悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

文字の大きさ
9 / 28

9

しおりを挟む
「若草のお茶会」は大成功、いえ、大勝利に終わりました。

セシリア様が扇子を片手に優雅に微笑むたび、周囲の令嬢たちが「まあ、なんてお労しい」「以前の刺々しさは、きっとお疲れだったのね」と、勝手に良い方へ解釈していく様は圧巻でしたわ。

おかげで私の手元には、セシリア様からの「お礼」という名の高級品が次々と運び込まれています。

私は今、寮の自室で、こっそりと一冊のノートを広げていました。

「ふふふ、見てください。この輝かしい数字の羅列を。これこそが私の、明日への活力ですわ!」

そのノートの名前は『更生支援・特別経費内訳帳』。

一般的には「裏帳簿」と呼ばれる代物ですわね。

そこには、これまでにセシリア様から頂いた、あるいは「必要経費」として請求した品々が、時価換算でびっしりと書き込まれています。

【項目:マナー指導(特別集中講義) 報酬:最高級エシレバターのガレット三箱】
【項目:精神安定(愚痴聞き) 報酬:絹の刺繍入りハンカチ五枚】
【項目:緊急時対応(冤罪晴らし) 報酬:公爵家御用達の仕立券一枚】

「素晴らしい。このペースでいけば、学園を卒業する頃には、地方に小さな別荘の一つや二つ、現金で買えてしまいますわ!」

私は羽ペンを走らせながら、ニヤニヤと口角を上げました。

すると、ノックの音と共に、聞き慣れた高い声が響きました。

「ルミエル! 入ってもいいかしら?」

「ひゃいっ!? セ、セシリア様!?」

私は慌てて裏帳簿を座布団の下へ隠し、優雅な所作(のつもり)で扉を開けました。

「ごきげんよう、セシリア様。本日はどのような御用でしょうか?」

「昨日のお茶会のお礼を、まだ言い足りないと思って。これ、うちの領地で採れた最高級の蜂蜜を使ったコンフィチュールよ。貴女、甘いものが好きでしょう?」

セシリア様が差し出したのは、金色の蓋が眩しい、見るからに高価そうな小瓶でした。

「まあ! 嬉しいですわ! さあ、どうぞ中へ。今すぐ紅茶を淹れますわね(無料の安物ですけれど)」

「ええ、お邪魔するわ。……あら、ルミエル。貴女の部屋、何だか以前より少し……豪華になっていないかしら?」

セシリア様が、棚に飾られた銀のスプーンや、椅子に置かれた絹のクッションを鋭く見つめました。

「気のせいですわ。これはすべて、セシリア様に相応しい『友人』としての品格を保つための、いわば制服のようなものですもの」

「そう……? 貴女がそう言うなら、そうなのね。本当に、貴女って健気だわ」

セシリア様が、またしても聖母のような瞳で私を見つめました。

「ルミエル。私、考えてみたの。今の私は、貴女の献身的な支えがあってこそ存在しているわ。だから、これからも貴女を全力でバックアップしたいの」

「全力で、バックアップ……。その言葉、具体的には金銭的な……いえ、どのような意味でしょうか?」

「ドレスよ! 来週、エドワード様との親睦を深めるための『月見の晩餐会』があるでしょう? 貴女の分も、私が最高級のものを誂えてあげるわ!」

私は一瞬、目の前に金貨の雨が降る幻覚を見ました。

「最高級の……ドレス……。セシリア様、それはつまり、布地に宝石が埋め込まれていたり、希少な魔鳥の羽が使われていたりするタイプのものでしょうか?」

「ええ、もちろんよ! 貴女は私の大切な、たった一人の親友ですもの。妥協なんてさせないわ」

「(……きた! きたわ! 資産価値としてのドレスが! 万が一の時には、その宝石を一つずつ剥がして換金できる、歩く貯金箱のようなドレスですわ!)」

私は震える手でセシリア様の両手を握りしめました。

「セシリア様! そのお気持ち、痛み入りますわ! ですが、私のような卑小な男爵令嬢が、あまりに豪華なものを着ては、周囲の反感を買ってしまいます」

「そうなの? でも、私は貴女に最高の輝きを纏ってほしいのよ」

「ですので……ドレスの装飾は少し控えめに。その分、余った予算で『私の将来の資産管理能力を高めるための寄付金』を……いえ、何でもございませんわ」

私は危うく本音の「現金支給」を求めそうになり、必死に言葉を飲み込みました。

「わかりましたわ。セシリア様のプロデュースを完璧にするためにも、私はそのドレスを謹んでお受けいたします! ですが、デザインの最終決定権は私にくださいませ!」

「ええ、いいわよ。ルミエルのセンスなら、きっと素敵なものになるわね」

セシリア様は満足げに頷き、蜂蜜の瓶を置いて帰っていきました。

私は彼女を見送った後、即座に裏帳簿を取り出し、新たな項目を書き加えました。

【項目:晩餐会用ドレス(換金性の高い宝石指定) 予定資産価値:金貨五十枚相当】

「ふふふ、あははは! 働かない生活が、また一歩近づきましたわ!」

私は部屋の中で狂喜の舞を踊りました。

……しかし、その浮かれた背後で、窓の外から誰かがこちらの様子を伺っていることなど、露ほども思っていなかったのです。

「……あの女、また何か良からぬ計算をしているな」

低く、呆れたような声。

窓の外、庭園の木陰に立っていたのは、いつものように監視を怠らないクロード様でした。

「ドレス一着でそこまで喜ぶとは。……まあいい。エドワードの動きも怪しくなってきた。ルミエル・ダントン、君にはその『欲の深さ』で、さらに泥沼を掻き回してもらう必要があるからな」

クロード様は冷たく微笑むと、夜の闇に紛れて姿を消しました。

私の裏帳簿に、彼という存在が「負債」として記録されるのか、それとも「最大の資産」として記録されるのか。

それはまだ、神のみぞ知る……いえ、私の計算機のみぞ知る、といったところですわね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。 政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。 しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。 「承知致しました」 夫は二つ返事で承諾した。 私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…! 貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。 私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――… ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

処理中です...