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第4章
035 ベネサンラ共和国
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アリス906は外装を取り替える工事にかかった。
「リサの乗艦を強固にしなければ」
アリス3は張り切った。
「リサの艦にケチをつけられてたまるもんですか」
アリスはアリス906の外装をアリス2なみに強固にした。
「リサ、もう金星に降りても大丈夫ですよ」
アリスは断言した。外装は以前より厚くなっている。
「もう溶けるのは勘弁だわ。ピリピリするのは嫌よ」
「あれは酷かったですね。重工業部門の長であるギルバートはベネサンラ共和国から賄賂を貰って、粗悪な装甲を入れたという事の様です。セキュリティガード八咫烏の調査を待ってアリシア様の裁定が下ります」
アリスは言った。アリシアはアリス906をアリスに任せてプリサンド王国へ行っている。重工業部門の長はただでは済まないだろう。アリスはどんな裁定が下りるかを予想した。
「戦争をするなら物資を備蓄しなければ、あ、もう終わってる?部隊の編成は、ああ、これも終わってる。アリシア様の本気がわかるわね。ちなみにリサの宇宙船は私と合同で前線配置ね。透過艦アリス906ね。多分、要人を炙り出すんでしょう。面白くなってきたわ」
もう裁定が下る前から戦争の用意を終えている。この事件は賄賂を糾弾するだけでは終わらないようだ。
宙港から慌ただしく立つものがいた。重工業の要職だ。ギルバートが捕まったので星外に逃げようとしているのだ。
「よし、大気圏は超えた。もうプリサンド王国は手が出せない」
ほっとした顔で男が言う。プリサンド重工業の部品開発部長を務めていたアイザックだ。ベネサンラ共和国の商人から食事をご馳走になり、高価なお土産をもらった事で繋がりができ、仕事も融通してもらえるようになった。特にベネサンラ共和国の兵器調達には商人の関係がものを言った。私財も増えウハウハだ。今回の装甲の件をひきおこしたのだ。
「しかし金星に降りたからと言って、直ぐにわかるはずがないのに」
素材はぱっと見ではわからないくらい手抜きをしている。アイザックは、まるで人の感覚があるみたいだな。そんな事を思っているとキャビンアテンダントの服を着たアンドロイドが来る。
「うん。もう食事か?」
客室乗務員が出発後にお客の所に来るのは機内食を配る時ぐらいしかない。
「連絡です。当船は故障の為、脱出用艇に移っていただきます。プリサンド重工業製の部品が故障を起こしました」
「誰だ。不良部品を納入したのは」
アイザックは不満顔で嘯いた。納入は部品調達部だな。何をやってるんだ。
彼は知らなかった。彼と同じようにベネサンラ共和国の手が製造部門まで広がっているのを。
本国では重工業の要職の追求が始まっていた。
「脱出用艇は打ち出されてから、回収まで搭載された電子脳がビーコンを出して宇宙局に位置を知らせますので、行方不明になる事はございません」
言ってドアを閉める。アンドロイドは何故か乗らない。脱出用艇には重工業の製造部門の人間も乗った。
「やあ久しぶり」
アイザックと製造部門のクラベースは同期だった。昔の話に花が咲き、搭乗しているのが2人だけとは気づかなかった。ジェットが噴射して旅客船から離れる。
「おい、まだ宇宙局は来ないのか」
クラベースは電子脳に言う。
「ビーコンが不調でして、宇宙局はこの脱出用艇を見失っております」
電子脳は答える。
「おい、まだか」
アイザックも言う。電子脳の口調がアリシアになる。
「犯罪者には良い罰と思うわ。あなたたちはここで死ぬの。リサの体が溶けた罰を、あなた方の体で償うといい」
脱出用艇のエンジンが止まる。そしてエンジンから充電していた電池が、充電切れで室内の灯りも消える。室内を廻っていた空調も止まる。
6ヶ月後、行方不明だった脱出用艇が発見されるが、白骨化した遺体が2体、座席から這い出した格好で腐っている。宇宙局員は室内の腐った状況に顔を顰めた。
「これは酷い。旅客船から脱走した重工業の2人だな」
宇宙局員は言った。
「脱走したが電池が切れて一貫の終わりか。これで、あのプリサンドとベネサンラの争いは戦争に移行するな」
別の宇宙局員が言う。不正に端を発したプリサンド王国とベネサンラ共和国の争いは始まったばかりである。
粗悪な宇宙船を売りつけられて怒った傭兵が紛争を起こした事は建前で、プリサンド王国に不正を働いたのが原因だと後世の歴史家は言う。ただプリサンド王国重工業の2人が逃亡して判決を受けていないという終わり方になっているのが開戦を止めていた。
「これを曳行して宇宙局に運ぶのは無理だな。臭いも酷い。よし調べたら爆破だ。226を使え」
リーダーが指令を出す。スミスと違って爆弾226が使われる。2260は爆破の範囲が広すぎるのだ。
「爆破します」
宇宙局員が爆破スイッチを押す。遺体と脱出用艇は爆破された。宇宙空間に金属のかけらが散らばる。
宇宙局は不明の重工業の犯人の腐乱死体を確認、爆破処理済みと簡単にファイルに記録すると通常のパトロールに戻った。
プリサンド王国が第2次惑星戦争を始めるのは、それからすぐである。
「リサの乗艦を強固にしなければ」
アリス3は張り切った。
「リサの艦にケチをつけられてたまるもんですか」
アリスはアリス906の外装をアリス2なみに強固にした。
「リサ、もう金星に降りても大丈夫ですよ」
アリスは断言した。外装は以前より厚くなっている。
「もう溶けるのは勘弁だわ。ピリピリするのは嫌よ」
「あれは酷かったですね。重工業部門の長であるギルバートはベネサンラ共和国から賄賂を貰って、粗悪な装甲を入れたという事の様です。セキュリティガード八咫烏の調査を待ってアリシア様の裁定が下ります」
アリスは言った。アリシアはアリス906をアリスに任せてプリサンド王国へ行っている。重工業部門の長はただでは済まないだろう。アリスはどんな裁定が下りるかを予想した。
「戦争をするなら物資を備蓄しなければ、あ、もう終わってる?部隊の編成は、ああ、これも終わってる。アリシア様の本気がわかるわね。ちなみにリサの宇宙船は私と合同で前線配置ね。透過艦アリス906ね。多分、要人を炙り出すんでしょう。面白くなってきたわ」
もう裁定が下る前から戦争の用意を終えている。この事件は賄賂を糾弾するだけでは終わらないようだ。
宙港から慌ただしく立つものがいた。重工業の要職だ。ギルバートが捕まったので星外に逃げようとしているのだ。
「よし、大気圏は超えた。もうプリサンド王国は手が出せない」
ほっとした顔で男が言う。プリサンド重工業の部品開発部長を務めていたアイザックだ。ベネサンラ共和国の商人から食事をご馳走になり、高価なお土産をもらった事で繋がりができ、仕事も融通してもらえるようになった。特にベネサンラ共和国の兵器調達には商人の関係がものを言った。私財も増えウハウハだ。今回の装甲の件をひきおこしたのだ。
「しかし金星に降りたからと言って、直ぐにわかるはずがないのに」
素材はぱっと見ではわからないくらい手抜きをしている。アイザックは、まるで人の感覚があるみたいだな。そんな事を思っているとキャビンアテンダントの服を着たアンドロイドが来る。
「うん。もう食事か?」
客室乗務員が出発後にお客の所に来るのは機内食を配る時ぐらいしかない。
「連絡です。当船は故障の為、脱出用艇に移っていただきます。プリサンド重工業製の部品が故障を起こしました」
「誰だ。不良部品を納入したのは」
アイザックは不満顔で嘯いた。納入は部品調達部だな。何をやってるんだ。
彼は知らなかった。彼と同じようにベネサンラ共和国の手が製造部門まで広がっているのを。
本国では重工業の要職の追求が始まっていた。
「脱出用艇は打ち出されてから、回収まで搭載された電子脳がビーコンを出して宇宙局に位置を知らせますので、行方不明になる事はございません」
言ってドアを閉める。アンドロイドは何故か乗らない。脱出用艇には重工業の製造部門の人間も乗った。
「やあ久しぶり」
アイザックと製造部門のクラベースは同期だった。昔の話に花が咲き、搭乗しているのが2人だけとは気づかなかった。ジェットが噴射して旅客船から離れる。
「おい、まだ宇宙局は来ないのか」
クラベースは電子脳に言う。
「ビーコンが不調でして、宇宙局はこの脱出用艇を見失っております」
電子脳は答える。
「おい、まだか」
アイザックも言う。電子脳の口調がアリシアになる。
「犯罪者には良い罰と思うわ。あなたたちはここで死ぬの。リサの体が溶けた罰を、あなた方の体で償うといい」
脱出用艇のエンジンが止まる。そしてエンジンから充電していた電池が、充電切れで室内の灯りも消える。室内を廻っていた空調も止まる。
6ヶ月後、行方不明だった脱出用艇が発見されるが、白骨化した遺体が2体、座席から這い出した格好で腐っている。宇宙局員は室内の腐った状況に顔を顰めた。
「これは酷い。旅客船から脱走した重工業の2人だな」
宇宙局員は言った。
「脱走したが電池が切れて一貫の終わりか。これで、あのプリサンドとベネサンラの争いは戦争に移行するな」
別の宇宙局員が言う。不正に端を発したプリサンド王国とベネサンラ共和国の争いは始まったばかりである。
粗悪な宇宙船を売りつけられて怒った傭兵が紛争を起こした事は建前で、プリサンド王国に不正を働いたのが原因だと後世の歴史家は言う。ただプリサンド王国重工業の2人が逃亡して判決を受けていないという終わり方になっているのが開戦を止めていた。
「これを曳行して宇宙局に運ぶのは無理だな。臭いも酷い。よし調べたら爆破だ。226を使え」
リーダーが指令を出す。スミスと違って爆弾226が使われる。2260は爆破の範囲が広すぎるのだ。
「爆破します」
宇宙局員が爆破スイッチを押す。遺体と脱出用艇は爆破された。宇宙空間に金属のかけらが散らばる。
宇宙局は不明の重工業の犯人の腐乱死体を確認、爆破処理済みと簡単にファイルに記録すると通常のパトロールに戻った。
プリサンド王国が第2次惑星戦争を始めるのは、それからすぐである。
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