断罪された悪役令嬢、「地獄へ落ちろ」と言われました。

ちゅんりー

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あれから、数年の月日が流れた。


かつて「死神の住む地獄」と恐れられたヴォルグ辺境伯領は、今や世界中から美食家と観光客が押し寄せる、大陸随一の「聖地」へと変貌を遂げていた。


「お嬢様、いえ、辺境伯夫人! 準備はよろしいですか? もうすぐ式典が始まりますわよ!」


アンナが、かつての何倍も豪華な(けれど動きやすさ重視の)婚礼衣装を抱えて、私の部屋に飛び込んできた。


「分かっているわ、アンナ。でも見てちょうだい、このウェディングドレス! 隠しポケットに、お祝いの『燻製チーズ』が十個も入るのよ。これなら長い儀式の最中にお腹が鳴る心配もないわ!」


「……結婚式にまで非常食を持ち込む花嫁は、世界中であなただけです。せっかく特製のルームシューズを純白に新調したんですから、淑女らしく歩いてくださいね?」


鏡に映る私は、確かにあの夜会で断罪された「悪役令嬢」の面影を残している。


けれど、その瞳は鋭い三白眼ではなく、美味しいものへの期待と幸福感で、キラキラと輝いていた。


コンコン、と控えめなノックの後に、扉が開く。


そこには、白銀の毛皮を纏い、相変わらず恐ろしい……けれど、どこか慈愛に満ちたオーラを放つヴォルグ様が立っていた。


「……ミュー。準備はできたか? 広場には、領民たちと、遠路はるばるやってきた客たちが、貴様の料理……いや、俺たちの門出を祝おうと集まっているぞ」


「ヴォルグ様! 見てください、このドレス! 美味しそう……じゃなくて、綺麗でしょう?」


「ああ。世界中のどんな希少な食材よりも、今の貴様が一番……美味し……いや、美しい」


ヴォルグ様は顔を真っ赤にしながら、言い直した。


「ふふ、ヴォルグ様も、お世辞が上手くなりましたわね。さあ、行きましょう! 今夜は私の最高傑作、『百万ボルトの愛のフルコース』を皆に振る舞うんですから!」


私たちは腕を組み、城のバルコニーへと進み出た。


目の前に広がるのは、温泉の湯気が幻想的に立ち上り、至る所で肉や魚が焼かれる煙が舞う、活気に満ちた街の景色。


「「ミュー様、ヴォルグ様! 結婚おめでとうございます!!」」


地響きのような祝福の叫びが上がる。


かつて私を「毒婦」と呼んだ王都の噂話など、ここには微塵も存在しない。


あるのは、美味しいものを共に食べ、共に笑い、共に温泉で温まる、最高の仲間たちだけだ。


「ヴォルグ様。私、あの時『婚約破棄』されて、本当に良かったですわ」


私は、隣に立つ愛しい夫の手をギュッと握りしめた。


「……。ああ。あのおバカな王子が貴様を放り出してくれたおかげで、俺は『生きる喜び』という名の、最高の献立を知ることができた」


「あら、嬉しい。じゃあヴォルグ様、誓いのキスの代わりに……あそこの特大タラバガニを、一緒に剥きませんか?」


「……。ふっ。ああ、いいだろう。貴様の望む通りに」


私たちは、集まった人々に高らかに手を振り、そして誰よりも早く、豪華な宴の席へと飛び込んでいった。


悪役令嬢としての断罪。王都からの追放。


それは、私を不幸にするためのものではなく、私が「北の女王」として、世界一美味しい人生を手に入れるための、単なる前菜(アペタイザー)に過ぎなかったのだ。


私の物語は、これからも続いていく。


美味しい匂いのする方へ、愛する人と共に。


「さあ、みんな! 食べなさい、飲みなさい! 北の地のパラダイスは、今日からが食べ放題のスタートよ!」


私の高笑いと、幸せな咀嚼音が、雪の降らない暖かい北の夜空に、どこまでも響き渡っていた。
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