婚約破棄ですか? 結構です。慰謝料代わりに「魔物が湧く不毛の地」をください。

ちゅんりー

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「静粛に。これより、王太子ジュリアン、および男爵令嬢ミアに関する査問会を始める」

国王陛下の重々しい声が、会議室に響いた。

ここはリゾートの会議棟。

普段はスタッフの研修に使われる部屋だが、今は簡易的な法廷と化している。

上座には、湯上がりで肌艶の良い国王陛下。

その横には、証人として先代辺境伯ロダンと、現当主リュカが控えている。

そして被告席には、青ざめたジュリアンと、ハンカチを握りしめたミア。

対する検察席(?)には、山のような書類を積み上げた私が座っていた。

「父上! これは陰謀です!」

開口一番、ジュリアンが叫んだ。

「私は騙されたのです! この女が、言葉巧みに私を陥れ、不当な借金を背負わせたのです! 私は被害者だ!」

「そうですわ陛下! シスイ様は魔女です! 私たちに法外な請求書を送りつけ、あまつさえ国軍を洗脳して……!」

ミアも涙ながらに訴える。

国王は無表情のまま、私に視線を向けた。

「シスイ。被告らはこう申しているが?」

「反論の余地もございません。……すべて、事実無根の妄言ですので」

私は冷徹に切り捨て、手元の書類タワーから一冊のファイルを取り出した。

「まず、私が彼らを陥れたという点について。ここに『婚約破棄合意書』の原本がございます。日付と署名をご覧ください」

私はファイルを国王に提出した。

「ふむ……。ジュリアンの方から破棄を申し出、慰謝料代わりにこの土地を譲渡した、となってるな」

「はい。当時、ここは『死の荒野』と呼ばれる無価値な土地でした。殿下は『ゴミを押し付けた』と笑っておいででしたね?」

「ぐっ……そ、それは……!」

ジュリアンが言葉に詰まる。

「私はそのゴミを、私財を投じて再建しました。その結果、価値が出たからといって『返せ』というのは、通り魔的な強盗論理です。王族の矜持としていかがなものでしょう?」

「……正論だ」

国王が頷く。

「次に、『不当な借金』について」

私は次のファイルを開いた。

バサァッ!

中から、長い長いレシートのような紙が床まで垂れ下がった。

「これは、殿下とミア様が当リゾートで利用されたサービスの明細です。スイートルーム『バベル』の宿泊費、カジノでの損失、サファリツアーの救助費用、そして……昨夜の特上ステーキ重の代金」

私は数字を指差した。

「合計、金貨三千五百枚。……殿下、ご自身でサインされましたよね? 『王家払い』で、と」

「う、うぐぐ……! そ、それは、緊急避難的措置で……!」

「食後のデザートまで頼んでおいて、緊急避難ですか?」

「……」

ジュリアンが沈黙した。

周囲の騎士たち(護衛)から、「セコい……」「王太子なのに……」という視線が突き刺さる。

「そして最後に、これが決定的証拠です」

私は最後の、最も分厚い黒革の帳簿を取り出した。

「な、なんだそれは」

ジュリアンが後ずさる。

「殿下、お忘れですか? 私は婚約中、殿下の執務のお手伝い(という名の丸投げされた業務)をしておりました。その際に見つけた、王家予算の『使途不明金』の記録です」

「なっ……!?」

「ミア様へのプレゼント代、宝石、ドレス、そして夜会の裏工作費……。これらは全て、治水工事や貧民救済のための予算から流用されていました」

私は帳簿を国王の前に広げた。

「その総額、金貨一万枚以上。……陛下、これは横領ではありませんか?」

会議室が、凍りついたように静まり返った。

国王が帳簿をめくる。

ページをめくるごとに、彼の顔から血の気が引き、代わりに怒りの赤色が差していく。

「……ジュリアン」

「ち、父上……ち、違うのです! これは、その、ミアがどうしても欲しいと……!」

「人のせいにするなッ!!」

ドンッ!!

国王が机を叩き割った。

「国民の血税を、女への貢ぎ物に使い込んでいたとは……! その上、自分の尻拭いもできずにシスイに罪をなすりつけるなど、言語道断! 恥を知れ!」

「ひぃぃぃッ!!」

ジュリアンとミアが抱き合って震える。

「陛下、お待ちください!」

ミアが叫んだ。

「わ、私は悪くありません! 殿下が勝手にプレゼントしてくれただけで……私はただの男爵令嬢で、何も知らなくて……!」

「ほう? 何も知らない、ですか?」

私は冷ややかに笑い、ミアに向き直った。

「ミア様。あなたが『聖女活動』と称して集めていた寄付金。あれ、どこに行きました?」

「えっ」

「孤児院には一金貨たりとも届いていませんでしたよ? 代わりに、あなたの実家の屋根が新しくなり、お父様の借金が消えていましたが」

「そ、そそそそれは……!」

「『聖女』の皮を被った詐欺師。……それがあなたの正体です」

「いやぁぁぁッ! バラさないでぇぇッ!」

ミアが耳を塞いで絶叫する。

勝負あった。

もはや彼らに、反論する力も、味方する者も残っていなかった。

「……シスイよ」

国王が、深く息を吐いて私を見た。

「見事だ。……これほどの不正を見抜き、証拠を揃えていたとはな」

「元婚約者としての、最後の手向け(トドメ)です」

国王は頷き、ジュリアンたちに冷酷な視線を向けた。

「申し渡しを行う!」

全員が起立する。

「王太子ジュリアン。および男爵令嬢ミア。両名を直ちに捕縛し、王都へ移送……と言いたいところだが」

国王がチラリと私を見た。

「シスイ。そなた、彼らからまだ債権を回収しておらんな?」

「はい。金貨三千五百枚。これに延滞利息と精神的慰謝料を加えると、四千枚になります」

「うむ。王家の金庫から払ってもよいが……それでは国民が納得せんだろう」

国王はニヤリと笑った。

「よって、特別措置を命じる。ジュリアン、ミア。両名の身柄を、債権者であるシスイ・ランカスターに引き渡す!」

「は……?」

ジュリアンが間の抜けた声を上げた。

「へ、陛下? 引き渡すとは……?」

「そのままだ。借金を完済するまで、このリゾートで働いて返せということだ」

「な、なんだってぇぇぇッ!?」

二人の悲鳴が重なった。

「い、嫌です! 王太子の私が労働など! 皿洗いなど!」

「私も嫌です! ドレスが汚れます! 爪が割れます!」

「拒否権はない。……なお、本日をもってジュリアンを廃嫡(はいちゃく)とする。王位継承権は剥奪だ」

「そ、そんな……嘘だ……!」

ジュリアンが崩れ落ちる。

国王は私に向かってウインクをした。

「シスイよ。この愚か者たちを好きに使え。ただし、逃がすなよ?」

「お任せください、陛下」

私は営業スマイル全開で答えた。

「当リゾートの人材育成プログラムは一流です。必ずや、立派な『労働力』に更生させてみせます」

「うむ。では、一件落着だな!」

国王が手を叩くと、控えていたリュカが進み出た。

「シスイ」

「はい、閣下」

「……お疲れ様」

リュカが私の手を取り、そっと労ってくれた。

その目は優しく、そして誇らしげだった。

「これで、お前を縛る過去はなくなったな」

「ええ。……これからは、未来(売上)のことだけを考えられます」

私は振り返り、絶望の淵に沈む元婚約者たちを見た。

「さあ、ジュリアンさん、ミアさん。業務開始です。まずは皿洗い一万枚からスタートですよ?」

「いやぁぁぁぁッ!!」

リゾートの青空に、二人の断末魔……もとい、労働開始のゴングが鳴り響いた。

こうして、私の華麗なる「ざまぁ」劇は、これ以上ない完全勝利で幕を閉じた。

だが、物語はまだ終わらない。

最大の障害を排除した私には、まだリュカとの関係という、計算不能な問題(ラブコメ)が残っていたのだから。
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