婚約破棄で自由になった悪役令嬢カタールは、趣味で無双?

ちゅんりー

文字の大きさ
19 / 28

19

しおりを挟む
「……何かしら、あの門の前に落ちている色褪せたボロ布の山は。バルト、我が社の衛生基準に抵触する恐れがありますわ。すぐに消毒して、リサイクル可能なゴミとして処理してちょうだい」

私は、完成間近の高級リゾートホテル『ゴールデン・スパ・カタール』のロビーから、外の喧騒を眺めていた。

「お嬢様、あれはゴミではなく人間……それも、かつて王都で貴女を『無能な働き蟻』と嘲笑っていた令嬢たちですよ」

バルトが双眼鏡を覗きながら、心底困ったような声を出す。

見れば、かつて社交界で私に嫌がらせをしていた取り巻き令嬢のレティシアやクラリスたちが、泥に汚れたドレスを引きずりながら、門番に縋り付いているではないか。

「入れなさい! 私たちは公爵令嬢カタールの『お友達』なのよ! この不潔な岩場を案内させなさい!」

「そうですわ! 王都は今、ミルフイユ様のせいで小麦粉がダイヤモンドより高価なんですの! 少しばかりの食事と温泉を差し出しなさい!」

彼女たちの絶叫は、遠く離れた私の耳にも「生産性のないノイズ」として届いていた。

「……ふむ。かつての敵対勢力が、自ら労働市場に飛び込んできたというわけですわね。ゼスト様、彼女たちの市場価値、どう評価されます?」

隣でカタログをチェックしていたゼスト様が、顔を上げて鼻で笑った。

「マイナスだね。プライドだけが高くて実務能力がゼロ。教育コストを考えれば、そのまま門前払いするのが一番の利益確定だよ」

「いいえ、ゼスト様。彼女たちには、一般人にはない『特殊技能』がありますわ。それは……『最高級の贅沢を知っている』という、贅沢な消費者としてのデータです」

私は不敵に微笑むと、バルトに命じて彼女たちを「応接室(兼・更生プログラム実施室)」へ連れてこさせた。

数分後。泥だらけのまま、それでも不遜な態度でソファに踏ん反り返るレティシアたちを、私は冷徹な目で見下ろした。

「……お久しぶりですわ、皆様。お顔の血色が随分と悪いですわね。私の計算によれば、皆様の肌のキメ、王都にいた頃より十五パーセントは低下していますわよ?」

「なっ……! カタール、貴女なんて失礼なの! 私たちは貴女を慰めに来てあげたのよ!」

レティシアがキーキーと叫ぶが、私はその言葉を「未処理のログ」としてゴミ箱へ捨てた。

「慰め? そんな無形資産、一銭の得にもなりませんわ。……単刀直入に申し上げます。皆様、今夜の食事と宿が必要なのでしょう? ならば、私の下で『特別美容モニター兼、接客見習い』として働きなさい」

「はぁ!? 私たちが働くですって!? ありえないわ!」

「あら、ならば今すぐお帰りください。あ、この部屋のソファの清掃代として、皆様の靴の予備を没収させていただきますが、よろしいかしら?」

私がペンを走らせて「清掃費用明細書」を提示すると、彼女たちは真っ青になって顔を見合わせた。

「……わ、分かったわよ! 何をすればいいの!?」

「簡単なことですわ。まずはその汚れた体を、我が社の特製岩塩スクラブで徹底的に磨き上げること。その後、お客様(富裕層)が『何に不快感を抱くか』を、元貴族の鋭い感性でレポートにまとめなさい。一カ所見つけるごとに、パンを一切れ差し上げますわ」

私は彼女たちに、掃除用具一式と、分厚い「教育マニュアル(接客の基本編)」を叩きつけた。

「いいですか。あなたたちは今日から、ただの令嬢ではありません。『お客様を王族のように扱うための、最先端の歯車』なのです。……あ、ちなみに態度の悪い社員には、温泉への入浴権の剥奪という罰則がありますから、覚悟してくださいね?」

それから数日間、ガラガラ地方には、元令嬢たちの悲鳴と、私の「やり直し!」という怒号が響き渡った。

「レティシア! そのお辞儀の角度は十五度! それではお客様ではなく、地面に挨拶していますわよ! 筋肉を使いなさい、筋肉を!」

「クラリス! レポートの字が汚すぎます! 読み手の解読時間を奪うのは、立派な窃盗罪ですわ!」

私が「美容モニター」として彼女たちを使い倒した結果、意外な収益が上がった。

彼女たちが「美容のために」と必死に開発に協力した新製品が、驚くほどの品質向上を見せたのだ。

「……カタール、信じられない。あのわがまま放題だった令嬢たちが、今や『お客様に快適な睡眠を提供できないのは、私たちの恥ですわ!』と言いながら、シーツのシワをミリ単位で直しているよ」

ゼスト様が、食堂でガツガツとパンを貪る(しかし姿勢だけは完璧な)元令嬢たちを見て、戦慄していた。

「教育コストはかかりましたが、その後のリターンは絶大ですわ。彼女たちは『何が本物か』を知っているからこそ、プロ意識に火が付けば最強のコンシェルジュになる……。人的資本の再開発、大成功ですわね」

私は満足げに、彼女たちの「能力評価シート」に合格点を書き込んだ。

「……さて。次は彼女たちを広告塔にして、王都の貴族たちに『あの令嬢たちが膝を屈するほどの楽園』として、さらに集客を加速させますわよ!」

かつての敵すらも「収益を生む歯車」に変えてしまう私の手腕に、バルトは「もはや魔王の風格だ……」と遠い目で呟くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

公爵令嬢、学校をつくる。 ―学院のない世界に学院を作りますわ!―

鷹 綾
恋愛
男が学び、女は飾るだけ—— そんな世界に、ひとりの公爵令嬢が問いを投げた。 レクチャラー・トレイルブレイザー。 名門公爵家に生まれた彼女は、幼い頃に父から“学院”という御伽話を聞く。徒弟でも修道院でもない、講師を集め、制度として人を育てる場所。 この世界には、まだその言葉すら存在しなかった。 「講師を一か所に集めますわ」 家庭ごとに高額な家庭教師を雇う非効率。 才能があっても機会を得られない現実。 身分と財力だけが教育を決める社会構造。 彼女は合理性を武器に、貴族子弟のための“学院”を創設する。 複数の生徒から月謝を集めることで、家庭教師より安価に。 講師にはより高額な報酬を。 制度として成立する形で、教育を再設計する。 やがて学院は成果を出し、“学院出身”は優秀の証となる。 その基盤の上で、彼女は次の一歩を踏み出す。 ——貴族女子学院。 「美しさと知性と教養を兼ね備えた令嬢。婚約先は、よりどりみどりですわ」 表向きは婚約戦略。 だが本当の狙いは、女性の地位向上。 男尊女卑が当然の世界で、女が学ぶことは前例なき挑戦。 保守派の反発、王太子からの婚約打診。 それでも彼女は揺れない。 「婚約は家同士の契約です。決定権は父にあります」 父を盾にしながら、順序を守り、世界を壊さず、底から上げる。 恋より制度。 革命ではなく積み重ね。 学院のない世界に、学院を。 これは、静かに世界を変えようとする公爵令嬢の物語。

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
恋愛
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです)

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!ー新たなる王室編ー

愚者 (フール)
恋愛
無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! 幼女編、こちらの続編となります。 家族の罪により王から臣下に下った代わりに、他国に暮らしていた母の違う兄がに入れ替わり玉座に座る。 新たな王族たちが、この国エテルネルにやって来た。 その後に、もと王族と荒れ地へ行った家族はどうなるのか? 離れて暮らすプリムローズとは、どんな関係になるのかー。 そんな彼女の成長過程を、ゆっくりお楽しみ下さい。 ☆この小説だけでも、十分に理解できる様にしております。 全75話 全容を知りたい方は、先に書かれた小説をお読み下さると有り難いです。 前編は幼女編、全91話になります。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

侍女は婚約が内定している俺様属性の男と縁を切りたい。

彩柚月
恋愛
 リリアは侯爵令嬢。オスカーとは、婚約予定。あくまでも予定で、まだ結んでいません。オスカーは何故かリリアにだけ、威圧的な態度を取るらしい。嫌で仕方がないので、オスカーの兄とプレ婚約期のやり直し。 今が幸せなので、あなたのことは助けてあげられません。   ※ご都合主義満載 ※細かい部分はサラッと流してください。

処理中です...