悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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学園の廊下を歩けば、あちこちから黄色い歓声と、感嘆のため息が聞こえてくるようになりました。

以前までは、彼女が通るだけで「モーゼの十戒」のごとく道が開け、生徒たちが震え上がっていたというのに。

「(見てください、セシリア様。あの視線の数々! 恐怖の対象から、憧れのアイドルへとクラスチェンジ完了ですわね)」

私は一歩後ろを歩きながら、満足げに周囲の反応を観察していました。

セシリア様は、私が指導した通りの「余裕と慈愛」を完璧にマスターしたようです。

「ごきげんよう、皆様。今日は日差しが柔らかくて、お散歩日和ですわね」

セシリア様が、すれ違う令嬢たちにふわりと微笑みを投げかけます。

「まあ! セシリア様が、私のような者にまでお声を……!」

「なんて高貴で、お優しい方なのかしら!」

令嬢たちは頬を染め、胸を押さえて感動に打ち震えています。

中には「セシリア様を見守る会」なる非公式ファンクラブまで発足したという噂もあり、彼女の支持率はうなぎのぼりです。

「ルミエル、貴女の言う通りだったわ。拳を振り上げるよりも、微笑みを向ける方が、ずっと皆が私の言うことを聞いてくれるのね」

セシリア様が、私の耳元で小さく、いたずらっぽく囁きました。

「当然ですわ。恐怖で支配するのは三流。美貌と徳で支配するのが一流ですわ。……さて、これだけ人気が出れば、私の『紹介状』の価値も特等席間違いなしですわね」

「またお金の話? 本当に貴女は、一貫しているわね」

「当たり前です。私はお金のために生きているのですから!」

私が胸を張って言い切ると、セシリア様は声を立てて笑いました。

しかし、急激な変化は、好意的な目だけでなく、嫉妬や疑念の目も呼び寄せるものです。

「……セシリア様! お待ちください!」

背後から、少し焦ったような声が響きました。

振り返ると、そこには眉を逆立てた数人の令嬢たちと、その後ろで気まずそうにしているエドワード王子の姿がありました。

令嬢たちを率いているのは、学園内でも有数の資産を持つ侯爵家の令嬢、ベアトリス様です。

「あら、ベアトリス様。何か御用かしら?」

セシリア様は、余裕の微笑みを崩さずに問いかけます。

「お芝居はやめてくださいませ! 貴女が、最近急に『聖女』のような真似をし始めたのは、すべてエドワード様を繋ぎ止めるための罠なのでしょう?」

ベアトリス様が指を差し、声を荒らげました。

「昨日の晩餐会でも、殿下はずっと貴女のことばかり気になさっていたわ。……でも、私は騙されませんわよ! 貴女の本性が、あの傲慢な毒婦であることを忘れたわけではありませんわ!」

彼女の言葉に、周囲の空気がピリリと凍りつきました。

エドワード王子は、困ったように頭を掻きながら、セシリア様を見つめています。

「(……おやおや。これは私の顧客(セシリア様)に対する、不当な誹謗中傷ですわね。営業妨害は、私が最も許せないことの一つですわ)」

私は一歩前に出ようとしましたが、セシリア様が手でそれを制しました。

「ベアトリス様。私が殿下を慕っているのは事実ですわ。それを『罠』と呼ぶのは、殿下の見る目のなさを指摘しているのと同じではなくて?」

セシリア様の声には、怒りではなく、深い慈悲がこもっていました。

「私は以前の自分の未熟さを反省し、より相応しい婚約者であろうと努力しているだけですわ。もし、それがお気に召さないのでしたら……」

セシリア様は、すっと視線を伏せ、悲しげにまつ毛を揺らしました。

「……私の努力が、皆様に不快な思いをさせていたなんて。殿下、私は……」

「そんなことはない! セシリア、顔を上げてくれ」

たまらずエドワード王子が駆け寄りました。

「ベアトリス、君は少し言い過ぎだ。セシリアの変化は、私が一番よく知っている。彼女の努力を否定することは、私への侮辱でもあるぞ」

「殿下……! ですが……!」

「もういい。行こう、セシリア。君をこれ以上、心ない言葉に晒したくない」

王子はセシリア様の肩を優しく抱き寄せ、そのままエスコートして歩き出しました。

残されたベアトリス様たちは、悔しげに唇を噛んで立ち尽くしています。

「(はあ……。セシリア様、今の『悲劇のヒロイン・ムーブ』、百点満点ですわ。私の指導を超えて、もはや天才の領域に達していますわね)」

私はその後ろ姿を見送りながら、内心で激しい拍手を送りました。

これで王子の心は完全にセシリア様のもの。

婚約破棄なんて、今や夢のまた夢。私の玉の輿への切符も、今まさに印刷が完了した頃でしょう。

しかし、そんな私の勝利の予感に、冷たい水が浴びせられました。

「他人の恋愛をプロデュースして、自分だけが安全圏から利益を貪る。……本当に、君という人間は恐ろしいな」

建物の影から現れたのは、もはや私の「天敵」と呼んでも差し支えないクロード様でした。

「閣下、またですか。貴方は本当に、神出鬼没ですわね」

「君の動きが面白すぎるのが悪い。……ルミエル・ダントン、今のを見たか? 公爵令嬢に『弱さ』という武器を与えたのは、君だろう」

クロード様が、私の顔を覗き込んできました。

「弱さは、最強の武器ですもの。殿下のような正義感の強い方には、特に効果的ですわ」

「ふん。だが、あまりセシリアを輝かせすぎるな。光が強ければ、その分影も濃くなる」

クロード様は私の髪を一房、指先で弄びました。

「影……ですか?」

「ああ。彼女への執着が、王子だけとは限らないということだ。……そして、その影を操っているのが君だということも、いつかは暴かれるだろう」

クロード様の指先が、首元に触れそうで触れない距離で止まりました。

「その時、君を守れるのは誰か。よく考えておくことだ」

彼はそう言い残すと、意味深な笑みを浮かべて去っていきました。

「(……守る? そんなの、決まっていますわ。私を守れるのは、私自身と、山のような金貨だけですわ!)」

私は強がって独り言を吐きましたが、彼の指先が触れた場所に、なぜか消えない熱が残っていることに気づき、慌ててそれを振り払いました。
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