私の婚約者の苦手なもの 番外編

jun

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新婚旅行編

リリーナ視点

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今、お父様がいるワソニック領の屋敷へ向かっている最中だ。

ドラゴン改めクロに攫われたと聞いた時はどうしたらいいのか分からず泣くしか出来なかった。
最初だけ泣き叫んだ後は怖いくらい静かだった。
お父様の執務室から出て来ず、カイル父様に食事を食べろと言われて、お母様を誘いに執務室に入った時、お父様の机の前に立っていた。
いつから立っていたのか分からないが、おそらく入った時から立っていたんだと思った。

三人で食事をしている時に、お父様の話しをしたらお母様がお父様を思い出し、少し笑った。

その後、城でお父様の話しを聞いた。
お父様がお兄ちゃんを助けようとしている姿や、クロと楽しそうに話している姿、クロを怖がらせないようにと諭している姿、
お兄ちゃんとハロルド様が落ちてくるお父様を助けようとしている姿、
倒れている姿、
全ての場面のお父様が想像出来てしまい、涙が止まらなかった。

ジュリア様はお父様を助けようとしただけだ。
お父様はクロを落ち着かせる為に背中に乗ったんだろう。

私が小さい時、よくお父様におんぶをしてもらった。

温かくて、気持ち良くて、お父様の耳元でよく内緒話しをした。

それを思い出したのかもしれない。

だから誰も悪い事をした訳ではないと理解している。
ただお父様が心配なだけだ。
お父様の顔を見て、生きている事を確認したい。
それだけだ。


出発する時は大変だった。
陛下が見送りたいと、城からの出発になったから。

ロイは一緒に行くと大騒ぎし、
ジュリア様とサイモン様が私が行く、俺が行くと大騒ぎし、
だったら俺も、とカイル父様とリチャード様が大騒ぎし、
陛下が、俺だって行きたいのにお前らだけズルいとゴネ始め、
最後はシェリル母様と王妃様が一喝して収まった。

結局、私、お母様が馬車に乗り、馬でジュリア様とサイモン様が行く事になった。
サイモン様は、ハロルド様と交代するようだ。
昨日説明してくれた、セバスさんは昨日のうちにハロルド様に報告に行ったそうだ。

そんなこんなで、短い休憩のみで先を進めたので、もうすぐ領地に入る。

すると、

『りりーな、まりあ』

と声が聞こえた。

「「あ!」」

と二人で声をあげ、

「クロだ!クロが呼んでる!クロ、クロ、リリーナだよ!」

「私もいるわ、マリアよ!」

と大騒ぎしたので馬車を止めさせてしまった。

ジュリア様とサイモン様に、声が聞こえた事を話し、五月蝿くしても気にしないように伝えた。

よく分からないが、今はお兄ちゃんと一緒のようだ。

「クロ、もうすぐ着くからね、待っててね!」
と一応、大声で言うと、

『りりーな、まりあ、嬉しい』

と言った。

なんだか分からないが、涙が出た。

小さな子供が一人で私達を探し出したような感覚になったからか、よく分からない。

とにかく、喋らなくてはと、

「お兄ちゃんは元気?」

と聞いたら、


『とーます、りりーな、クロ、おとうと』

と言った。

弟?

お母様と首を傾げた。

何故、弟?
誰の?

私の?

お兄ちゃんが適当に俺の弟だとか言ったんだろう。
ドラゴンを弟にするとは…。
それともお父様か!

その時、

「そうね、クロはトーマスとリリーナの弟ね」

とお母様が言った。

『まりあ、かあさん』

と返ってきた。

あ、これお兄ちゃんの仕業だ、とお母様と笑った。

お父様は頭に大怪我をしているのに不謹慎だが、クロとの会話は楽しかった。


そして、

お父様がいる屋敷に着いた。

二人で駆け込むと、チャールズおじ様が急いで出迎えてくれた。
済まなかったと、
自分が持ち込んだからと泣いて謝ってきた。

おじ様もジュリア様と同じに自分のせいでと思っていたのだろう。

二人でそんな事はないと、
これは事故なのだと宥めながら、お父様の部屋へ向かった。


お父様は、ロイの時のように包帯だらけだった。

やっぱり痛々しい姿を見れば、涙が出た。


お母様とお父様の手を握った。


温かい。


それだけで安心出来た。

お父様は生きている。
今は眠っているだけだ。

お母様とお父様の手や顔を泣きながら触っていた。

そこへ、ハロルド様が静かに入ってきた。

城へ戻る前に話したいと、私とお母様の所に来たと言う。

ハロルド様は、ここではお父様の身体に障るからと部屋を出ようとしたが、

「いいのよ、アランは多分聞いているわ。
誰もいなくなったら寂しがるからここで話しましょう。」

と言って、お父様の部屋の応接セットのソファに座った。


「マリア殿、リリーナ、今回は本当に済まなかった。ジュリアのせいでアランに大怪我を負わせてしまった。
ジュリアの夫として、上司として謝罪させて欲しい。
本当に申し訳ございませんでした。」

と頭を下げた。

「フフ、夫婦仲良しね、ジュリア様もきちんと謝罪して下さったのでもう謝罪はいりませんよ、ハロルド様。
こちらこそ、アランを助けて下さり、ありがとうございました。
ハロルド様がトーマスとアランを抱えてくれなかったら、二人共もっと大怪我だったでしょう。
本当にありがとうございました。」

「ハロルド様、お父様を助けて下さりありがとうございました。」

「いや、結局は怪我をさせてしまった…」

「まあまあ、それよりも、ハロルド様もクロとお話しが出来るのでしょう?」

「あ、ああ、クロとはたくさん話した。
ジュリアを“おばさん”とトーマスがクロに呼ばせている。」

「「え?おばさん?」」

「ああ、クロを怯えさせたから、それくらいやってもいいだろう、だそうだ。」

「やだ、あの子!なんて事覚えさせてるの!とんでもない事覚えさせそうだわ!」

「お兄ちゃん、私の事もクロに弟って覚えさせてたよ。」

「あ~それは私だ。」

「「え?」」

「それは私がクロに言った。アランの息子のようだなと。だから、トーマスとリリーナの弟だなと…ダメだったか?」


「アハハハ、まさかのハロルド様だった。
いえいえ、構いませんよ、確かにお父様の子供みたいなものだね、まさか、ハロルド様とは!」

とお母様と笑った。


ハロルド様はそれからサイモン様と交代して、城へ戻った。

クロに挨拶してから帰るそうだ。

入れ替わりでジュリア様が入ってきた。

ジュリア様は、寝ているお父様に頭を下げていた。


お父様、皆、泣いてはいないよ。

お父様はそこでゆっくり横になりながら、私達の話しを聞いててね。













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