮気した妻にも情けをかけたコーキン様を尊敬した。
だって私だったらそんな事出来ない。

結局あの元奥様は一体何をしたかったのだろう。
コーキン様を好きだったのは分かったが、ならば何故浮気していたのだろう・・・。
あんな事までして妻になったのに、婚家に浮気相手を伴い、相手にされないからと浮気し、挙げ句の果てに離婚された。
ヒストリア様への嫌がらせの為だけにしたとしても、自分が幸せにもなれないやり方を何故したのか最後まで分からなかった。

恐らくあのケントが何もかも計画していたのかなと思った…。

あのケントって人は何を考えているのか分からない人だった。
でもいつも元奥様の事を見つめていた。
ジッと見つめていた。
1人目の妊娠も2人目も計画的だったんだと思う。
元奥様を自分の所まで堕とすために。

まあ実際はどうなのか分からないけれど。


そんな事をボォーっと考えていたら、突然チャーリー様の泣き声が聞こえた。

ハッとしてチャーリー様のいる所へ行くと、そこには無惨にもお腹ポケットが裂けたプチコーキン様がいた。

「とーちゃが・・とーちゃがちんだーーーー」

おそらくユーリ様が力加減を間違えて壊してしまったのだろう、ユーリ様も呆然と立ち尽くしていた。
コーリアス様は1人冷静に、

「ちゃーちゃん、おいちゃしゃんよ、おいちゃしゃーーーん、きてーーー!」

と叫んでいた。

フラン様が動揺して私に、

「イリヤ様、どういたしましょう…コーキン様のお腹が・・・お医者様を・・・」と言っている。

ユーリ様が自分のやらかした事が拙い事なのだと気付いたのか、とうとう泣き出してしまった。
チャーリー様は恐る恐るプチコーキン様に手を伸ばし、
「とーちゃ・・・」とプチコーキン様を抱きしめていた。
まるでコーキン様が殺されてしまったかのような状況に思わず笑ってしまいそうだが、とりあえず何とかしないとと、声をかけた。

「チャーリー様、直ぐにプチコーキン様をお直し致します。
フラン様、侯爵家にお針子はいらっしゃいますか?
いなければ裁縫の得意な方でも構いません。
これくらいなら直せば問題はありませんから。
ユーリ様のお世話がかりの方はユーリ様をお願いします。」

私はチャーリー様からプチコーキン様をお預かりする説得をした。

「チャーリー様、今すぐプチコーキン様をお直ししますので、イリヤに渡して下さいますか。
プチコーキン様をお医者様に診てもらいますから。」

チャーリー様はイヤイヤと首を振って渡してくれない。
見かねたコーリアス様が、
「ちゃーちゃん、とーちゃ、いたいいたいよ、おいちゃしゃん、いたいいたい、ないないよ?」

コーリアス様の言葉にチャーリー様は一度プチコーキン様をギュッと抱きしめた後、私に渡してくれた。

「いーや…とーちゃ、いたいたい、ないないちて…」

「承知しました。イリヤにお任せ下さい。」

チャーリー様から渡されたプチコーキン様をフラン様に渡そうとすると、チャーリー様に止められた。

「めーよ、とーちゃ、おいちゃちゃんよ」

「チャーリー様、お医者様に診て頂くんですよ?」

チャーリー様はプチコーキン様を抱いた私を引っ張りベッドの所まで連れて行くと、ここに寝かせろと言った。

やばい・・・これは本格的なお医者様が来ないと納得しないのでは・・・。

頭を高速に働かせ、チャーリー様が納得する方法を考えた。

「分かりました。お医者様を連れて参りますから、少しお待ち下さいね。」

チャーリー様、コーリアス様、メイドに抱っこされたユーリ様は、ベッドに寝かされ、きちんと布団をかけられたプチコーキン様を見つめていた。
そのうちプチコーキン様を応援し出した。

「とーちゃ、がんがえー!」
「とーちゃ、がんばえー!」
「とー、おおーー!」

三人三様の応援の中、私達は動き出した。

3人から少し離れた私達は段取りを決めた。
先ずジェフリー様に報告し、お針子に白衣(のような白い服)を着せ、ベッドを仕切り、3人に見えないようにプチコーキン様を治そうということになった。

すぐさまフラン様が部屋を出て行き、私は3人の応援が響く部屋で今か今かとお針子お医者様を待った。

しばらく待つとジェフリー様を先頭に白衣を着たお針子さん達が数人入ってきた。

「チャーリー様、お医者様をお連れ致しました。
直ぐにコーキン様をお直し致します。」

ジェフリー様がチャーリー様達をお子様テーブルに案内し、ケーキとジュースを準備しているうちに、ベッドを隠すように仕切りを囲った。

お針子さん達は小声で、

「わあ~凄い良く出来てるのね~。」
「一度ちゃんと見てみたかったのよ、プチコーキン様!」
など喜びながら直し始めた。

私とフラン様は仕切りの前でチャーリー様達が覗かないように立っている。

ジェフリー様が上手く気を引いているようだが、ちらちらとチャーリー様はこちらを見ている。
私がニッコリ笑うと、チャーリー様もニコっと笑うのでほっこりする。

「とてもコーキン様が好きなのですね、チャーリー様は。」

横にいるフラン様が微笑みながら言った。

「私は・・・最初…チャーリー様がコーリアス様の近くにいる事を…よく思っていませんでした・・・。
ですが、コーリアス様をあれほど慕っているチャーリー様を見ていたらそんな気持ちも無くなりました。
きっとコーキン様やイリヤ様、屋敷の皆さんが愛情を持ってお育てになられたのでしょうね。
とても可愛らしくて、今は大好きです。」

フラン様を見ると、3人を優しい顔で見つめていた。

そうなのだ、チャーリー様はとても可愛いのだ。

「はい。屋敷のみんなチャーリー様が大好きです。
勿論コーキン様も。
私もコーリアス様が大好きです。
お二人の会話を聞いてると可愛らしくて笑ってしまいますよね。」

その後フラン様とチャーリー様とコーリアス様の面白エピソードを話していた。

1時間ほど経った頃、お針子さん達から終わった事を告げられた。

こっそり出来上がりを見てみたら、修理したとは思えないほど、元通りになっていた。
皆でうんと頷くと、

「治療が終わりました」と声をかけて、プチコーキン様を出すと、チャーリー様は一番に走ってきた。

「とーちゃ、ちょーだい!」

手を伸ばすチャーリー様にプチコーキン様を渡すと、上から下まで、くまなくチェックし、問題ない事が分かるとギュッと抱きしめて「とーちゃ、ちゃいおかえりなさい」と言っていた。

こうして初めてのお泊まりは、騒がしく始まり騒がしく終わった。

翌日迎えに来たコーキン様にチャーリー様は飛びついた。
行きは素っ気なかったのに、帰りの歓待ぶりに驚いていたコーキン様だったが、嬉しそうだった。

帰りの馬車の中、お泊まりはどうだったと聞かれたチャーリー様は、

「とーちゃ、ちんじゃった・・・おいちゃちゃん、なおちた。」

「は⁉︎どゆこと?」

私はチャーリー様とコーキン様の睦まじい会話にクスクス笑っていた。


私はこの親子が大好きだ。





















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