悪役令嬢をプロデュースして、お礼に最高の玉の輿を紹介してもらいますわ

ちゅんりー

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学園祭という名の戦場が終わり、後片付けも一段落した午後のこと。

私はセシリア様の私室に招かれていました。

目の前には、これでもかとばかりに高級な茶菓子。そして、私の懐には、先日クロード閣下からきっちりと支払われた「五パーセントの管理費」という名の小切手が入っています。

「(ふふ、ふふふ。小切手の数字を見るだけで、視力が回復するようですわ……。でも、本番はこれからですの。私の人生最大のボーナスチャンスが!)」

私は、高鳴る鼓動を抑えながら、お淑やかに紅茶を啜りました。

「ルミエル。改めて、今まで本当にありがとう。貴女がいなければ、私は今頃、誰にも顧みられない孤独な廃嫡令嬢になっていたかもしれないわ」

セシリア様が、潤んだ瞳で私を見つめました。

「そんな。私はただ、自分の利益のために動いただけですわ。……お礼なら、既にお菓子やドレスで十分頂いております」

「いいえ。そんなものでは足りないわ。私は、貴女のこれからの人生に責任を持ちたいの。……約束、覚えているわよね?」

セシリア様が、スッと一通の封筒をテーブルに置きました。

金縁の装飾が施された、それはそれは重厚な封筒。

私の金持ちセンサーが、過去最大級の反応を見せ、脳内でファンファーレが鳴り響きました。

「(きたわ……! 最高の玉の輿への、プラチナチケット!)」

「貴女の望み通り、私の人脈の中で、最も誠実で、最も資産があり、そして何より貴女を大切にしてくれる方を厳選したわ」

セシリア様は、真剣な表情で続けました。

「その方は、若くして莫大な領地を統治し、国王陛下からの信頼も厚い。性格は少し不器用だけれど、一度心を許した相手には、この上ない愛を注いでくれる……そんな素晴らしい男性よ」

「……っ。そ、そんな優良物件、本当に私が頂いてもよろしいのですか!? 私、性格は最悪ですし、頭の中は金貨のことでいっぱいの強欲女ですわよ!?」

私は鼻息を荒くして身を乗り出しました。

「ええ。貴女のその『強欲さ』さえも愛してくれる人よ。むしろ、貴女のようにハッキリと物を言う女性の方が、彼にはお似合いだと思ったの」

「(……若くて、金持ちで、誠実で、不器用。……完璧ですわ! 完璧すぎて、もはや神話の領域ですわ!)」

私は震える手で封筒に触れました。

「さあ、開けてみて。彼も、貴女に会えるのをとても楽しみにしているわ」

私は意を決して、封筒の封を切り、中の便箋を取り出しました。

そこには、美しい筆致でこう記されていました。

『ルミエル・ダントン嬢へ。貴殿のこれまでの功績と、その類まれなる……商魂に敬意を表し、我が家の全ての金庫の鍵を預ける覚悟で、お会いしたい』

「(ぜ、全部の金庫の鍵!? それって、私がその中身を毎日数えてもいいということですの!?)」

私はあまりの幸福に、めまいがしました。

「セシリア様! ありがとうございます! 私、この方のために、一生懸命……いえ、適当に働かずに尽くしますわ!」

「ふふ、良かった。……あ、でも一つだけ。彼はとても多忙な方だから、今すぐ会うのは難しいの。明日の夜、学園の裏庭にある噴水の前で待っていてほしいって」

「噴水の前……。ロマンチックですわね! 金貨の降る音が聞こえてきそうな場所ですわ!」

私は封筒を胸に抱きしめ、天を仰ぎました。

ついに。ついに私の「働かない生活」が、すぐそこまで来ているのです。

しかし。

「……随分と嬉しそうだな。その紙切れ一枚で、私の存在を忘れるほどか?」

背後の扉から、地獄の底から響くような、低く冷ややかな声が聞こえてきました。

「ひゃいっ!? ……こ、クロード閣下!」

振り返ると、そこにはいつもの倍くらい不機嫌そうな顔をした、クロード様が立っていました。

「セシリア。君、随分と余計な真似をしてくれたな」

「あら、クロード様。私は約束を果たしただけですわ。ルミエルに『最高の相手』を紹介すると」

セシリア様が、しれっとした顔で言い返しました。

「最高の相手だと? ……私の目の前で、他の男の紹介状を渡すなど、万死に値する無礼だとは思わないか?」

クロード様が、私の手にある封筒を奪い取ろうとしました。

「や、やめてください閣下! これは私の将来設計の核心なんですの!」

私は封筒を隠して逃げ回りました。

「ルミエル。君、その相手が誰か、本当に分かっていないのか?」

クロード様が、私の腕を掴んで動きを止めました。

「え? セシリア様の親戚で、若くて金持ちの……」

「……この国で、若くて、資産家で、多忙で、セシリアと親戚関係にある独身男性が、私以外に誰がいると思っているんだ?」

「……はい?」

私は、算盤を弾く手を止め、ゆっくりとセシリア様の方を見ました。

セシリア様は、口元を扇子で隠しながら、クスクスと笑っていました。

「……ええ、そうよ。ヴァルーア公爵家とレオンハート辺境伯家は、遠い親戚筋。そして、私が知る中で最も『最高の玉の輿』は、この不器用なクロード様しかいないわ」

「(……は、はめられましたわ!)」

私は、手の中の紹介状と、目の前の鬼のような形相の宰相閣下を交互に見ました。

「セシリア。あとの話は私がつける。君は下がっていろ」

「ええ、ごゆっくり。ルミエル、頑張ってね!」

セシリア様は楽しそうに去っていきました。

残されたのは、私と、殺気立った金持ち。

「……さて。ルミエル・ダントン。君は、他の男に会いに行くつもりか? それとも、今ここで私という『現物資産』を受け入れるか?」

クロード様が、私を壁に追い詰めました。

「か、閣下。……それ、選択肢になっておりませんわ。というか、その紹介状、最初から閣下の自作自演では!?」

「……私が書かせた。セシリアに頼んでな。君が自分の足で、私の元へ来るように」

クロード様の顔が、これまでにないほど真剣で、そして……少しだけ切なそうに歪みました。

「国家予算でも、金庫の鍵でも、私の心でも、好きなものを持っていけ。……その代わり、君の人生を、私に投資させろ」

「(……これ、絶対に断れないやつですわ。でも、全金庫の鍵……。全金庫の鍵!!)」

私の金持ちセンサーは、もはや恐怖と歓喜で火を噴いていました。

こうして、私の「紹介された相手」が誰なのか、会う前から判明してしまったのです。
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