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「おはようございます、ゼスト様。昨夜はよく眠れましたか? 私は四時間ほど熟睡できましたので、脳のパフォーマンスは最高潮ですわ」
朝日が岩肌を赤く染める頃、私はすでにキャンプの中心で、即席のデスク(ひっくり返した木箱)に向かっていた。
隣国の若き豪商、ゼスト様はといえば、信じられないものを見るような目で私を見下ろしている。彼はまだ寝癖がついており、上等なシャツのボタンも半分外れたままだ。
「……カタール、君は本当に人間なのかい? 昨夜、あのガンツたちと夜通し宴会……いや、経営理念の唱和をしていたはずだろう。僕は君の笑い声と数字を数える声で、三時間しか眠れなかったよ」
「あら、それはもったいない。睡眠不足は判断力を低下させ、一時間あたり数パーセントの利益損失に繋がりますわ。はい、これ。今日のゼスト様への『発注書』です」
私は書き上げたばかりの羊皮紙を、彼の胸元にパシッと叩きつけた。
ゼスト様は顔を顰めながら、そのリストに目を落とした。
「……速効性のある爆薬、耐熱性の魔法銀製パイプ、大量の麦芽、それと……これはなんだ? 『大量の石鹸とタオル』?」
「今後のリゾート開発において、清潔感は最大の付加価値になります。まずはこの不毛の地の住民……といっても今のところは私とあなた、バルトにガンツたちだけですが、彼らに『お湯に浸かって清潔になる快感』を刷り込む必要がありますの。これは将来的なリピーター確保のための先行投資ですわ」
私はペンを耳に挟み、満足げに頷いた。
ゼスト様は深いため息をつき、リストを折り畳んで懐に入れた。
「君は、僕を隣国の商会長だということを忘れているだろう。普通、僕に仕事を頼むなら、まずは正式な商談の場を設けて、高級な茶菓子を用意するものだよ」
「茶菓子なら、昨日バルトが仕留めた岩ウサギの干し肉がありますわよ。それに、ゼスト様を『商会長』としてではなく、『我が領地における専属のロジスティクス・アドバイザー兼、最高効率の運び屋』として特別に信頼しているからこそ、こうして直接発注しているのです。光栄に思ってくださってよくてよ?」
「……『運び屋』か。隣国の社交界の令嬢たちが聞いたら、泡を吹いて倒れるような台詞だね」
ゼスト様は苦笑しながらも、その瞳には商人特有の鋭い光が宿っていた。
「いいだろう。その爆薬と資材、僕の商会の最速ルートを使って三日以内に揃えてみせる。その代わり、カタール。温泉が出なかった時の損失補填については……」
「出ますわ。私の計算に間違いはありません。もし出なかったら、私があなたの商会の終身名誉帳簿係として、一生無給で働いて差し上げますわよ」
「……それは、ある意味で温泉を掘り当てるより恐ろしい対価だね。分かった、契約成立だ」
ゼスト様が手配のために部下を走らせるのを見送り、私は次なる標的へと向き直った。
「ガンツ親方! 準備はよろしくて?」
岩陰から、大きなノミを担いだガンツが顔を出した。彼は昨夜の酒が残っているのか、少し顔が赤い。
「へっ、お嬢……いや、CEO。昨夜言ってた『第4ポイント』ってのは、あの断崖の下のことかい? あそこは地盤が硬すぎて、並の道具じゃ歯が立たねえぞ」
「だからこそ、ゼスト様に爆薬を発注したのですわ。親方には、爆破した後の破砕作業と、湧き出したお湯を一時的に貯める『仮設浴槽』の設計をお願いしたいのです。……あ、もちろん排水の導線も計算に入れてくださいね。不衛生な温泉は価値が半減しますから」
「導線だの価値だの、難しい言葉を使いやがって……。だが、面白そうだ。あんな岩場から本当にお湯が出るってんなら、俺の職人人生を全部あんたに預けてやるよ!」
ガンツが豪快に笑い、岩場へと駆けていく。
それを見送る私の隣に、いつの間にかバルトが立っていた。彼は剣の柄に手をかけ、周囲の岩場を警戒している。
「お嬢様。……本当に、やるんですか。ここを、国一番の場所に」
「やるんですか、ではなく、やるのですわ、バルト。エリック殿下は私に『何も生み出せない場所で朽ち果てろ』と言いましたが、残念ながら私は、無から有を生み出すのが何よりも好きなのです」
私は腰に手を当て、広大な岩場を見渡した。
「見てなさい。ここに人々が集まり、お金が回り、笑顔があふれる。その時、エリック殿下がどんな顔をしてこの地を訪れるか……。ふふ、最高に面白い『ざまぁ』だと思いませんこと?」
「お嬢様……。その笑顔、今のお姿の方がよっぽど『悪役令嬢』に見えますよ」
バルトの呆れ声を華麗にスルーし、私は最初の一掘り、いえ、最初の一爆破の準備に取りかかった。
私のガチ勢領地経営、最初の成果が出るまで、あと七十二時間。
朝日が岩肌を赤く染める頃、私はすでにキャンプの中心で、即席のデスク(ひっくり返した木箱)に向かっていた。
隣国の若き豪商、ゼスト様はといえば、信じられないものを見るような目で私を見下ろしている。彼はまだ寝癖がついており、上等なシャツのボタンも半分外れたままだ。
「……カタール、君は本当に人間なのかい? 昨夜、あのガンツたちと夜通し宴会……いや、経営理念の唱和をしていたはずだろう。僕は君の笑い声と数字を数える声で、三時間しか眠れなかったよ」
「あら、それはもったいない。睡眠不足は判断力を低下させ、一時間あたり数パーセントの利益損失に繋がりますわ。はい、これ。今日のゼスト様への『発注書』です」
私は書き上げたばかりの羊皮紙を、彼の胸元にパシッと叩きつけた。
ゼスト様は顔を顰めながら、そのリストに目を落とした。
「……速効性のある爆薬、耐熱性の魔法銀製パイプ、大量の麦芽、それと……これはなんだ? 『大量の石鹸とタオル』?」
「今後のリゾート開発において、清潔感は最大の付加価値になります。まずはこの不毛の地の住民……といっても今のところは私とあなた、バルトにガンツたちだけですが、彼らに『お湯に浸かって清潔になる快感』を刷り込む必要がありますの。これは将来的なリピーター確保のための先行投資ですわ」
私はペンを耳に挟み、満足げに頷いた。
ゼスト様は深いため息をつき、リストを折り畳んで懐に入れた。
「君は、僕を隣国の商会長だということを忘れているだろう。普通、僕に仕事を頼むなら、まずは正式な商談の場を設けて、高級な茶菓子を用意するものだよ」
「茶菓子なら、昨日バルトが仕留めた岩ウサギの干し肉がありますわよ。それに、ゼスト様を『商会長』としてではなく、『我が領地における専属のロジスティクス・アドバイザー兼、最高効率の運び屋』として特別に信頼しているからこそ、こうして直接発注しているのです。光栄に思ってくださってよくてよ?」
「……『運び屋』か。隣国の社交界の令嬢たちが聞いたら、泡を吹いて倒れるような台詞だね」
ゼスト様は苦笑しながらも、その瞳には商人特有の鋭い光が宿っていた。
「いいだろう。その爆薬と資材、僕の商会の最速ルートを使って三日以内に揃えてみせる。その代わり、カタール。温泉が出なかった時の損失補填については……」
「出ますわ。私の計算に間違いはありません。もし出なかったら、私があなたの商会の終身名誉帳簿係として、一生無給で働いて差し上げますわよ」
「……それは、ある意味で温泉を掘り当てるより恐ろしい対価だね。分かった、契約成立だ」
ゼスト様が手配のために部下を走らせるのを見送り、私は次なる標的へと向き直った。
「ガンツ親方! 準備はよろしくて?」
岩陰から、大きなノミを担いだガンツが顔を出した。彼は昨夜の酒が残っているのか、少し顔が赤い。
「へっ、お嬢……いや、CEO。昨夜言ってた『第4ポイント』ってのは、あの断崖の下のことかい? あそこは地盤が硬すぎて、並の道具じゃ歯が立たねえぞ」
「だからこそ、ゼスト様に爆薬を発注したのですわ。親方には、爆破した後の破砕作業と、湧き出したお湯を一時的に貯める『仮設浴槽』の設計をお願いしたいのです。……あ、もちろん排水の導線も計算に入れてくださいね。不衛生な温泉は価値が半減しますから」
「導線だの価値だの、難しい言葉を使いやがって……。だが、面白そうだ。あんな岩場から本当にお湯が出るってんなら、俺の職人人生を全部あんたに預けてやるよ!」
ガンツが豪快に笑い、岩場へと駆けていく。
それを見送る私の隣に、いつの間にかバルトが立っていた。彼は剣の柄に手をかけ、周囲の岩場を警戒している。
「お嬢様。……本当に、やるんですか。ここを、国一番の場所に」
「やるんですか、ではなく、やるのですわ、バルト。エリック殿下は私に『何も生み出せない場所で朽ち果てろ』と言いましたが、残念ながら私は、無から有を生み出すのが何よりも好きなのです」
私は腰に手を当て、広大な岩場を見渡した。
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「お嬢様……。その笑顔、今のお姿の方がよっぽど『悪役令嬢』に見えますよ」
バルトの呆れ声を華麗にスルーし、私は最初の一掘り、いえ、最初の一爆破の準備に取りかかった。
私のガチ勢領地経営、最初の成果が出るまで、あと七十二時間。
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