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「若草のお茶会」は大成功、いえ、大勝利に終わりました。
セシリア様が扇子を片手に優雅に微笑むたび、周囲の令嬢たちが「まあ、なんてお労しい」「以前の刺々しさは、きっとお疲れだったのね」と、勝手に良い方へ解釈していく様は圧巻でしたわ。
おかげで私の手元には、セシリア様からの「お礼」という名の高級品が次々と運び込まれています。
私は今、寮の自室で、こっそりと一冊のノートを広げていました。
「ふふふ、見てください。この輝かしい数字の羅列を。これこそが私の、明日への活力ですわ!」
そのノートの名前は『更生支援・特別経費内訳帳』。
一般的には「裏帳簿」と呼ばれる代物ですわね。
そこには、これまでにセシリア様から頂いた、あるいは「必要経費」として請求した品々が、時価換算でびっしりと書き込まれています。
【項目:マナー指導(特別集中講義) 報酬:最高級エシレバターのガレット三箱】
【項目:精神安定(愚痴聞き) 報酬:絹の刺繍入りハンカチ五枚】
【項目:緊急時対応(冤罪晴らし) 報酬:公爵家御用達の仕立券一枚】
「素晴らしい。このペースでいけば、学園を卒業する頃には、地方に小さな別荘の一つや二つ、現金で買えてしまいますわ!」
私は羽ペンを走らせながら、ニヤニヤと口角を上げました。
すると、ノックの音と共に、聞き慣れた高い声が響きました。
「ルミエル! 入ってもいいかしら?」
「ひゃいっ!? セ、セシリア様!?」
私は慌てて裏帳簿を座布団の下へ隠し、優雅な所作(のつもり)で扉を開けました。
「ごきげんよう、セシリア様。本日はどのような御用でしょうか?」
「昨日のお茶会のお礼を、まだ言い足りないと思って。これ、うちの領地で採れた最高級の蜂蜜を使ったコンフィチュールよ。貴女、甘いものが好きでしょう?」
セシリア様が差し出したのは、金色の蓋が眩しい、見るからに高価そうな小瓶でした。
「まあ! 嬉しいですわ! さあ、どうぞ中へ。今すぐ紅茶を淹れますわね(無料の安物ですけれど)」
「ええ、お邪魔するわ。……あら、ルミエル。貴女の部屋、何だか以前より少し……豪華になっていないかしら?」
セシリア様が、棚に飾られた銀のスプーンや、椅子に置かれた絹のクッションを鋭く見つめました。
「気のせいですわ。これはすべて、セシリア様に相応しい『友人』としての品格を保つための、いわば制服のようなものですもの」
「そう……? 貴女がそう言うなら、そうなのね。本当に、貴女って健気だわ」
セシリア様が、またしても聖母のような瞳で私を見つめました。
「ルミエル。私、考えてみたの。今の私は、貴女の献身的な支えがあってこそ存在しているわ。だから、これからも貴女を全力でバックアップしたいの」
「全力で、バックアップ……。その言葉、具体的には金銭的な……いえ、どのような意味でしょうか?」
「ドレスよ! 来週、エドワード様との親睦を深めるための『月見の晩餐会』があるでしょう? 貴女の分も、私が最高級のものを誂えてあげるわ!」
私は一瞬、目の前に金貨の雨が降る幻覚を見ました。
「最高級の……ドレス……。セシリア様、それはつまり、布地に宝石が埋め込まれていたり、希少な魔鳥の羽が使われていたりするタイプのものでしょうか?」
「ええ、もちろんよ! 貴女は私の大切な、たった一人の親友ですもの。妥協なんてさせないわ」
「(……きた! きたわ! 資産価値としてのドレスが! 万が一の時には、その宝石を一つずつ剥がして換金できる、歩く貯金箱のようなドレスですわ!)」
私は震える手でセシリア様の両手を握りしめました。
「セシリア様! そのお気持ち、痛み入りますわ! ですが、私のような卑小な男爵令嬢が、あまりに豪華なものを着ては、周囲の反感を買ってしまいます」
「そうなの? でも、私は貴女に最高の輝きを纏ってほしいのよ」
「ですので……ドレスの装飾は少し控えめに。その分、余った予算で『私の将来の資産管理能力を高めるための寄付金』を……いえ、何でもございませんわ」
私は危うく本音の「現金支給」を求めそうになり、必死に言葉を飲み込みました。
「わかりましたわ。セシリア様のプロデュースを完璧にするためにも、私はそのドレスを謹んでお受けいたします! ですが、デザインの最終決定権は私にくださいませ!」
「ええ、いいわよ。ルミエルのセンスなら、きっと素敵なものになるわね」
セシリア様は満足げに頷き、蜂蜜の瓶を置いて帰っていきました。
私は彼女を見送った後、即座に裏帳簿を取り出し、新たな項目を書き加えました。
【項目:晩餐会用ドレス(換金性の高い宝石指定) 予定資産価値:金貨五十枚相当】
「ふふふ、あははは! 働かない生活が、また一歩近づきましたわ!」
私は部屋の中で狂喜の舞を踊りました。
……しかし、その浮かれた背後で、窓の外から誰かがこちらの様子を伺っていることなど、露ほども思っていなかったのです。
「……あの女、また何か良からぬ計算をしているな」
低く、呆れたような声。
窓の外、庭園の木陰に立っていたのは、いつものように監視を怠らないクロード様でした。
「ドレス一着でそこまで喜ぶとは。……まあいい。エドワードの動きも怪しくなってきた。ルミエル・ダントン、君にはその『欲の深さ』で、さらに泥沼を掻き回してもらう必要があるからな」
クロード様は冷たく微笑むと、夜の闇に紛れて姿を消しました。
私の裏帳簿に、彼という存在が「負債」として記録されるのか、それとも「最大の資産」として記録されるのか。
それはまだ、神のみぞ知る……いえ、私の計算機のみぞ知る、といったところですわね。
セシリア様が扇子を片手に優雅に微笑むたび、周囲の令嬢たちが「まあ、なんてお労しい」「以前の刺々しさは、きっとお疲れだったのね」と、勝手に良い方へ解釈していく様は圧巻でしたわ。
おかげで私の手元には、セシリア様からの「お礼」という名の高級品が次々と運び込まれています。
私は今、寮の自室で、こっそりと一冊のノートを広げていました。
「ふふふ、見てください。この輝かしい数字の羅列を。これこそが私の、明日への活力ですわ!」
そのノートの名前は『更生支援・特別経費内訳帳』。
一般的には「裏帳簿」と呼ばれる代物ですわね。
そこには、これまでにセシリア様から頂いた、あるいは「必要経費」として請求した品々が、時価換算でびっしりと書き込まれています。
【項目:マナー指導(特別集中講義) 報酬:最高級エシレバターのガレット三箱】
【項目:精神安定(愚痴聞き) 報酬:絹の刺繍入りハンカチ五枚】
【項目:緊急時対応(冤罪晴らし) 報酬:公爵家御用達の仕立券一枚】
「素晴らしい。このペースでいけば、学園を卒業する頃には、地方に小さな別荘の一つや二つ、現金で買えてしまいますわ!」
私は羽ペンを走らせながら、ニヤニヤと口角を上げました。
すると、ノックの音と共に、聞き慣れた高い声が響きました。
「ルミエル! 入ってもいいかしら?」
「ひゃいっ!? セ、セシリア様!?」
私は慌てて裏帳簿を座布団の下へ隠し、優雅な所作(のつもり)で扉を開けました。
「ごきげんよう、セシリア様。本日はどのような御用でしょうか?」
「昨日のお茶会のお礼を、まだ言い足りないと思って。これ、うちの領地で採れた最高級の蜂蜜を使ったコンフィチュールよ。貴女、甘いものが好きでしょう?」
セシリア様が差し出したのは、金色の蓋が眩しい、見るからに高価そうな小瓶でした。
「まあ! 嬉しいですわ! さあ、どうぞ中へ。今すぐ紅茶を淹れますわね(無料の安物ですけれど)」
「ええ、お邪魔するわ。……あら、ルミエル。貴女の部屋、何だか以前より少し……豪華になっていないかしら?」
セシリア様が、棚に飾られた銀のスプーンや、椅子に置かれた絹のクッションを鋭く見つめました。
「気のせいですわ。これはすべて、セシリア様に相応しい『友人』としての品格を保つための、いわば制服のようなものですもの」
「そう……? 貴女がそう言うなら、そうなのね。本当に、貴女って健気だわ」
セシリア様が、またしても聖母のような瞳で私を見つめました。
「ルミエル。私、考えてみたの。今の私は、貴女の献身的な支えがあってこそ存在しているわ。だから、これからも貴女を全力でバックアップしたいの」
「全力で、バックアップ……。その言葉、具体的には金銭的な……いえ、どのような意味でしょうか?」
「ドレスよ! 来週、エドワード様との親睦を深めるための『月見の晩餐会』があるでしょう? 貴女の分も、私が最高級のものを誂えてあげるわ!」
私は一瞬、目の前に金貨の雨が降る幻覚を見ました。
「最高級の……ドレス……。セシリア様、それはつまり、布地に宝石が埋め込まれていたり、希少な魔鳥の羽が使われていたりするタイプのものでしょうか?」
「ええ、もちろんよ! 貴女は私の大切な、たった一人の親友ですもの。妥協なんてさせないわ」
「(……きた! きたわ! 資産価値としてのドレスが! 万が一の時には、その宝石を一つずつ剥がして換金できる、歩く貯金箱のようなドレスですわ!)」
私は震える手でセシリア様の両手を握りしめました。
「セシリア様! そのお気持ち、痛み入りますわ! ですが、私のような卑小な男爵令嬢が、あまりに豪華なものを着ては、周囲の反感を買ってしまいます」
「そうなの? でも、私は貴女に最高の輝きを纏ってほしいのよ」
「ですので……ドレスの装飾は少し控えめに。その分、余った予算で『私の将来の資産管理能力を高めるための寄付金』を……いえ、何でもございませんわ」
私は危うく本音の「現金支給」を求めそうになり、必死に言葉を飲み込みました。
「わかりましたわ。セシリア様のプロデュースを完璧にするためにも、私はそのドレスを謹んでお受けいたします! ですが、デザインの最終決定権は私にくださいませ!」
「ええ、いいわよ。ルミエルのセンスなら、きっと素敵なものになるわね」
セシリア様は満足げに頷き、蜂蜜の瓶を置いて帰っていきました。
私は彼女を見送った後、即座に裏帳簿を取り出し、新たな項目を書き加えました。
【項目:晩餐会用ドレス(換金性の高い宝石指定) 予定資産価値:金貨五十枚相当】
「ふふふ、あははは! 働かない生活が、また一歩近づきましたわ!」
私は部屋の中で狂喜の舞を踊りました。
……しかし、その浮かれた背後で、窓の外から誰かがこちらの様子を伺っていることなど、露ほども思っていなかったのです。
「……あの女、また何か良からぬ計算をしているな」
低く、呆れたような声。
窓の外、庭園の木陰に立っていたのは、いつものように監視を怠らないクロード様でした。
「ドレス一着でそこまで喜ぶとは。……まあいい。エドワードの動きも怪しくなってきた。ルミエル・ダントン、君にはその『欲の深さ』で、さらに泥沼を掻き回してもらう必要があるからな」
クロード様は冷たく微笑むと、夜の闇に紛れて姿を消しました。
私の裏帳簿に、彼という存在が「負債」として記録されるのか、それとも「最大の資産」として記録されるのか。
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