悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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セシリア様とエドワード王子の仲が急速に改善されつつある今日この頃。

私の心の中では、ジャラジャラと景気の良い金貨の音が鳴り響いていました。

「(ああ、素晴らしいわ。投資した時間が着実に利子を生んで返ってきている感覚。これこそ人生の醍醐味ですわね)」

私は学生食堂で、一番安い素うどんを啜りながら、セシリア様から昨日お礼にいただいた高級絹のハンカチを眺めていました。

これを質屋に入れれば、今夜はステーキが食べられるかしら。いや、ここは我慢して、もっと大きなリターンを待つべきですわね。

そんな私の皮算用を打ち破るように、食堂の入り口が騒がしくなりました。

「あら、あれは特待生のマリアさん?」

周囲の令嬢たちが、ひそひそと囁き始めます。

見れば、マリアさんがハンカチで目元を抑えながら、ふらふらとした足取りで歩いているではありませんか。

彼女の後ろには、まるで示し合わせたかのようにエドワード王子と数人の側近たちが続いています。

「どうしたんだい、マリア。そんなに泣いて」

王子の声は、以前セシリア様に向けていた冷淡なものとは打って変わって、心配げで甘い響きを含んでいました。

「(……出ましたわね。悲劇のヒロイン・ムーブ。これは商売敵の常套手段ですわ!)」

私はうどんを飲み込み、ハンカチを懐に隠して状況を注視しました。

「いいえ、殿下。私が不注意だったのです。セシリア様に、少しだけお話を伺おうとしただけなのに。私の身分が低いから、お気に召さなかったのでしょう」

マリアさんが、震える声でそう言いました。

その言葉に、王子の表情がピクリと強張ります。

「セシリアが? だが、彼女は最近、とても穏やかになったはずだが」

「表面上は、そうかもしれません。でも、影では……『貴女のような平民が、いつまでも殿下の隣にいると思わないで』と、そう仰って。私の教科書を……」

マリアさんが、ボロボロになった教科書をそっと差し出しました。

「(嘘をおっしゃい! さっきまでセシリア様は私と一緒に、お茶会のドレスの金糸のグラム数を計算していたんですのよ!)」

セシリア様にそんな暇はありません。彼女は今、私の洗脳……いえ、教育によって「いかに慈悲深く見えるか」という研究に余念がないのですから。

これは完全なる冤罪。つまり、競合他社によるネガティブキャンペーンですわ!

「セシリア……。やはり、あの笑顔は作り物だったのか。裏でこんな卑劣な真似をしていたなんて」

王子の拳が震えています。

まずいですわ。このままでは私の投資先(セシリア様)の株価が大暴落してしまいます。

私は立ち上がり、あえて「偶然を装って」彼らの前に躍り出ました。

「おやおや、これは殿下! それにマリア様。一体、どのような騒ぎですの?」

私は最高にわざとらしい驚き顔を作って割り込みました。

「ダントン嬢か。……見ての通りだ。セシリアがまた、以前のような悪癖を出したらしい。マリアを傷つけたんだ」

王子の冷たい視線が私を射抜きます。

「まあ! セシリア様がそんなことを? それは奇妙な話ですわね」

私はマリアさんの持つ、ボロボロの教科書をひょいと取り上げました。

「(……ふむ。切り口が妙に直線的ですわね。これは魔法や事故ではなく、ハサミで丁寧に切り刻んだ跡。しかも、この切り方は……)」

私は、実家で長年、古い服を雑巾にリメイクしてきた経験から、刃物の扱いには人一倍詳しいのです。

「マリア様。この教科書、随分と思い切った切り方をされていますわね。まるで、誰かに見せるために時間をかけて加工したかのようですわ」

「な、何を仰るのですか、ルミエル様! 私は、セシリア様に魔法で切り裂かれたと言っているのです!」

マリアさんの目が泳ぎました。

「魔法? セシリア様の得意な属性は『炎』ですわよ。炎で焼かれたのならまだしも、こんなに綺麗な切断面になるはずがありませんわ。むしろ、これは……」

私は王子の耳元に顔を寄せ、囁きました。

「殿下。殿下は、ご自身を巡って女性たちが争う姿を、そんなに悲しく思われませんか? もし、これが何者かの自作自演だとしたら、それは殿下の御心を欺く不敬罪に当たりますわよ」

「じ、自作自演だと? だが、マリアがそんな嘘をつく理由が」

「理由は一つ。殿下の気を引くため、そして、今まさに殿下の心を奪い返そうとしているセシリア様を排除するためですわ」

私はマリアさんを真っ直ぐに見つめ、にっこりと微笑みました。

「マリア様。その教科書、後で私の部屋へ持ってきてくださる? 私、修繕が得意なんですの。ついでに、そのハサミで切ったような指の小さな傷も、お薬を塗ってあげますわ」

マリアさんの顔から、サァーっと血の気が引いていくのが分かりました。

「……あ、あの。いえ、やっぱり大丈夫です! 殿下、私、何だか気分が悪くなってきました。失礼します!」

マリアさんは教科書をひったくると、脱兎のごとく食堂から逃げ出していきました。

残された王子は、呆然とした様子で彼女の背中を見送っています。

「……ダントン嬢。今のは一体」

「女の戦いとは、常に目に見えないところで行われるものですわ、殿下。ですが、一つだけ信じてください。セシリア様は、今の殿下との関係を壊すような愚かな真似は、口が裂けてもなさいません」

なぜなら、壊したら私にどんな「更生(地獄)」をされるか、彼女自身が一番よく分かっているからです。

「そうか。……私は、また危うく判断を誤るところだった。ダントン嬢、君には感謝してもしきれないな」

「いえいえ。そのお言葉を、ぜひ今度の夜会でセシリア様に伝えてあげてください。それだけで十分でございますわ」

王子が去った後、私はようやく冷めきったうどんを啜り終えました。

「(……やれやれ。商売敵の排除も楽ではありませんわ。でも、これでマリアさんはしばらく大人しくなるはずですわね)」

私は満足げに席を立とうとしましたが、背後にいつの間にか立っていた影に気づき、心臓が跳ね上がりました。

「……相変わらず、鮮やかな立ち回りだな。ルミエル・ダントン」

「ク、クロード閣下! いつからそこに!?」

「君が、マリア嬢の教科書の切り口を鑑定し始めたあたりからだ。……君、本当に男爵令嬢か? 鑑識官の間違いではないのか」

クロード様が、面白そうに眼鏡を押し上げました。

「私はただ、自分の利益を守っただけですわ。……ところで閣下、そんなところで立ち聞きをしていたということは、私に何かご褒美でもくださるのかしら?」

私はずうずうしくも、彼の手元にある高価そうな革の手袋を指差しました。

「……報酬なら、既に君の寮の部屋へ届けてある。君の大好きな、最高級の金貨……と同じ重さの、超高密度の焼き菓子だ」

「お菓子! ……いえ、それも嬉しいですけれど、できれば換金性の高いものが良かったのですが!」

「欲張りな女だ。……だが、その欲の強さが、今のところは良い方向に働いているようだな」

クロード様は私の頭を、子供をあやすようにポンと一度だけ叩き、去っていきました。

「(……今の、何ですの!? まるで私が彼の所有物になったような……。いえ、気にしている暇はありませんわ! 寮に戻って、金貨並みの重さのお菓子を堪能しなければ!)」

私は、新たな恋の予感(?)よりも、食欲と金銭欲を優先して駆け出しました。
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