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「いいですか、セシリア様。お茶会とは、優雅に紅茶を啜る場ではありませんわ。あそこは、淑女たちの意地とプライドが激突する、血の流れない戦場なのです!」
私は扇子を指揮棒のように振り回し、セシリア様の前に立ちふさがりました。
今日の特訓場所は、公爵家の庭園を見渡せる秘密のガゼボ。
テーブルの上には、これでもかとばかりに高級な茶器が並んでいます。
「戦場って……貴女、例えが過激すぎるわよ。ただの親睦会でしょう?」
セシリア様が、少し引きつった顔でティーカップを持ち上げました。
「甘いですわ! 砂糖を三つ入れたマシュマロより甘いですわ、セシリア様!」
私は彼女のカップを持つ指先を、ピシッと指差しました。
「小指が立っていますわよ! それは成金がやりがちな間違いです。公爵令嬢たるもの、指先はあくまで自然に、しかし鋼のような意志を持って固定するのです」
「指一本にそこまで言わなくてもいいじゃないの。もう、疲れてしまったわ」
「ダメですわ! ここで妥協すれば、明日の『若草のお茶会』で、他の令嬢たちに心の隙を見せることになります」
私はセシリア様の背後に回り、その背筋をグイと押し込みました。
「今回の出席者には、あのマリア様の取り巻きも多いのです。彼女たちは、セシリア様が以前のようにヒステリックに怒鳴り散らすのを今か今かと待ち構えていますわ」
「……確かに、彼女たちのあのニヤついた顔を思い出すと、腹が立ってくるわね」
セシリア様の瞳に、わずかに負けん気の火が灯りました。
よし、いい傾向です。プライドを正しい方向へ誘導するのが、私のプロデューサーとしての手腕ですから。
「その怒りを、すべて『慈悲深い微笑み』に変換するのです。相手が何を言っても、『あら、そんなに私のことが気になるの? 可愛い方ね』という余裕を見せるのですわ」
「『可愛い方ね』……? 私が、あの方たちを?」
「そうですわ。猛獣が子猫を眺めるような、圧倒的な格の違いを見せつけるのです。いいですか、最高のマナーとは、相手に『この人には一生勝てない』と思わせる無言の圧力なのですから」
私はテーブルの上に並んだ、一つ数百万レアルは下らないであろう金縁の小皿をうっとりと見つめました。
「(ああ、このお皿。もしセシリア様が失敗して割ってしまったら、その破片だけでも持ち帰りたいですわ……)」
そんな不埒な思考をかき消すように、私は大きく手を叩きました。
「さあ、実践ですわ! 嫌味な令嬢Aが、セシリア様のドレスを『少し派手すぎて、殿下のお好みではないのでは?』と笑ったと仮定します。さあ、どう返しますか!」
セシリア様は一瞬だけ眉を寄せましたが、すぐに深呼吸をしました。
そして、私が教えた「陽だまりの微笑み」を浮かべ、鈴を転がすような声で応じました。
「まあ。殿下が私のために選んでくださった色ですけれど、貴女には少し眩しすぎたかしら? 繊細な感性をお持ちで羨ましいわ」
「ブラボー! 完璧ですわ、セシリア様! 相手の言葉を肯定しつつ、殿下との親密さをアピールし、さらに相手を『ひ弱な存在』として格付けする……。まさに悪役令嬢、いえ、社交界の女王の風格ですわ!」
私は自分の教え子が放つ、あまりにも鋭い切れ味の微笑みに、思わず鳥肌が立ちました。
「……自分でも驚いたわ。怒鳴るよりも、こうして笑っている方が、ずっと相手の顔が引きつるのが見えるものなのね」
セシリア様は、どこか楽しそうに手鏡で自分の表情を確認しています。
「その調子ですわ。明日は私も、貴女の侍女のふりをして潜入いたします。何かあれば、私が後ろで咳払いをして合図を送りますわね」
「貴女がいてくれるなら心強いわ。……でもルミエル、貴女のそのマナーの知識、一体どこで身につけたの? 男爵家では、そんな高度な教育は受けられないはずでしょう?」
鋭い質問が飛んできました。
私は一瞬だけ視線を泳がせましたが、すぐに「金への執着心」という盾を構えました。
「ふふふ。セシリア様、世の中には『一流を知らねば、一流の金持ちにはなれない』という格言があるのです。私は将来の旦那様の資産を完璧に管理するために、マナー本を一千冊は読破いたしましたわ!」
「……やっぱり、動機は全部お金なのね」
セシリア様が呆れたように笑いました。
しかし、その表情には以前のようなトゲはなく、親愛の情がたっぷりと含まれていました。
「(ふふ、それで良いのですわ。私が彼女を社交界の頂点に押し上げれば、私の報酬はさらに跳ね上がるのですから……!)」
特訓を終えた頃には、日はすっかり傾いていました。
私はセシリア様と別れ、寮への帰路を急いでいました。
「(明日の夜会。うまく行けば、有力な公爵家との繋がりが強固になる。そうなれば、私の玉の輿リストに新たな候補が……)」
暗い夜道を歩きながら、私は頭の中で「理想の結婚相手(資産額順)」を並べ替えていました。
しかし、その思考を遮るように、前方からカツン、カツンと規則正しい靴音が近づいてきました。
街灯に照らされたその影は、あまりにも長く、そして冷たい。
「……夜道で金貨の計算か? 精が出るな、ルミエル・ダントン」
「また閣下ですか!? 貴方は一体、何時に仕事を終えているのですの!」
現れたのは、やはりクロード様でした。
彼は執務服を少しだけ着崩し、疲れた様子も見せずにそこに立っていました。
「君の報告が遅いのでな。こちらから様子を見に来た。……セシリアの仕上がりはどうだ?」
「完璧すぎて、私が惚れそうなくらいですわ。明日の夜会で、彼女は名実ともに社交界の主役になります」
私は胸を張って答えました。
クロード様は私の顔をじっと見つめると、ふっと目を細めました。
「そうか。……なら、明日の夜会、私も顔を出すことにしよう」
「えっ? 閣下はこういう集まりがお嫌いなのでは?」
「ああ、大嫌いだ。だが……『投資先』が期待通りの成果を出す瞬間を、この目で見届けるのも悪くない」
クロード様は私の横を通り過ぎる際、私の肩に軽く手を置きました。
「……失敗するなよ、ルミエル。君の『働かない未来』が、私の気分次第であることを忘れるな」
「(……はいはい、わかっておりますわよ、パワハラ上司さん!)」
私は彼の背中に向かってあっかんべーをしたい衝動を抑え、深々とお辞儀をしてやり過ごしました。
明日は、私にとってもセシリア様にとっても、運命の分かれ道。
金貨の山を目指して、私は戦場へと赴く決意を固めました。
私は扇子を指揮棒のように振り回し、セシリア様の前に立ちふさがりました。
今日の特訓場所は、公爵家の庭園を見渡せる秘密のガゼボ。
テーブルの上には、これでもかとばかりに高級な茶器が並んでいます。
「戦場って……貴女、例えが過激すぎるわよ。ただの親睦会でしょう?」
セシリア様が、少し引きつった顔でティーカップを持ち上げました。
「甘いですわ! 砂糖を三つ入れたマシュマロより甘いですわ、セシリア様!」
私は彼女のカップを持つ指先を、ピシッと指差しました。
「小指が立っていますわよ! それは成金がやりがちな間違いです。公爵令嬢たるもの、指先はあくまで自然に、しかし鋼のような意志を持って固定するのです」
「指一本にそこまで言わなくてもいいじゃないの。もう、疲れてしまったわ」
「ダメですわ! ここで妥協すれば、明日の『若草のお茶会』で、他の令嬢たちに心の隙を見せることになります」
私はセシリア様の背後に回り、その背筋をグイと押し込みました。
「今回の出席者には、あのマリア様の取り巻きも多いのです。彼女たちは、セシリア様が以前のようにヒステリックに怒鳴り散らすのを今か今かと待ち構えていますわ」
「……確かに、彼女たちのあのニヤついた顔を思い出すと、腹が立ってくるわね」
セシリア様の瞳に、わずかに負けん気の火が灯りました。
よし、いい傾向です。プライドを正しい方向へ誘導するのが、私のプロデューサーとしての手腕ですから。
「その怒りを、すべて『慈悲深い微笑み』に変換するのです。相手が何を言っても、『あら、そんなに私のことが気になるの? 可愛い方ね』という余裕を見せるのですわ」
「『可愛い方ね』……? 私が、あの方たちを?」
「そうですわ。猛獣が子猫を眺めるような、圧倒的な格の違いを見せつけるのです。いいですか、最高のマナーとは、相手に『この人には一生勝てない』と思わせる無言の圧力なのですから」
私はテーブルの上に並んだ、一つ数百万レアルは下らないであろう金縁の小皿をうっとりと見つめました。
「(ああ、このお皿。もしセシリア様が失敗して割ってしまったら、その破片だけでも持ち帰りたいですわ……)」
そんな不埒な思考をかき消すように、私は大きく手を叩きました。
「さあ、実践ですわ! 嫌味な令嬢Aが、セシリア様のドレスを『少し派手すぎて、殿下のお好みではないのでは?』と笑ったと仮定します。さあ、どう返しますか!」
セシリア様は一瞬だけ眉を寄せましたが、すぐに深呼吸をしました。
そして、私が教えた「陽だまりの微笑み」を浮かべ、鈴を転がすような声で応じました。
「まあ。殿下が私のために選んでくださった色ですけれど、貴女には少し眩しすぎたかしら? 繊細な感性をお持ちで羨ましいわ」
「ブラボー! 完璧ですわ、セシリア様! 相手の言葉を肯定しつつ、殿下との親密さをアピールし、さらに相手を『ひ弱な存在』として格付けする……。まさに悪役令嬢、いえ、社交界の女王の風格ですわ!」
私は自分の教え子が放つ、あまりにも鋭い切れ味の微笑みに、思わず鳥肌が立ちました。
「……自分でも驚いたわ。怒鳴るよりも、こうして笑っている方が、ずっと相手の顔が引きつるのが見えるものなのね」
セシリア様は、どこか楽しそうに手鏡で自分の表情を確認しています。
「その調子ですわ。明日は私も、貴女の侍女のふりをして潜入いたします。何かあれば、私が後ろで咳払いをして合図を送りますわね」
「貴女がいてくれるなら心強いわ。……でもルミエル、貴女のそのマナーの知識、一体どこで身につけたの? 男爵家では、そんな高度な教育は受けられないはずでしょう?」
鋭い質問が飛んできました。
私は一瞬だけ視線を泳がせましたが、すぐに「金への執着心」という盾を構えました。
「ふふふ。セシリア様、世の中には『一流を知らねば、一流の金持ちにはなれない』という格言があるのです。私は将来の旦那様の資産を完璧に管理するために、マナー本を一千冊は読破いたしましたわ!」
「……やっぱり、動機は全部お金なのね」
セシリア様が呆れたように笑いました。
しかし、その表情には以前のようなトゲはなく、親愛の情がたっぷりと含まれていました。
「(ふふ、それで良いのですわ。私が彼女を社交界の頂点に押し上げれば、私の報酬はさらに跳ね上がるのですから……!)」
特訓を終えた頃には、日はすっかり傾いていました。
私はセシリア様と別れ、寮への帰路を急いでいました。
「(明日の夜会。うまく行けば、有力な公爵家との繋がりが強固になる。そうなれば、私の玉の輿リストに新たな候補が……)」
暗い夜道を歩きながら、私は頭の中で「理想の結婚相手(資産額順)」を並べ替えていました。
しかし、その思考を遮るように、前方からカツン、カツンと規則正しい靴音が近づいてきました。
街灯に照らされたその影は、あまりにも長く、そして冷たい。
「……夜道で金貨の計算か? 精が出るな、ルミエル・ダントン」
「また閣下ですか!? 貴方は一体、何時に仕事を終えているのですの!」
現れたのは、やはりクロード様でした。
彼は執務服を少しだけ着崩し、疲れた様子も見せずにそこに立っていました。
「君の報告が遅いのでな。こちらから様子を見に来た。……セシリアの仕上がりはどうだ?」
「完璧すぎて、私が惚れそうなくらいですわ。明日の夜会で、彼女は名実ともに社交界の主役になります」
私は胸を張って答えました。
クロード様は私の顔をじっと見つめると、ふっと目を細めました。
「そうか。……なら、明日の夜会、私も顔を出すことにしよう」
「えっ? 閣下はこういう集まりがお嫌いなのでは?」
「ああ、大嫌いだ。だが……『投資先』が期待通りの成果を出す瞬間を、この目で見届けるのも悪くない」
クロード様は私の横を通り過ぎる際、私の肩に軽く手を置きました。
「……失敗するなよ、ルミエル。君の『働かない未来』が、私の気分次第であることを忘れるな」
「(……はいはい、わかっておりますわよ、パワハラ上司さん!)」
私は彼の背中に向かってあっかんべーをしたい衝動を抑え、深々とお辞儀をしてやり過ごしました。
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