悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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クロード様の「私が引き継ぐ」という不穏な宣言から一夜明け、私は学園の空き教室にセシリア様を呼び出していました。

宰相閣下からのスカウト(?)という名の脅しは一旦、脳内の「見なかったことリスト」の最下層に放り込みました。

今の私にとって最優先すべきは、投資対象であるセシリア様の価値を上げることです。

「いいですか、セシリア様。昨日も申し上げましたが、貴女の笑顔には『物理的な破壊力』が宿りすぎていますわ」

私は教壇の上に立ち、手鏡を持ったセシリア様を指差しました。

「失礼ね。私は鏡の前で三時間も練習したのよ。これ以上、どうしろと言うの?」

「三時間も呪いの儀式をしていたのですか!? それは顔の筋肉も強張りますわ! さあ、まずは顔の力を抜いて。ぶるぶるー、ですわよ!」

私が頬を揺らしておどけて見せると、セシリア様は「……貴族がそんな顔をするなんて」と絶句しながらも、おずおずと真似をし始めました。

「ぶ、ぶるぶる……。……ルミエル、これでいいのかしら?」

「ええ、少しは毒気が抜けましたわ! では、次が本番です。セシリア様、貴女の頭の中にある『最も幸せな光景』を思い浮かべてください。エドワード様からの求婚? それとも、私に金塊をくれる瞬間かしら?」

「後者は貴女の幸せでしょ! ……そうね。エドワード様が私に、以前のように優しく微笑んでくれた時のことを……」

セシリア様が目を閉じ、そっと口角を上げました。

それは、これまでの威圧感とは異なる、どこか儚げで少女らしい笑みでした。

「(……あら、意外と……いえ、普通に美しいですわね。さすがは公爵令嬢)」

私は一瞬だけ、その美貌に見惚れてしまいました。

しかし、商魂逞しい私はすぐに我に返ります。この美貌は、高値で売れる……ではなく、円満な婚約継続に不可欠な武器です。

「合格ですわ! その表情を維持したまま、目を開けてください! 鏡を見て!」

セシリア様がゆっくりと目を開け、鏡に映る自分を見つめました。

「これが……私? 何だか、自分じゃないみたいだわ。あんなに尖っていた顔が、こんなに……」

「それが本来の貴女ですわ。セシリア様、自信を持ってください。貴女はトゲさえ隠せば、この国で一番の『守ってあげたい令嬢』になれるのです!」

「守ってあげたい……。私が、誰かに守られるなんて……。……ルミエル、貴女って本当に不思議な人ね」

セシリア様が感極まったように私の手を取りました。

「他の令嬢たちは、私の顔色を伺って媚びるか、裏で悪口を言うかだったけれど。貴女だけは、私の幸せを……私の本当の姿を見てくれる……!」

「(……いえ、私はただ、紹介状と金貨を見ているだけなのですが!)」

罪悪感が一瞬だけ喉元まで来ましたが、私はそれを高級紅茶で流し込むように飲み込みました。

「さて、特訓の成果を試す時が来ましたわ。ちょうど向こうの廊下を、エドワード様が歩いていらっしゃいます!」

「えっ!? 心の準備が!」

「準備なんてしている暇はありません! 行って、あの『陽だまりの微笑み』を殿下に叩きつけるのです!」

私は慌てるセシリア様の背中を、物理的に突き飛ばしました。

廊下に出たセシリア様の目の前には、側近たちと談笑するエドワード王子の姿がありました。

王子はこちらに気づき、露骨に「またか」という顔をしましたが、セシリア様は逃げませんでした。

「……エドワード様。ごきげんよう」

彼女は立ち止まり、先ほど鏡の前で見せた、柔らかい微笑みを浮かべました。

その場が、静まり返りました。

王子の隣にいた側近たちが、持っていた書類をバサバサと落とします。

「……セ、セシリア? 君、今……」

エドワード王子が絶句し、自分の目を疑うように瞬きを繰り返しました。

「……何か、おかしなことがありましたでしょうか? 今日はとても良いお天気でしたので、殿下のお顔を拝見できて、つい嬉しくなってしまったのですわ」

セシリア様は、恥ずかしそうに頬を染めながら視線を伏せました。

完璧です。完璧すぎて、後ろで見守る私が拍手喝采を送りたいほどです。

王子の顔が、見る見るうちに赤くなっていくのが分かりました。

「い、いや。……そうか。……ああ、そうだな。今日は、良い天気だ」

王子は動揺を隠すように咳払いをし、足早に去っていきました。

しかし、その歩みはどこか浮ついており、耳の裏まで真っ赤です。

「ルミエル! 見た!? 王子様が、私の目を見て話してくれたわ!」

セシリア様がこちらに駆け寄り、子供のように飛び跳ねました。

「大勝利ですわ、セシリア様! 殿下の心臓に、私の特訓という名の矢が突き刺さりましたわ!」

「ありがとう、ルミエル! 本当に貴女のおかげよ!」

私たちは抱き合い、喜びを分かち合いました。

……まあ、私は彼女のドレスの刺繍に使われている金糸の価値を計算していましたが。

しかし、そんな私たちの祝杯を阻む影が一つ。

「……ほう。猛獣に首輪をはめるだけでなく、芸まで仕込むとはな」

冷ややかな、しかしどこか愉悦を含んだ声。

振り向くと、柱に寄りかかって腕を組んでいるクロード様の姿がありました。

「クロード様! ずっと見ていらっしゃったのですか!?」

セシリア様が頬を膨らませて抗議しましたが、クロード様の視線は彼女ではなく、真っ直ぐに私に向けられていました。

「ルミエル・ダントン。君のその『プロデュース能力』、学園内の小さな恋路で終わらせるには、あまりにも惜しい」

クロード様が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきます。

彼はセシリア様を促して下がらせると、私の耳元で低く囁きました。

「明日、私の執務室へ来い。……断れば、君の『働かない生活』の夢を、国家反逆罪並みの難易度に変えてやろう」

「(……それ、絶対に行ってはいけないタイプの招待状ですわよね!?)」

金貨の山へ続く道に、突如として魔王の城が現れたような気分です。

私は引きつった笑顔で、「喜んで……」と答えるしかありませんでした。
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