婚約破棄ですか? 結構です。慰謝料代わりに「魔物が湧く不毛の地」をください。

ちゅんりー

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「祝・ご成婚! オーナー&公爵閣下、万歳ーッ!!」

パンパカパーンッ!

リゾートの中央広場に、クラッカーの音と紙吹雪が舞った。

「ブヒィィィッ!(おめでとー!)」

「ギュウゥッ!(結婚! 結婚!)」

広場は、スタッフ全員と宿泊客たちが入り乱れてのお祭り騒ぎだった。

昨日、夕日の丘で成立した契約(婚約)は、翌朝にはリゾート中に知れ渡っていた。

情報源はもちろん、目撃者であるトンカツたちだ。

「ありがとう。……少し恥ずかしいな」

リュカが照れくさそうに頭を下げる。

その隣で、私はバインダーを片手に、鋭い視線で広場を見渡していた。

「閣下、照れている場合ではありません。見てください、あの客入りを」

「ん? ああ、すごい人だ」

「祝賀ムードに乗じて、売店の『お祝い紅白まんじゅう』が飛ぶように売れています。この機を逃してはなりません」

私はペンを走らせた。

「直ちに『成婚記念セール』を開催。宿泊費一割引き……と言いたいところですが、逆にお祝いムードの高揚感を利用して『祝儀価格(一割増)』に設定してもクレームは来ないはず」

「……お前、自分の結婚式まで商売にする気か?」

リュカが呆れたように私を見る。

「当然です。公爵家とランカスター家の結婚。これほどのビッグイベント、ただの儀式で終わらせるなど資源の無駄遣いです」

私はバインダーを閉じ、リュカに向き直った。

「閣下。私たちの結婚式は、リゾート最大の『集客イベント』として活用させていただきます」

   ◇ ◇ ◇

一時間後。支配人室。

私はホワイトボードの前に立ち、緊急企画会議を開いた。

参加者はリュカ、先代ロダン、そしてなぜか労働服を着たジュリアンとミア(休憩時間に強制招集)だ。

「題して『ロイヤル・ウェディング・フェスティバル in エデン』計画!」

私がタイトルを書き殴ると、ロダンが「おおっ!」と声を上げた。

「いい響きだ! 盛大にやろう! 酒だ、酒を持ってこい!」

「静粛に。……さて、今回のコンセプトは『参加型ウェディング』です」

私は指示棒で図面を叩いた。

「通常、貴族の結婚式は招待客のみで行われます。しかし、今回は一般のお客様にも『観覧チケット』を販売します」

「ち、チケットだと!?」

ジュリアンが素っ頓狂な声を上げた。

「結婚式を見せるだけで金を取るのか!? 見世物じゃないんだぞ!」

「王族のパレードだって人が集まるでしょう? あれと同じです。S席(最前列・食事付き)は金貨五十枚。A席は三十枚。立ち見席は五枚です」

「高ぇよ! 誰が買うんだそんな席!」

「すでに予約が殺到しています。特に、王都の貴婦人方から『氷の公爵様の晴れ姿を見たい』とのお問い合わせが」

私は予約リストを見せた。S席はすでに完売だ。

「次に、引き出物についてです」

私はジュリアンとミアを見た。

「お二人には、特製『愛の誓いクッキー』の製造ラインに入っていただきます」

「はぁ!? 私がクッキーを!?」

ミアが悲鳴を上げる。

「はい。小麦粉の計量から焼き上げ、袋詰めまで。目標生産数は一万個です。パッケージには二人のイラスト(私が描いた、やつれた似顔絵)が入ります」

「嫌ですわ! なんで私が人の結婚式のクッキーなんて焼かなきゃいけないんですの! しかも似顔絵がブサイク!」

「労働の対価として、借金から金貨一枚分を減額します」

「やります!」

ミアが即答した。

背に腹は代えられないらしい。

「ジュリアンさんは、クッキーの生地を練る係です。その無駄に高いプライドを粉と一緒に練り込んで、美味しいクッキーにしてください」

「くっ……! 覚えてろ……! 最高にコシのある生地を作ってやる!」

なぜかやる気になっている。

単純で助かる。

「そして、式の演出ですが……」

私はリュカを見た。

「指輪の交換の際、空からトンカツに乗って登場するのはどうでしょう?」

「却下だ」

リュカが即答した。

「せめて普通に歩かせてくれ。ドレスが汚れるぞ」

「では、誓いのキスの瞬間に、背後で花火を一万発打ち上げるのは?」

「爆風で誓いが聞こえなくなる。……シスイ、頼むから少しは『普通』にしてくれ」

リュカが頭を抱えた。

「俺は、お前と静かに愛を誓い合いたいだけなんだ」

「……む」

そんな直球を投げられると、計算が狂う。

「……仕方ありませんね。では、式典自体は厳かに。その後の披露宴は無礼講(フェス)ということで手を打ちましょう」

「妥協案としては悪くない」

リュカがほっとしたように息を吐いた。

その時、ドアがノックされ、マーサが入ってきた。

「お嬢様、王都の新聞社から取材の申し込みが来ています。『悪役令嬢と氷の公爵、奇跡の逆転婚!』という見出しで特集を組みたいと」

「受けなさい。ただし独占インタビューは有料よ」

「それと、商人ギルドから『結婚式当日の屋台出店権』のオークションを開催してほしいと」

「許可します。場所代は売上の三割で」

次々と舞い込む案件。

私の脳内計算機はフル回転だ。

「忙しくなりますよ、皆様! この結婚式で、リゾートの知名度を不動のものにし、向こう三年の黒字を確定させます!」

「おーっ!」

ロダンとスタッフたちが拳を突き上げる。

ジュリアンとミアは「へいへい……」と死んだ目で厨房へと戻っていった。

   ◇ ◇ ◇

数日後。

リゾートの一角にある衣装部屋。

私はウェディングドレスの試着をしていた。

「……いかがですか、お嬢様?」

マーサが鏡の前の私を見て、うっとりと溜息をついた。

純白のシルクに、レースと真珠をふんだんにあしらったドレス。

デザインは私自身が行ったが、仕立ては王都から呼び寄せた超一流の職人に任せた。

「……うん、悪くないわね」

私は鏡の中で一回転した。

動きやすさも考慮し、裾は長すぎず、しかし優雅さを失わない絶妙なライン。

「でも、ここが少し寂しいかしら」

私は胸元を指差した。

「ここに『リゾート・エデン』のロゴマークを刺繍したら、宣伝効果が……」

「絶対ダメです」

マーサが真顔で止めた。

「一生に一度の晴れ舞台です。ご自身が広告塔になるのはやめてください」

「ちぇっ。……あ、そうだ。リュカ様に見せないと」

「旦那様なら、外でお待ちですよ」

カーテンを開けると、そこにはタキシード姿のリュカが立っていた。

普段の軍服姿も凛々しいが、フォーマルな装いはまた格別の破壊力がある。

「……どうかしら、閣下?」

私が尋ねると、リュカは私を見たまま固まった。

口を半開きにして、瞬きも忘れている。

「……閣下? 似合わない?」

「……いや」

リュカが喉を鳴らし、ゆっくりと近づいてきた。

「綺麗だ。……言葉が出ないほどに」

彼は私の手を取り、甲に口づけを落とした。

「本番まで見ないでおこうかと思ったが……これを見せられては、当日まで理性が保つか分からん」

「あら、野獣ですね」

「お前のせいだ」

リュカが甘く微笑む。

その笑顔に、私の心拍数が跳ね上がった。

(……これじゃあ、当日の入場料をいくらに設定しても安すぎるわね)

私は赤くなった顔を隠すように、彼の胸に額を押し付けた。

「……当日は、覚悟してくださいね。国中が注目する、最高のショーにしますから」

「ああ。お前となら、どんな騒ぎも楽しめそうだ」

二人の愛の準備は万端。

そして迎える結婚式当日。

それはもちろん、ただの式では終わらない。

元婚約者の乱入? 魔物のパレード? そして国王からのサプライズ?

すべてを巻き込んだ、前代未聞の「エンタメ婚」の幕が上がろうとしていた。
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