婚約破棄で自由になった悪役令嬢カタールは、趣味で無双?

ちゅんりー

文字の大きさ
8 / 28

8

しおりを挟む
「……お嬢様。一応、確認のためにお聞きしますが。ここが本当に、お嬢様の仰る『約束の地』なのですか?」

護衛騎士のバルトが、絶望を絵に描いたような顔で呟いた。

視界に広がるのは、見渡す限りの赤茶けた岩石。木の一本も生えておらず、風が吹くたびに乾いた砂埃が舞い上がる。お世辞にも「居住に適した場所」とは言えない、死の荒野だ。

隣国の豪商ゼスト様も、愛馬の手綱を握ったまま、眉間に深い皺を刻んで固まっている。

「カタール……。僕は君の先見の明を信じて投資を決めたつもりだったが、流石にこれは『無』だ。商売の種どころか、石ころしかないじゃないか。ここにある一番価値のあるものが、僕が履いている高級なブーツだなんて冗談にもならないよ」

私は二人の言葉を無視して、馬車から降り立つなり、地面に膝をついた。

そして、深々と鼻から空気を吸い込む。

「……すぅ、はぁ……。ああ、素晴らしい。嗅げば嗅ぐほど、利益の匂いがしますわ!」

「利益!? この砂埃の匂いがかい?」

ゼスト様が顔を引きつらせる。私はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、近くにある尖った岩を指差した。

「ゼスト様、鼻を近づけてよく嗅いでみてください。この僅かな焦げたような、そして卵が腐ったような独特の芳香……。これは硫黄、つまり地熱活動が活発である証拠ですわ!」

「硫黄……? それがどうして利益になるんだ。火薬の原料にはなるが、それだけだろう?」

「お甘いですわね、商会長。これは『温泉』が出る予兆なのです。この断層のズレと岩の色調の変化を見るに、地下数百メートルには巨大な熱水の貯留層があります。ここに穴を開ければ、黄金にも等しいお湯が噴き出す……。私の計算が正しければ、あと三日以内にここは『不毛の地』から『大陸一の保養地』へとクラスチェンジいたしますわ!」

私は立ち上がり、ドレスの裾についた土を叩き落とした。

その瞳には、すでに完成した豪華な旅館や、湯煙に包まれる観光客の姿が映っている。

「バルト、ガンツ親方を呼んできて。一番地盤が脆くなっているポイントを特定しました。そこにゼスト様から調達した爆薬を仕掛けます。……あ、ゼスト様。爆薬の使用量は最小限に抑えますから、安心してください。余った分は後で、岩石の破砕作業に再利用して、建築資材としてリサイクルしますので」

「……君は本当に、塵一つ無駄にしないつもりなんだね」

ゼスト様は呆れたように肩をすくめたが、その口角は微かに上がっていた。

「いいだろう。僕の鼻にはまだ、君が言う『利益の匂い』は届いていないが……。君がそこまで確信を持って断言するなら、僕はその『卵の腐った匂い』に全財産を賭けてみるよ」

「賢明な判断ですわ、ゼスト様。契約書に『温泉が出た場合のマージン上乗せ』という項目を追加しておきますから、今のうちにサインしてくださいね?」

「……お嬢様、この状況でまだ追い討ちをかけるように契約を結ぼうとするのは、流石に悪魔の所業ですよ」

バルトのツッコミを華麗にスルーし、私は不毛の岩場で高らかに笑った。

(見ていなさい、エリック殿下。あなたが『何もない』と蔑んだこの場所から、私は世界で一番熱い富を掘り当ててみせますわ!)

私の野望は、今まさに、この乾いた大地の下で激しく沸騰し始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾
恋愛
男が学び、女は飾るだけ—— そんな世界に、ひとりの公爵令嬢が問いを投げた。 レクチャラー・トレイルブレイザー。 名門公爵家に生まれた彼女は、幼い頃に父から“学院”という御伽話を聞く。徒弟でも修道院でもない、講師を集め、制度として人を育てる場所。 この世界には、まだその言葉すら存在しなかった。 「講師を一か所に集めますわ」 家庭ごとに高額な家庭教師を雇う非効率。 才能があっても機会を得られない現実。 身分と財力だけが教育を決める社会構造。 彼女は合理性を武器に、貴族子弟のための“学院”を創設する。 複数の生徒から月謝を集めることで、家庭教師より安価に。 講師にはより高額な報酬を。 制度として成立する形で、教育を再設計する。 やがて学院は成果を出し、“学院出身”は優秀の証となる。 その基盤の上で、彼女は次の一歩を踏み出す。 ——貴族女子学院。 「美しさと知性と教養を兼ね備えた令嬢。婚約先は、よりどりみどりですわ」 表向きは婚約戦略。 だが本当の狙いは、女性の地位向上。 男尊女卑が当然の世界で、女が学ぶことは前例なき挑戦。 保守派の反発、王太子からの婚約打診。 それでも彼女は揺れない。 「婚約は家同士の契約です。決定権は父にあります」 父を盾にしながら、順序を守り、世界を壊さず、底から上げる。 恋より制度。 革命ではなく積み重ね。 学院のない世界に、学院を。 これは、静かに世界を変えようとする公爵令嬢の物語。

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
恋愛
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです)

新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました

ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」 政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。 妻カレンの反応は—— 「それ、契約不履行ですよね?」 「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」 泣き落としは通じない。 そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。 逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。 これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!ー新たなる王室編ー

愚者 (フール)
恋愛
無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! 幼女編、こちらの続編となります。 家族の罪により王から臣下に下った代わりに、他国に暮らしていた母の違う兄がに入れ替わり玉座に座る。 新たな王族たちが、この国エテルネルにやって来た。 その後に、もと王族と荒れ地へ行った家族はどうなるのか? 離れて暮らすプリムローズとは、どんな関係になるのかー。 そんな彼女の成長過程を、ゆっくりお楽しみ下さい。 ☆この小説だけでも、十分に理解できる様にしております。 全75話 全容を知りたい方は、先に書かれた小説をお読み下さると有り難いです。 前編は幼女編、全91話になります。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...