婚約破棄で自由になった悪役令嬢カタールは、趣味で無双?

ちゅんりー

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「……本当に、ここでいいんだな? お嬢……いや、CEO。もしこれで何も出なかったら、俺たちのこれまでの苦労は全部、ただの『岩への嫌がらせ』になっちまうんだが」

ガンツ親方が、汗を拭いながら巨大な岩の亀裂を指差した。

そこには、ゼスト様が隣国から超特急で取り寄せた、最新式の「魔法爆薬」がぎっしりと詰め込まれている。

周囲には、昨日から一睡もせずに掘削作業に当たった隠者(現・初期メンバー)たちが、期待と不安の入り混じった表情で立ち尽くしていた。

「心配ご無用ですわ、ガンツ親方。私の計算によれば、この真下三十二メートルの地点に、高圧の熱水溜まりが存在しています。この岩盤を一点突破すれば、あとは自噴の圧力で勝手に湧き出してきますわ」

私は手元の計算尺を仕舞い、優雅に(ただし埃まみれで)一歩後ろに下がった。

「バルト、起爆の合図を。ゼスト様、耳を塞いでください。鼓膜の損傷は、医療費という名の不必要なコストを生みますからね」

「……君の気遣いは、いつも数字が透けて見えていて逆に安心するよ」

ゼスト様が苦笑いしながら耳を塞いだ。

バルトが静かに指を鳴らす。それを合図に、魔法爆薬に仕込まれた魔力が一気に活性化した。

ドォォォォォォォォン……ッ!!

内臓を揺さぶるような重低音が響き、視界が白い土煙で覆われた。

「……ッ、ゲホ、ゲホッ! やっぱり何も出ないじゃないか! ただ岩が砕けただけ……」

ゼスト様が煙を手で払いながら、絶望的な声を上げた。

しかし、私は動じない。

一秒、二秒……十秒。

「……来ますわよ。三、二、一」

ゴゴゴゴゴ……という、地鳴りのような音が足元から響いてきた。

直後、砕けた岩の隙間から、凄まじい勢いで「透明な柱」が空高く突き抜けた。

「……っ!? なんだ、ありゃあ!」

「水だ! いや、湯だ! お湯が噴き出してきたぞ!」

ガンツ親方たちが、子供のように飛び跳ねて歓声を上げた。

空中で弾けた水しぶきが、霧となって降り注ぐ。それは乾ききった岩場を潤す、文字通りの恵みの雨だった。

私は降り注ぐお湯を手の平で受け止め、指先を少し舐めてみた。

「……微細な塩分、強めの硫黄分、そして絶妙なメタケイ酸の含有量。ふふ、完璧ですわ。美肌効果、疲労回復、そして何より『ここに来れば若返る』というマーケティングの根拠として十分な成分構成です!」

「カタール……! 君は、君は本当にやり遂げたんだね。この何もない岩場から、本物の富を引き出したんだ!」

ゼスト様が興奮した様子で駆け寄ってきた。

「すぐに権利関係の書類を作成しよう! この湧出量なら、王都の貴族たちに『奇跡の聖水』として売り出せば、一リットルあたり……」

「却下ですわ、ゼスト様」

私は、目を輝かせる商会長の言葉をぴしゃりと遮った。

「えっ……? なぜだい? 商売のチャンスだろう?」

「いいですか。このお湯の最初の用途は、販売でも観光でもありません。……まずは、我が社の社員たちの『福利厚生』に充てますわ」

私の言葉に、歓喜していたガンツ親方たちが一斉に動きを止めた。

「ふ、福利厚生……?」

「そうです。ガンツ親方、それから初期メンバーの皆さん。あなたたちは今日まで、満足に体も洗えず、硬い岩の上で眠ってきました。そんな劣悪な労働環境で、高い生産性を維持できるはずがありません」

私は、唖然とする一同を指差した。

「まずは、このお湯を溜める浴槽を最優先で造ってください。そして全員、一時間交代で湯に浸かること。これはCEO命令です。汚れを落とし、筋肉を解し、最高の精神状態で明日からの業務に当たっていただきます」

「お、お嬢……。俺たちのために、この宝の湯を真っ先に使わせてくれるのかい?」

ガンツの目が潤み始めた。

「勘違いしないでください。不潔な人間が作る建物や製品には、品質の低下というリスクが付き纏うのです。私はただ、我が社の『人的資本』の価値を最大化したいだけですわ」

私はツンと澄まして答えたが、バルトが横から小声で補足した。

「……親方、照れ隠しですよ。お嬢様は昨夜、皆さんの手のひらのひび割れを見て、こっそり薬草入りの石鹸を自作してましたからね」

「バルト! 余計な情報を流布しないでちょうだい! それは単なる試作品の臨床試験ですわ!」

私が頬を染めて反論すると、不毛の地に、これまでにないほど温かく明るい笑い声が響き渡った。

「……まいったな。福利厚生か」

ゼスト様が、お湯に濡れた髪をかき上げながら、負けたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

「利益の前に人間を整える。……カタール、君の経営哲学には、僕も学ぶべきところが多そうだ」

「あら、授業料は高いですわよ、ゼスト様?」

湯煙が立ち込める中、私たちは確かな一歩を刻んだ。

ここから先は、ただの「サバイバル」ではない。世界中から羨望を集める「理想郷」を建設するための、本格的な工事が始まるのだ。

(見ていなさい、エリック殿下。私が作ったこの場所で、あなたが一生かかっても得られない『最高のチーム』が完成しつつありますわ!)

私は降り注ぐお湯を全身に浴びながら、未来への投資計画を頭の中で爆速でアップデートし続けた。
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