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「……ええい、騒々しい! 一体、我が城で何が起きているのだ!」
王宮の奥深く、心臓病の療養中だったアルフレッド国王が、杖を突きながら広間に姿を現した。
国王が目にしたのは、先ほどまで気絶していた息子エリックが、床に貼られた「差し押さえ」の赤札を剥がそうとしてアンナに詰め寄られている、あまりに無様な光景だった。
「陛下、お目覚めですか。安静が必要な身で、このような『経営破綻の現場』をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません」
私はホログラム越しに、完璧な角度で一礼した。
「カタール……!? 追放されたはずの貴様が、なぜここに……いや、それよりこの赤札は何だ! 私のコレクションの壺にまで『鑑定額:金貨三枚(割れあり)』などと書いた紙を貼りおって!」
「陛下、落ち着いてください。それは単なる『資産の棚卸し』ですわ。……陛下が病に伏せっている間に、そちらのエリック殿下が国の全資産を担保に、私の会社から多額の借入をなさいました。その結果、返済が滞り、本日をもって王宮の全権利が我が社に帰属した次第です」
「な……何だと!? エリック、これは真実か!」
国王が雷のような声を落とすと、エリック殿下は震えながら首を横に振った。
「ち、違うのです父上! 私はただ、ミルフイユとの愛を記念するために……! それに、カタールが勝手に法外な残業代を請求してきただけで……!」
「愛を記念するために国庫を空にしたというのですか? 流石は殿下、愛の市場価値を高く見積もりすぎていらっしゃいますわね」
私は冷淡に言い放ち、手元の分厚い「債務履行遅滞報告書」をカメラに向けた。
「陛下。私は経営者として、これ以上の焦げ付きを見過ごすわけには参りません。……つきましては、債権者としての権利を行使し、アルフレッド王家に対して『人的資源の整理』を要求いたしますわ」
「人的資源の……整理だと?」
国王の顔が、怒りから困惑、そして深い絶望へと変わっていく。
「はい。具体的には、この国の負債の元凶であるエリック殿下の『廃嫡』。および、無能な消費を繰り返すミルフイユ様の『永久追放』です。……これに応じていただければ、陛下の医療費と隠居生活の維持費だけは、我が社の『慈善事業枠』で確保して差し上げますわよ?」
「き、貴様! 王族に向かってなんという不敬を……!」
エリック殿下が吠えるが、国王はそれを手で制した。
国王は、差し押さえの札が貼られた玉座を悲しげに見つめ、それから床に転がる息子を見た。
「……エリック。お前がカタールを追い出した時、私は『自分で責任を取れるなら構わん』と言ったはずだ。だがお前は、責任を取るどころか、この国を女一人に買い叩かれるまで放置した。……王として、いや、経営者として、お前は不適格だ」
「ち、父上……?」
「カタール・ド・オシエルCEOの要求を全面的に受諾する。……エリック・フォン・アルフレッドを廃嫡し、一市民として王籍を剥奪する。……ついでに、そこのピンクの小娘も、今すぐ門の外へ放り出せ!」
「いやあああ! ミルフイユ、お外なんて嫌ですわ! 宝石のない世界なんて死んでしまいますぅー!」
ミルフイユ様が床に転がって駄々をこねるが、既に我が社の警備員(元・王宮騎士団のカイルたち)が、彼女の両脇を抱えて迅速に「搬出」を開始していた。
「エリック……お前も行け。自分の食べたパンの代金すら払えぬ男に、この城の敷居を跨ぐ資格はない」
「そ、そんな……! カタール! カタール、頼む! 君の慈悲で、せめて食客として置いてくれ!」
エリック殿下がホログラムの私に向かって手を伸ばすが、私は冷たくグラスを回した。
「慈悲? 殿下、私は投資家ですわ。……将来性のない不良債権に追い貸しをするほど、私はお人好しではありません。……さあ、バルト。彼らを門の外へ『廃棄』して。あ、彼らが着ている服は王家の資産ですから、脱がせて安物の中古服に着替えさせておくのを忘れないでね。コストカットですわよ」
「……御意」
泣き叫ぶ元王子と元男爵令嬢が、文字通り「ゴミ」のように王宮から摘出されていく。
静まり返った広間で、国王は深いため息をつき、私に向き直った。
「……カタール。これで満足か。……この国を、どうするつもりだ」
「満足? いいえ、これはまだ『事業再生計画』の第一段階に過ぎません。……陛下。この国は今日から、私のガラガラ地方と経済統合し、世界初の『温泉観光・金融立国』として再スタートいたしますわ。……陛下は、その名誉会長として、ゆっくり温泉で療養なさってください」
私はホログラム越しに、勝利の微笑みを浮かべた。
隣で見ていたゼスト様が、私の肩を抱いて耳元で囁く。
「……カタール。君は本当に、一つの国を『買収』してしまったんだね。……僕の選んだパートナーは、想像以上にスケールが大きすぎて、少し怖いくらいだよ」
「あら。ゼスト様、怖がる暇があったら、統合後の新通貨の発行準備をお願いしますわよ。……私たちの『愛の結晶』、もとい『共同利益の結晶』は、これからさらに大きく膨らむのですから!」
王都の空には、かつてないほど高く、私の野望という名の湯煙が立ち昇っていた。
王宮の奥深く、心臓病の療養中だったアルフレッド国王が、杖を突きながら広間に姿を現した。
国王が目にしたのは、先ほどまで気絶していた息子エリックが、床に貼られた「差し押さえ」の赤札を剥がそうとしてアンナに詰め寄られている、あまりに無様な光景だった。
「陛下、お目覚めですか。安静が必要な身で、このような『経営破綻の現場』をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません」
私はホログラム越しに、完璧な角度で一礼した。
「カタール……!? 追放されたはずの貴様が、なぜここに……いや、それよりこの赤札は何だ! 私のコレクションの壺にまで『鑑定額:金貨三枚(割れあり)』などと書いた紙を貼りおって!」
「陛下、落ち着いてください。それは単なる『資産の棚卸し』ですわ。……陛下が病に伏せっている間に、そちらのエリック殿下が国の全資産を担保に、私の会社から多額の借入をなさいました。その結果、返済が滞り、本日をもって王宮の全権利が我が社に帰属した次第です」
「な……何だと!? エリック、これは真実か!」
国王が雷のような声を落とすと、エリック殿下は震えながら首を横に振った。
「ち、違うのです父上! 私はただ、ミルフイユとの愛を記念するために……! それに、カタールが勝手に法外な残業代を請求してきただけで……!」
「愛を記念するために国庫を空にしたというのですか? 流石は殿下、愛の市場価値を高く見積もりすぎていらっしゃいますわね」
私は冷淡に言い放ち、手元の分厚い「債務履行遅滞報告書」をカメラに向けた。
「陛下。私は経営者として、これ以上の焦げ付きを見過ごすわけには参りません。……つきましては、債権者としての権利を行使し、アルフレッド王家に対して『人的資源の整理』を要求いたしますわ」
「人的資源の……整理だと?」
国王の顔が、怒りから困惑、そして深い絶望へと変わっていく。
「はい。具体的には、この国の負債の元凶であるエリック殿下の『廃嫡』。および、無能な消費を繰り返すミルフイユ様の『永久追放』です。……これに応じていただければ、陛下の医療費と隠居生活の維持費だけは、我が社の『慈善事業枠』で確保して差し上げますわよ?」
「き、貴様! 王族に向かってなんという不敬を……!」
エリック殿下が吠えるが、国王はそれを手で制した。
国王は、差し押さえの札が貼られた玉座を悲しげに見つめ、それから床に転がる息子を見た。
「……エリック。お前がカタールを追い出した時、私は『自分で責任を取れるなら構わん』と言ったはずだ。だがお前は、責任を取るどころか、この国を女一人に買い叩かれるまで放置した。……王として、いや、経営者として、お前は不適格だ」
「ち、父上……?」
「カタール・ド・オシエルCEOの要求を全面的に受諾する。……エリック・フォン・アルフレッドを廃嫡し、一市民として王籍を剥奪する。……ついでに、そこのピンクの小娘も、今すぐ門の外へ放り出せ!」
「いやあああ! ミルフイユ、お外なんて嫌ですわ! 宝石のない世界なんて死んでしまいますぅー!」
ミルフイユ様が床に転がって駄々をこねるが、既に我が社の警備員(元・王宮騎士団のカイルたち)が、彼女の両脇を抱えて迅速に「搬出」を開始していた。
「エリック……お前も行け。自分の食べたパンの代金すら払えぬ男に、この城の敷居を跨ぐ資格はない」
「そ、そんな……! カタール! カタール、頼む! 君の慈悲で、せめて食客として置いてくれ!」
エリック殿下がホログラムの私に向かって手を伸ばすが、私は冷たくグラスを回した。
「慈悲? 殿下、私は投資家ですわ。……将来性のない不良債権に追い貸しをするほど、私はお人好しではありません。……さあ、バルト。彼らを門の外へ『廃棄』して。あ、彼らが着ている服は王家の資産ですから、脱がせて安物の中古服に着替えさせておくのを忘れないでね。コストカットですわよ」
「……御意」
泣き叫ぶ元王子と元男爵令嬢が、文字通り「ゴミ」のように王宮から摘出されていく。
静まり返った広間で、国王は深いため息をつき、私に向き直った。
「……カタール。これで満足か。……この国を、どうするつもりだ」
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私はホログラム越しに、勝利の微笑みを浮かべた。
隣で見ていたゼスト様が、私の肩を抱いて耳元で囁く。
「……カタール。君は本当に、一つの国を『買収』してしまったんだね。……僕の選んだパートナーは、想像以上にスケールが大きすぎて、少し怖いくらいだよ」
「あら。ゼスト様、怖がる暇があったら、統合後の新通貨の発行準備をお願いしますわよ。……私たちの『愛の結晶』、もとい『共同利益の結晶』は、これからさらに大きく膨らむのですから!」
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