悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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王宮の一角にある、宰相閣下の執務室。

その重厚な扉の前に立った瞬間、私の金持ちセンサーは「これ以上は危険よ!」と「でもお宝がいっぱいよ!」という二つの叫び声で板挟みになっていました。

「(落ち着きなさい、ルミエル。相手は泣く子も黙る冷徹宰相。でも、あの人の年収は国家予算の数パーセントに及ぶという噂……。粗相さえしなければ、金脈への近道ですわ!)」

私は深呼吸をして、震える手でドアをノックしました。

「失礼いたします、クロード閣下。男爵令嬢ルミエル・ダントン、お呼び出しに従い参上いたしましたわ」

「入れ」

短く、重みのある声。

中に入ると、そこには壁一面の本棚と、象牙をあしらったと思われる巨大な執務机。そして、その奥で優雅に書類に目を通すクロード様の姿がありました。

「そこに座れ。……茶は自分で淹れろと言いたいところだが、君が淹れると毒でも盛りそうだからな。大人しく待っていろ」

クロード様がベルを鳴らすと、音もなく現れた従者が、私の実家の家宝よりも高そうなカップに琥珀色の液体を注いでいきました。

「さて、ルミエル。君の『公爵令嬢改造計画』だが。……案外、馬鹿にできない成果を上げているようだな」

クロード様が眼鏡を外し、鋭い瞳で私を射抜きました。

「……身に余る光栄ですわ。ですが、私はただセシリア様の本来の魅力を引き出しただけに過ぎません」

「白々しい。君が動く動機は、常に『金』と『安泰』だろう? 先日のサロンでの演説、忘れたとは言わせないぞ」

私はカップを持つ手が少しだけ跳ねました。この男、やはりすべてを聞いていたのですわ。

「……左様でございます。私は、自分が働かずに贅沢三昧をするために、セシリア様に幸せになっていただきたいのです。それが何か問題でも?」

開き直ってそう告げると、クロード様は意外にも声を立てて笑いました。

「いや、素晴らしい。私欲のために他者を救う。その徹底した利己主義、嫌いではない。……そこで提案だ。ルミエル、君のその観察眼と人心掌握術を、私の下で使ってみないか?」

「……はい? 私を、宰相府で働かせるおつもりですか? 冗談ではありませんわ! 私の夢は『働かないこと』だと言ったはずです!」

「勘違いするな。これは『投資』だ。君がセシリアを無事に王家へ嫁がせることができれば、その報酬として、私が君に相応しい『寄生先』を用意してやろうと言っているんだ」

寄生先。なんて甘美な響きでしょう。

「それは、若くて、顔が良くて、性格が大人しくて、何より金貨の海に私を沈めてくれるようなお方ですの?」

「……条件が多すぎるが、努力はしよう。その代わり、君には学園内の不穏な動きを報告してもらう。……特に、エドワード王子の周辺だ」

クロード様の目が、一瞬だけ鋭さを増しました。

「殿下の、周辺……?」

「ああ。最近の殿下は、どうも判断力が鈍っている。例の特待生、マリアだったか。彼女に執心するあまり、公務を疎かにし始めているのだ。君の力で、殿下をセシリアの方へ完全に引き戻せ」

私は内心でガッツポーズをしました。

「(お安い御用ですわ! むしろ、それが私の本業ですから!)」

クロード様との「秘密の契約」を交わし、私は意気揚々と執務室を後にしました。

翌日。学園に登校すると、そこには信じられない光景が広がっていました。

中庭のベンチで、エドワード王子がぼんやりと空を眺めていたのです。しかも、隣にマリアさんがいるわけでもないのに。

「……殿下? いかがなさいましたか? まるで魂をどこかへ落とされたようなお顔ですわ」

私が声をかけると、王子はびくりと肩を揺らして私を見ました。

「だ、ダントン嬢か。……いや、何でもない。ただ、昨日のセシリアの顔が、どうにも頭から離れなくてな」

王子の顔が、かすかに赤らみます。

「今まで、彼女はいつも私の粗探しをしては、金切り声を上げるだけだと思っていた。……だが、昨日のあの笑み。あれは、何だったんだろうな。あんなに穏やかな表情を、彼女が隠し持っていたなんて……」

「それは殿下、セシリア様が貴方を想うあまり、必死に自分を律していらっしゃる証拠ですわ。本当の彼女は、とても繊細で可愛らしい女性なのです」

私は畳みかけるように、嘘八百……ではなく、誇張千百くらいの勢いでセシリア様を称賛しました。

「繊細、か。……確かに、昨日の彼女の手は、少し震えていたような気がする。……私は彼女のことを、何も分かっていなかったのかもしれないな」

王子の瞳に、これまでにはなかった迷いと、熱い光が宿り始めました。

「(ふふふ……! キタキタキタキター! 恋の歯車が、金貨の音を立てて回り始めましたわ!)」

マリアさんという「癒やし」に逃げていた王子が、今、セシリア様という「本物の華」のギャップに落ちようとしています。

「殿下、今こそセシリア様に、殿下の方から声をかけて差し上げるべきですわ。彼女、きっとお部屋で殿下からの言葉を待って、枕を濡らしていらっしゃいますから!」

「ま、枕を!? セシリアがそこまで……。わかった、今日の放課後、彼女を誘ってみよう」

王子は決意を秘めた表情で立ち上がり、去っていきました。

その背中を見送りながら、私は勝利の美酒(中身は学園の無料の湧き水)を飲む気分でした。

しかし、私の計画が順調に進めば進むほど、背後に忍び寄る「真の玉の輿」の視線には、まだ気づいていなかったのです。
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