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セシリア様の専用サロン。そこはまさに、私が夢にまで見た「富の象徴」が詰め込まれた空間でした。
壁には名画、床には最高級の絨毯、そしてテーブルの上には、宝石箱をひっくり返したような色とりどりの焼き菓子。
「ああ、この空間の二酸化炭素を瓶詰めにして売りに出したいくらいですわ。きっと富裕層の香りがしますもの」
私は焼きたてのスコーンに、これでもかというほどクロテッドクリームを塗りたくりながら呟きました。
「……ルミエル。貴女、さっきから口元にクリームがついているわよ。あと、二酸化炭素を売るという発想が貧民街の商人みたいだわ」
セシリア様が、呆れたように私の顔を布巾で拭いてくれました。
公爵令嬢に顔を拭かせる男爵令嬢。客観的に見れば不敬極まりない光景ですが、今の私たちにはこれが日常になりつつあります。
「ところで、ルミエル。一つ聞いてもいいかしら?」
セシリア様が、少し真剣な表情でティーカップを置きました。
「なんですの? おかわりなら、まだ私の胃袋には余裕がありますわよ。むしろマカロン一箱分くらいの空きは常備しておりますわ」
「そうではないわ。……貴女、どうしてそこまで私のために一生懸命になってくれるの?」
セシリア様の瞳が、純粋な疑問と感謝で揺れています。
「私、気づいたの。貴女は自分の時間を削ってまで、私に挨拶の仕方を教えたり、王子の好みを分析したりしてくれているわ。……これって、無償の愛じゃないかしら?」
「ぶっ……!」
私は食べていたスコーンを吹き出しそうになりました。
無償の愛! なんて恐ろしい言葉でしょう! 私の辞書にそんな赤字覚悟の言葉は載っていませんわ!
「お聞きなさい、セシリア様。私は、愛や正義なんていう、お腹が膨れないもののために動いたことは一度もございませんわよ!」
「えっ? でも、あんなに熱心に指導してくれているじゃない」
「それは、セシリア様に完璧な『公爵夫人』になっていただかないと、私の人生設計が狂うからですわ!」
私は力強くテーブルを叩きました。
「私の夢、それは『一生働かずに、金貨の山に囲まれて眠ること』です! 昼過ぎに起きて、メイドに服を着せてもらい、最高級の肉を食べて、飽きたら宝石を眺めて一日を終える! これこそが、私の目指す至高の終着駅ですわ!」
私は一切の照れも隠し立てもなく、自分の真っ黒な欲望をぶちまけました。
セシリア様は、口を半開きにして私を見つめています。
「……つまり、貴女は自分が楽をするために、私を教育しているというの?」
「その通りです! セシリア様が第一王子と無事に結婚し、公爵家の力を維持すれば、貴女は社交界の頂点に立ちます。そうすれば、貴女の紹介する人物は、誰もが認める超一流の優良物件。……そこに私をねじ込んでいただく。これがお礼の品ですわ!」
私はふんぞり返って、高らかに宣言しました。
「友情? 慈悲? そんなものは、後のせサクサクのトッピングに過ぎませんわ! 本体は、あくまでも私の『安泰な将来』です!」
これだけハッキリと言えば、さすがのセシリア様も呆れて、私のことを軽蔑するでしょう。
それでいいのです。偽りの友情で塗り固めるより、利害関係が一致している方が、契約としては強固なのですから。
ところが、セシリア様はなぜか感動したように瞳を潤ませ始めました。
「……素晴らしいわ、ルミエル!」
「……はい?」
「貴女、自分の本心を隠さずに、そこまで率直に語ってくれるなんて! しかも、その『働かない生活』という言葉の裏にある、深い覚悟を感じるわ!」
「……覚悟、ですか?」
「ええ! つまり貴女は、没落しかけている下級貴族の現状を打破するために、あえて自分が汚れ役を引き受けて、貴族社会に一石を投じようとしているのね? 『働かなくてもいい社会』を作る……なんて崇高な理想なのかしら!」
「いえ、単に私がダラダラしたいだけなのですけれど」
「謙遜しないで! 貴女のその強い意志、しかと受け取ったわ。わかったわ、ルミエル。私が必ず王妃になって、貴女にこの国で一番の金持ちを紹介してあげる!」
セシリア様は私の手を握り、激しく上下に振りました。
この人、想像以上にポジティブ変換機能がバグっていらっしゃいますわ!
「(……まあ、いいですわ。結果的に、私の望む報酬が手に入るのなら、解釈の違いなんて些細な問題ですわね)」
私は、握られた手を握り返し、商談成立の笑みを浮かべました。
その時でした。
「……『不労所得』のために公爵令嬢をプロデュースする男爵令嬢か。実に救いようがないな」
サロンの入り口に、いつの間にかクロード様が立っていました。
彼は壁に背を預け、冷ややかな視線をこちらに投げかけています。
「クロード様!? いつからそこに!?」
セシリア様が驚いて立ち上がりました。
「最初からだ。ルミエル・ダントン、君の『至高の終着駅』とやらの話、非常に興味深く聞かせてもらったよ」
クロード様が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきます。
その一歩一歩が、高級な革靴の音と共に私の心臓を圧迫します。
「君は、セシリア嬢に『一流の物件』を紹介させるのが目的だと言ったな?」
「え、ええ。それが何か? 私の労働に対する、正当な対価ですわ」
私は震える脚を隠し、精一杯の強がりを言いました。
クロード様は私の目の前で立ち止まり、ふっと口角を上げました。
それは、獲物を追い詰めた猛禽類のような、冷徹で美しい笑みでした。
「なら、他人に頼る必要はないだろう。……この国で最も資産を持ち、最も権力を持ち、そして君の言う『働かずに暮らせる環境』を提供できる男なら、今、君の目の前にいる」
「……へ?」
「セシリア。この娘の教育係は、私が引き継ぐ。……ルミエル、君にはもっと、効率的な『稼ぎ方』を教えてやろう」
「(……これって、スカウト? それとも、公文書偽造の片棒を担がされるフラグ!?)」
私の金持ちセンサーが、かつてないほどの激しい警告音を鳴らし始めました。
どうやら私の玉の輿計画は、予想もしない方向へと加速し始めたようです。
壁には名画、床には最高級の絨毯、そしてテーブルの上には、宝石箱をひっくり返したような色とりどりの焼き菓子。
「ああ、この空間の二酸化炭素を瓶詰めにして売りに出したいくらいですわ。きっと富裕層の香りがしますもの」
私は焼きたてのスコーンに、これでもかというほどクロテッドクリームを塗りたくりながら呟きました。
「……ルミエル。貴女、さっきから口元にクリームがついているわよ。あと、二酸化炭素を売るという発想が貧民街の商人みたいだわ」
セシリア様が、呆れたように私の顔を布巾で拭いてくれました。
公爵令嬢に顔を拭かせる男爵令嬢。客観的に見れば不敬極まりない光景ですが、今の私たちにはこれが日常になりつつあります。
「ところで、ルミエル。一つ聞いてもいいかしら?」
セシリア様が、少し真剣な表情でティーカップを置きました。
「なんですの? おかわりなら、まだ私の胃袋には余裕がありますわよ。むしろマカロン一箱分くらいの空きは常備しておりますわ」
「そうではないわ。……貴女、どうしてそこまで私のために一生懸命になってくれるの?」
セシリア様の瞳が、純粋な疑問と感謝で揺れています。
「私、気づいたの。貴女は自分の時間を削ってまで、私に挨拶の仕方を教えたり、王子の好みを分析したりしてくれているわ。……これって、無償の愛じゃないかしら?」
「ぶっ……!」
私は食べていたスコーンを吹き出しそうになりました。
無償の愛! なんて恐ろしい言葉でしょう! 私の辞書にそんな赤字覚悟の言葉は載っていませんわ!
「お聞きなさい、セシリア様。私は、愛や正義なんていう、お腹が膨れないもののために動いたことは一度もございませんわよ!」
「えっ? でも、あんなに熱心に指導してくれているじゃない」
「それは、セシリア様に完璧な『公爵夫人』になっていただかないと、私の人生設計が狂うからですわ!」
私は力強くテーブルを叩きました。
「私の夢、それは『一生働かずに、金貨の山に囲まれて眠ること』です! 昼過ぎに起きて、メイドに服を着せてもらい、最高級の肉を食べて、飽きたら宝石を眺めて一日を終える! これこそが、私の目指す至高の終着駅ですわ!」
私は一切の照れも隠し立てもなく、自分の真っ黒な欲望をぶちまけました。
セシリア様は、口を半開きにして私を見つめています。
「……つまり、貴女は自分が楽をするために、私を教育しているというの?」
「その通りです! セシリア様が第一王子と無事に結婚し、公爵家の力を維持すれば、貴女は社交界の頂点に立ちます。そうすれば、貴女の紹介する人物は、誰もが認める超一流の優良物件。……そこに私をねじ込んでいただく。これがお礼の品ですわ!」
私はふんぞり返って、高らかに宣言しました。
「友情? 慈悲? そんなものは、後のせサクサクのトッピングに過ぎませんわ! 本体は、あくまでも私の『安泰な将来』です!」
これだけハッキリと言えば、さすがのセシリア様も呆れて、私のことを軽蔑するでしょう。
それでいいのです。偽りの友情で塗り固めるより、利害関係が一致している方が、契約としては強固なのですから。
ところが、セシリア様はなぜか感動したように瞳を潤ませ始めました。
「……素晴らしいわ、ルミエル!」
「……はい?」
「貴女、自分の本心を隠さずに、そこまで率直に語ってくれるなんて! しかも、その『働かない生活』という言葉の裏にある、深い覚悟を感じるわ!」
「……覚悟、ですか?」
「ええ! つまり貴女は、没落しかけている下級貴族の現状を打破するために、あえて自分が汚れ役を引き受けて、貴族社会に一石を投じようとしているのね? 『働かなくてもいい社会』を作る……なんて崇高な理想なのかしら!」
「いえ、単に私がダラダラしたいだけなのですけれど」
「謙遜しないで! 貴女のその強い意志、しかと受け取ったわ。わかったわ、ルミエル。私が必ず王妃になって、貴女にこの国で一番の金持ちを紹介してあげる!」
セシリア様は私の手を握り、激しく上下に振りました。
この人、想像以上にポジティブ変換機能がバグっていらっしゃいますわ!
「(……まあ、いいですわ。結果的に、私の望む報酬が手に入るのなら、解釈の違いなんて些細な問題ですわね)」
私は、握られた手を握り返し、商談成立の笑みを浮かべました。
その時でした。
「……『不労所得』のために公爵令嬢をプロデュースする男爵令嬢か。実に救いようがないな」
サロンの入り口に、いつの間にかクロード様が立っていました。
彼は壁に背を預け、冷ややかな視線をこちらに投げかけています。
「クロード様!? いつからそこに!?」
セシリア様が驚いて立ち上がりました。
「最初からだ。ルミエル・ダントン、君の『至高の終着駅』とやらの話、非常に興味深く聞かせてもらったよ」
クロード様が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきます。
その一歩一歩が、高級な革靴の音と共に私の心臓を圧迫します。
「君は、セシリア嬢に『一流の物件』を紹介させるのが目的だと言ったな?」
「え、ええ。それが何か? 私の労働に対する、正当な対価ですわ」
私は震える脚を隠し、精一杯の強がりを言いました。
クロード様は私の目の前で立ち止まり、ふっと口角を上げました。
それは、獲物を追い詰めた猛禽類のような、冷徹で美しい笑みでした。
「なら、他人に頼る必要はないだろう。……この国で最も資産を持ち、最も権力を持ち、そして君の言う『働かずに暮らせる環境』を提供できる男なら、今、君の目の前にいる」
「……へ?」
「セシリア。この娘の教育係は、私が引き継ぐ。……ルミエル、君にはもっと、効率的な『稼ぎ方』を教えてやろう」
「(……これって、スカウト? それとも、公文書偽造の片棒を担がされるフラグ!?)」
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