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正午。王都の中央広場は、かつてないほどの群衆で埋め尽くされていた。
処刑台の上には、両手を縛られ、やつれ果てた父様――ローズブレイド公爵の姿がある。
その横で、アラン殿下が勝ち誇ったように演説をぶっていた。
「見よ、国民諸君! この男こそ、国を食い物にした逆賊である! 娘のタリーもまた、共犯として逃亡中だが……」
アラン殿下の声は、魔法拡声器で広場中に響いている。隣には、聖女ぶった白いドレスを着たミナが、嘘泣きをしながらハンカチを目に当てていた。
「かわいそうなアラン様ぁ……。信じていた人たちに裏切られて、お辛いですよねぇ」
「ああ、ミナ。僕の味方は君だけだ」
茶番だ。見ていて吐き気がするほどの三文芝居。
しかし、広場の民衆の反応は、彼らの予想とは違っていた。
「……おい、あれ本当か?」
「公爵様がいい人だってのは有名だぞ」
「それより、あの『辺境通信』読んだか? 王子の離宮建設の話」
「やってらんねぇよな」
シラけた空気。冷ややかな視線。
アラン殿下はそれに気づかず(あるいは気づかないフリをして)、処刑人に合図を送った。
「さあ、刑を執行せよ! この逆賊の首を刎ね、正義を示すのだ!」
処刑人が巨大な斧を振り上げる。
父様がギュッと目を閉じた。
(……今よ!)
私は馬車の上で、隠し持っていた「合図」の筒を空に向けた。
シュボッ! ヒュルルルル……ドォォォン!!
真昼の空に、巨大な花火が打ち上がった。色は当然、ド派手な真紅。
「な、なんだ!?」
アラン殿下が空を見上げる。
その直後。
ジャジャジャジャーン!!
広場の四方八方に設置されていたスピーカー(私が辺境の技師に作らせた魔道具)から、大音量のダンスミュージックが鳴り響いた。
「な、ななな、何事だーっ!?」
「音楽!? どこから!?」
混乱する広場に、私の声が響き渡る。
「お待たせしました、王都の皆様! 本日のメインイベント、スタートですわーっ!!」
ズドドドド!
地響きと共に、広場の入り口から私の乗ったデコレーション馬車が突入した。
周囲を固めるのは、楽器を演奏しながら行進する「レッド・ベアーズ」音楽隊。
「た、タリー!? なぜここに!?」
アラン殿下が腰を抜かさんばかりに驚いている。
私は台座の上で、巨大な真紅の羽扇子を振り回し、マイク(これも魔道具)を握りしめた。
「ごきげんよう、アラン殿下! 私の父の首を刎ねる前に、私とのラストダンスを踊っていただきに参りました!」
「ふ、ふざけるな! 捕らえろ! あの女を殺せ!」
アラン殿下が叫ぶが、近衛騎士たちは動けない。
なぜなら、民衆が歓声を上げて私に道を開けたからだ。
「タリー様だ!」
「本物の『氷の騎士』もいるぞ!」
「すげぇ! 噂通りド派手だ!」
「いけーっ! やっちまえーっ!」
民衆は完全にこちらの味方だ。彼らは抑圧された空気の中で、この「お祭り騒ぎ」を待っていたのだ。
「キース! お願い!」
「任せろ!」
私の合図と共に、白マントを翻したキースが馬から飛び降りた。
彼は人間離れした跳躍力で、処刑台の上へと着地する。
「うわぁっ!?」
処刑人が斧を取り落として逃げ出した。
キースは一瞬で父様の縄を剣で断ち切ると、父様を背にかばい、アラン殿下たちの前に立ちはだかった。
「……公爵に手出しはさせん」
「ヒッ……!」
ミナが悲鳴を上げてアラン殿下の後ろに隠れる。
アラン殿下は震えながら剣を抜いた。
「き、貴様ら……反逆罪だぞ! ただで済むと……」
「反逆? いいえ、これは『演出』ですわ」
私は馬車から降り、優雅に処刑台の階段を上がっていった。
スポットライト(魔道具)が私を照らす。
「皆様、聞いてください!」
私は広場の民衆に向かって語りかけた。
「アラン殿下は、私の実家が横領したとおっしゃいました。でも、考えてもみてください。私が横領などという、セコくて地味な真似をすると思いまして?」
民衆から「思わねー!」「タリー様はもっと派手にやる!」と野次が飛ぶ。
「そうですわ! 私がやるなら、国ごと買い取って私の色に染めますわ! コソコソ帳簿をごまかして小銭を稼ぐなんて、私の美学に反します!」
私はバサリと扇子を開き、ミナを指差した。
「そこのミナ男爵令嬢! 貴女のドレス、素敵ね。……先月、王室予算から『慈善事業費』として消えた金額と、そのドレスの値段、ぴったり同じじゃなくて?」
「えっ……い、いやぁ、これは……」
ミナが青ざめて視線を泳がせる。
「あら、図星? それからアラン殿下! 北の離宮建設予定地から出土した古代遺跡、貴方が秘密裏に売り払ったという噂、本当ですの?」
「な、なぜそれを……!」
「『辺境通信』の情報網を舐めないでいただきたいわ。証拠の書類なら、ここにあるわよ!」
私は懐から、キースが回収させた裏帳簿の写し(大量)を取り出し、空中にバラ撒いた。
紙吹雪のように舞い散る証拠書類。
民衆がそれを拾い読みし、怒号へと変わっていく。
「おい、これマジだぞ!」
「俺たちの税金が!」
「王子ふざけんな!」
「タリー様が正しいぞ!」
「やめろ! 見るな! 拾うなーっ!」
アラン殿下が半狂乱になって叫ぶ。
勝負あり、だ。
私は父様の元へ歩み寄り、抱きしめた。
「お父様、遅くなってごめんなさい」
「タリー……おお、タリー……! お前、なんて格好をしてるんだ……」
父様は涙を流しながら、私のド派手なドレスと扇子を見て呆れている。
「喪服よりマシでしょう? さあ、帰りましょう。お母様が待っているわ」
「ま、待て!」
アラン殿下が、血走った目で私に剣を向けた。
「逃がさん……絶対に逃がさんぞ! 僕をコケにしやがって! ここで死ね、タリー!」
彼は錯乱して、私に向かって剣を突き出してきた。
「タリー!」
キースが動こうとする。
けれど、それより早く、私は動いた。
手にした真紅の羽扇子(鉄板入り)を、下から上へと一気に振り上げる。
ガキンッ!!
「なっ!?」
アラン殿下の剣が、扇子に弾かれて宙を舞った。
「……言ったでしょう? 私のダンスについてくるには、貴方じゃ修行不足だと」
私は隙だらけになったアラン殿下の懐に踏み込み、扇子を持ったまま、流れるようなターンを決めた。
そして、遠心力を乗せた強烈な「扇子ビンタ」を、彼の頬にお見舞いした。
バァァァン!!
「ぶべらっ!?」
アラン殿下は独楽(こま)のようにきりもみ回転し、処刑台の端まで吹っ飛んでいった。
「きゃあああ! アラン様ぁ!」
ミナが駆け寄るが、アラン殿下は白目を剥いて伸びている。
静寂。
そして、爆発的な歓声。
「すげぇぇぇ!!」
「一撃だ!」
「ダンス・クイーン万歳!」
私は乱れた髪をかき上げ、キースに向かって手を差し出した。
「お待たせ、キース。……ゴミ掃除は終わったわ」
キースは呆れたように、でも誇らしげに笑って、私の手を取った。
「……最強だな、あんたは」
「貴方のパートナーですもの」
私たちは民衆の歓声を背に、悠々と処刑台を降りた。
王都の空は、雲ひとつない快晴。
私の、そして私たちの「革命」は、最高のフィナーレを迎えた――かに見えた。
だが。
「……許さない」
背後から、怨念のこもった低い声が聞こえた。
振り返ると、ミナがゆらりと立ち上がっていた。
その手には、何やら黒い靄(もや)のようなものを放つ、禍々しい宝石が握られていた。
「許さない……私の幸せを……私の王子様を……!」
ミナの目が赤く発光する。
「全部、壊れてしまえばいいのよーっ!!」
彼女が宝石を掲げた瞬間、王都の地面が激しく揺れ始めた。
「……な、何事!?」
キースが私の体を支える。
「魔力暴走か!? あの石、ただの宝石じゃないぞ!」
事態は急転直下。
本当のラストバトルは、ここからだった。
処刑台の上には、両手を縛られ、やつれ果てた父様――ローズブレイド公爵の姿がある。
その横で、アラン殿下が勝ち誇ったように演説をぶっていた。
「見よ、国民諸君! この男こそ、国を食い物にした逆賊である! 娘のタリーもまた、共犯として逃亡中だが……」
アラン殿下の声は、魔法拡声器で広場中に響いている。隣には、聖女ぶった白いドレスを着たミナが、嘘泣きをしながらハンカチを目に当てていた。
「かわいそうなアラン様ぁ……。信じていた人たちに裏切られて、お辛いですよねぇ」
「ああ、ミナ。僕の味方は君だけだ」
茶番だ。見ていて吐き気がするほどの三文芝居。
しかし、広場の民衆の反応は、彼らの予想とは違っていた。
「……おい、あれ本当か?」
「公爵様がいい人だってのは有名だぞ」
「それより、あの『辺境通信』読んだか? 王子の離宮建設の話」
「やってらんねぇよな」
シラけた空気。冷ややかな視線。
アラン殿下はそれに気づかず(あるいは気づかないフリをして)、処刑人に合図を送った。
「さあ、刑を執行せよ! この逆賊の首を刎ね、正義を示すのだ!」
処刑人が巨大な斧を振り上げる。
父様がギュッと目を閉じた。
(……今よ!)
私は馬車の上で、隠し持っていた「合図」の筒を空に向けた。
シュボッ! ヒュルルルル……ドォォォン!!
真昼の空に、巨大な花火が打ち上がった。色は当然、ド派手な真紅。
「な、なんだ!?」
アラン殿下が空を見上げる。
その直後。
ジャジャジャジャーン!!
広場の四方八方に設置されていたスピーカー(私が辺境の技師に作らせた魔道具)から、大音量のダンスミュージックが鳴り響いた。
「な、ななな、何事だーっ!?」
「音楽!? どこから!?」
混乱する広場に、私の声が響き渡る。
「お待たせしました、王都の皆様! 本日のメインイベント、スタートですわーっ!!」
ズドドドド!
地響きと共に、広場の入り口から私の乗ったデコレーション馬車が突入した。
周囲を固めるのは、楽器を演奏しながら行進する「レッド・ベアーズ」音楽隊。
「た、タリー!? なぜここに!?」
アラン殿下が腰を抜かさんばかりに驚いている。
私は台座の上で、巨大な真紅の羽扇子を振り回し、マイク(これも魔道具)を握りしめた。
「ごきげんよう、アラン殿下! 私の父の首を刎ねる前に、私とのラストダンスを踊っていただきに参りました!」
「ふ、ふざけるな! 捕らえろ! あの女を殺せ!」
アラン殿下が叫ぶが、近衛騎士たちは動けない。
なぜなら、民衆が歓声を上げて私に道を開けたからだ。
「タリー様だ!」
「本物の『氷の騎士』もいるぞ!」
「すげぇ! 噂通りド派手だ!」
「いけーっ! やっちまえーっ!」
民衆は完全にこちらの味方だ。彼らは抑圧された空気の中で、この「お祭り騒ぎ」を待っていたのだ。
「キース! お願い!」
「任せろ!」
私の合図と共に、白マントを翻したキースが馬から飛び降りた。
彼は人間離れした跳躍力で、処刑台の上へと着地する。
「うわぁっ!?」
処刑人が斧を取り落として逃げ出した。
キースは一瞬で父様の縄を剣で断ち切ると、父様を背にかばい、アラン殿下たちの前に立ちはだかった。
「……公爵に手出しはさせん」
「ヒッ……!」
ミナが悲鳴を上げてアラン殿下の後ろに隠れる。
アラン殿下は震えながら剣を抜いた。
「き、貴様ら……反逆罪だぞ! ただで済むと……」
「反逆? いいえ、これは『演出』ですわ」
私は馬車から降り、優雅に処刑台の階段を上がっていった。
スポットライト(魔道具)が私を照らす。
「皆様、聞いてください!」
私は広場の民衆に向かって語りかけた。
「アラン殿下は、私の実家が横領したとおっしゃいました。でも、考えてもみてください。私が横領などという、セコくて地味な真似をすると思いまして?」
民衆から「思わねー!」「タリー様はもっと派手にやる!」と野次が飛ぶ。
「そうですわ! 私がやるなら、国ごと買い取って私の色に染めますわ! コソコソ帳簿をごまかして小銭を稼ぐなんて、私の美学に反します!」
私はバサリと扇子を開き、ミナを指差した。
「そこのミナ男爵令嬢! 貴女のドレス、素敵ね。……先月、王室予算から『慈善事業費』として消えた金額と、そのドレスの値段、ぴったり同じじゃなくて?」
「えっ……い、いやぁ、これは……」
ミナが青ざめて視線を泳がせる。
「あら、図星? それからアラン殿下! 北の離宮建設予定地から出土した古代遺跡、貴方が秘密裏に売り払ったという噂、本当ですの?」
「な、なぜそれを……!」
「『辺境通信』の情報網を舐めないでいただきたいわ。証拠の書類なら、ここにあるわよ!」
私は懐から、キースが回収させた裏帳簿の写し(大量)を取り出し、空中にバラ撒いた。
紙吹雪のように舞い散る証拠書類。
民衆がそれを拾い読みし、怒号へと変わっていく。
「おい、これマジだぞ!」
「俺たちの税金が!」
「王子ふざけんな!」
「タリー様が正しいぞ!」
「やめろ! 見るな! 拾うなーっ!」
アラン殿下が半狂乱になって叫ぶ。
勝負あり、だ。
私は父様の元へ歩み寄り、抱きしめた。
「お父様、遅くなってごめんなさい」
「タリー……おお、タリー……! お前、なんて格好をしてるんだ……」
父様は涙を流しながら、私のド派手なドレスと扇子を見て呆れている。
「喪服よりマシでしょう? さあ、帰りましょう。お母様が待っているわ」
「ま、待て!」
アラン殿下が、血走った目で私に剣を向けた。
「逃がさん……絶対に逃がさんぞ! 僕をコケにしやがって! ここで死ね、タリー!」
彼は錯乱して、私に向かって剣を突き出してきた。
「タリー!」
キースが動こうとする。
けれど、それより早く、私は動いた。
手にした真紅の羽扇子(鉄板入り)を、下から上へと一気に振り上げる。
ガキンッ!!
「なっ!?」
アラン殿下の剣が、扇子に弾かれて宙を舞った。
「……言ったでしょう? 私のダンスについてくるには、貴方じゃ修行不足だと」
私は隙だらけになったアラン殿下の懐に踏み込み、扇子を持ったまま、流れるようなターンを決めた。
そして、遠心力を乗せた強烈な「扇子ビンタ」を、彼の頬にお見舞いした。
バァァァン!!
「ぶべらっ!?」
アラン殿下は独楽(こま)のようにきりもみ回転し、処刑台の端まで吹っ飛んでいった。
「きゃあああ! アラン様ぁ!」
ミナが駆け寄るが、アラン殿下は白目を剥いて伸びている。
静寂。
そして、爆発的な歓声。
「すげぇぇぇ!!」
「一撃だ!」
「ダンス・クイーン万歳!」
私は乱れた髪をかき上げ、キースに向かって手を差し出した。
「お待たせ、キース。……ゴミ掃除は終わったわ」
キースは呆れたように、でも誇らしげに笑って、私の手を取った。
「……最強だな、あんたは」
「貴方のパートナーですもの」
私たちは民衆の歓声を背に、悠々と処刑台を降りた。
王都の空は、雲ひとつない快晴。
私の、そして私たちの「革命」は、最高のフィナーレを迎えた――かに見えた。
だが。
「……許さない」
背後から、怨念のこもった低い声が聞こえた。
振り返ると、ミナがゆらりと立ち上がっていた。
その手には、何やら黒い靄(もや)のようなものを放つ、禍々しい宝石が握られていた。
「許さない……私の幸せを……私の王子様を……!」
ミナの目が赤く発光する。
「全部、壊れてしまえばいいのよーっ!!」
彼女が宝石を掲げた瞬間、王都の地面が激しく揺れ始めた。
「……な、何事!?」
キースが私の体を支える。
「魔力暴走か!? あの石、ただの宝石じゃないぞ!」
事態は急転直下。
本当のラストバトルは、ここからだった。
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