悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

文字の大きさ
4 / 28

4

しおりを挟む
セシリア様の専用サロン。そこはまさに、私が夢にまで見た「富の象徴」が詰め込まれた空間でした。

壁には名画、床には最高級の絨毯、そしてテーブルの上には、宝石箱をひっくり返したような色とりどりの焼き菓子。

「ああ、この空間の二酸化炭素を瓶詰めにして売りに出したいくらいですわ。きっと富裕層の香りがしますもの」

私は焼きたてのスコーンに、これでもかというほどクロテッドクリームを塗りたくりながら呟きました。

「……ルミエル。貴女、さっきから口元にクリームがついているわよ。あと、二酸化炭素を売るという発想が貧民街の商人みたいだわ」

セシリア様が、呆れたように私の顔を布巾で拭いてくれました。

公爵令嬢に顔を拭かせる男爵令嬢。客観的に見れば不敬極まりない光景ですが、今の私たちにはこれが日常になりつつあります。

「ところで、ルミエル。一つ聞いてもいいかしら?」

セシリア様が、少し真剣な表情でティーカップを置きました。

「なんですの? おかわりなら、まだ私の胃袋には余裕がありますわよ。むしろマカロン一箱分くらいの空きは常備しておりますわ」

「そうではないわ。……貴女、どうしてそこまで私のために一生懸命になってくれるの?」

セシリア様の瞳が、純粋な疑問と感謝で揺れています。

「私、気づいたの。貴女は自分の時間を削ってまで、私に挨拶の仕方を教えたり、王子の好みを分析したりしてくれているわ。……これって、無償の愛じゃないかしら?」

「ぶっ……!」

私は食べていたスコーンを吹き出しそうになりました。

無償の愛! なんて恐ろしい言葉でしょう! 私の辞書にそんな赤字覚悟の言葉は載っていませんわ!

「お聞きなさい、セシリア様。私は、愛や正義なんていう、お腹が膨れないもののために動いたことは一度もございませんわよ!」

「えっ? でも、あんなに熱心に指導してくれているじゃない」

「それは、セシリア様に完璧な『公爵夫人』になっていただかないと、私の人生設計が狂うからですわ!」

私は力強くテーブルを叩きました。

「私の夢、それは『一生働かずに、金貨の山に囲まれて眠ること』です! 昼過ぎに起きて、メイドに服を着せてもらい、最高級の肉を食べて、飽きたら宝石を眺めて一日を終える! これこそが、私の目指す至高の終着駅ですわ!」

私は一切の照れも隠し立てもなく、自分の真っ黒な欲望をぶちまけました。

セシリア様は、口を半開きにして私を見つめています。

「……つまり、貴女は自分が楽をするために、私を教育しているというの?」

「その通りです! セシリア様が第一王子と無事に結婚し、公爵家の力を維持すれば、貴女は社交界の頂点に立ちます。そうすれば、貴女の紹介する人物は、誰もが認める超一流の優良物件。……そこに私をねじ込んでいただく。これがお礼の品ですわ!」

私はふんぞり返って、高らかに宣言しました。

「友情? 慈悲? そんなものは、後のせサクサクのトッピングに過ぎませんわ! 本体は、あくまでも私の『安泰な将来』です!」

これだけハッキリと言えば、さすがのセシリア様も呆れて、私のことを軽蔑するでしょう。

それでいいのです。偽りの友情で塗り固めるより、利害関係が一致している方が、契約としては強固なのですから。

ところが、セシリア様はなぜか感動したように瞳を潤ませ始めました。

「……素晴らしいわ、ルミエル!」

「……はい?」

「貴女、自分の本心を隠さずに、そこまで率直に語ってくれるなんて! しかも、その『働かない生活』という言葉の裏にある、深い覚悟を感じるわ!」

「……覚悟、ですか?」

「ええ! つまり貴女は、没落しかけている下級貴族の現状を打破するために、あえて自分が汚れ役を引き受けて、貴族社会に一石を投じようとしているのね? 『働かなくてもいい社会』を作る……なんて崇高な理想なのかしら!」

「いえ、単に私がダラダラしたいだけなのですけれど」

「謙遜しないで! 貴女のその強い意志、しかと受け取ったわ。わかったわ、ルミエル。私が必ず王妃になって、貴女にこの国で一番の金持ちを紹介してあげる!」

セシリア様は私の手を握り、激しく上下に振りました。

この人、想像以上にポジティブ変換機能がバグっていらっしゃいますわ!

「(……まあ、いいですわ。結果的に、私の望む報酬が手に入るのなら、解釈の違いなんて些細な問題ですわね)」

私は、握られた手を握り返し、商談成立の笑みを浮かべました。

その時でした。

「……『不労所得』のために公爵令嬢をプロデュースする男爵令嬢か。実に救いようがないな」

サロンの入り口に、いつの間にかクロード様が立っていました。

彼は壁に背を預け、冷ややかな視線をこちらに投げかけています。

「クロード様!? いつからそこに!?」

セシリア様が驚いて立ち上がりました。

「最初からだ。ルミエル・ダントン、君の『至高の終着駅』とやらの話、非常に興味深く聞かせてもらったよ」

クロード様が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきます。

その一歩一歩が、高級な革靴の音と共に私の心臓を圧迫します。

「君は、セシリア嬢に『一流の物件』を紹介させるのが目的だと言ったな?」

「え、ええ。それが何か? 私の労働に対する、正当な対価ですわ」

私は震える脚を隠し、精一杯の強がりを言いました。

クロード様は私の目の前で立ち止まり、ふっと口角を上げました。

それは、獲物を追い詰めた猛禽類のような、冷徹で美しい笑みでした。

「なら、他人に頼る必要はないだろう。……この国で最も資産を持ち、最も権力を持ち、そして君の言う『働かずに暮らせる環境』を提供できる男なら、今、君の目の前にいる」

「……へ?」

「セシリア。この娘の教育係は、私が引き継ぐ。……ルミエル、君にはもっと、効率的な『稼ぎ方』を教えてやろう」

「(……これって、スカウト? それとも、公文書偽造の片棒を担がされるフラグ!?)」

私の金持ちセンサーが、かつてないほどの激しい警告音を鳴らし始めました。

どうやら私の玉の輿計画は、予想もしない方向へと加速し始めたようです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...