断罪された悪役令嬢、「地獄へ落ちろ」と言われました。

ちゅんりー

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王都での「死神による断罪劇」から数日後。


北の城の門前に、今度は王宮の紋章が刻まれた、金ピカの……けれどどこかボロボロの馬車が到着した。


「……お嬢様。今度は国王陛下からの、本当の『親書』を持った使者だそうですよ」


アンナが、完成したばかりの露天風呂の脇で、温泉卵を剥いている私に報告しに来た。


「あら、陛下から? トウモロコシ……じゃなくて、アルフレッド殿下の使いとは格が違うわね。どれどれ、今回はどんなおもしろ……いえ、神妙な内容かしら」


私は温泉卵を一口でパクリと平らげ、指先を拭うと、応接間へと向かった。


そこには、震える手で羊皮紙を抱えた、老練な公爵(父の友人だったはずだ)が、借りてきた猫のように小さくなって座っていた。


「……ミュー・ド・ラ・パン公爵令嬢。この度は、我が愚息が多大なるご迷惑を……」


「あら、おじ様。お久しぶりですわ。謝罪なら、もうヴォルグ様が王都でたっぷり受け取ってきたと聞いておりますけど?」


私はふかふかのソファに深々と腰掛け、優雅に足を組んだ。


「い、いや。これは国王陛下からの正式な決定事項を伝えに来たのだ。……心して聞いてほしい」


老公爵は、ゴホンと咳払いをすると、震える声で読み上げ始めた。


「『第一王子アルフレッドは、その数々の不徳と無能、および独断による街道封鎖という国家反逆にも等しい行為を鑑み、王位継承権を剥奪。本日をもって、リリィ男爵令嬢との婚約を破棄し、北の地よりもさらに過酷な「絶海の孤島」にある修道院へ終身送りとする』……だそうだ」


「……ぷっ。婚約破棄、ブーメランですわね!」


私は思わず吹き出した。


「自分から私に突きつけた言葉を、今度は陛下から突きつけられるなんて。最高のエンターテインメントじゃありませんこと?」


「……さらに、リリィ男爵令嬢は、王家に対する詐欺的行為と予算の横領により、平民へ降格。王都の公共施設での『一生無償の清掃奉仕』を命じられた」


「掃除! あの方、あんなにひらひらしたドレスが好きだったのに、一生雑巾がけなんて……。まあ、私のキッチンを掃除してくれた騎士様たちに比べれば、楽な仕事かもしれませんわね」


私は満足げに頷いた。まさに、因果応報。


「……そして、ミュー殿。陛下は貴殿に対しても、多大なる謝罪と、名誉回復を望んでおられる。王都に戻り、公爵家を継ぐ意思があれば……」


「お断りしますわ」


私は食い気味に即答した。


「えっ……。し、しかし、王都の名誉が……」


「おじ様。見てください、このツヤツヤの肌。そして、窓の外に見えるあの広大な土地。私、ここでの『終身雇用』をヴォルグ様と契約済みなんです。今さら、味のしない王都の社交界に戻るなんて、腐ったリンゴを食べるより嫌ですわ」


「……。そ、そうか。ヴォルグ辺境伯が、そこまで貴殿を……」


老公爵が呆然としていると、背後の重厚な扉が勢いよく開いた。


「……ただいま戻ったぞ。ミュー、土産のスパイスは全部確保してきた」


王都から帰還したばかりのヴォルグ様が、旅の埃を払う間も惜しんで部屋に入ってきた。


その手には、王都の最高級スパイスが詰まった巨大な袋がいくつも握られている。


「ヴォルグ様! おかえりなさい! 最高のお土産ですわ!」


私は跳ねるように駆け寄り、ヴォルグ様の逞しい腕に飛びついた。


「……。ミュー、使者が来ているようだが。……また、貴様を連れ戻そうという話か?」


ヴォルグ様が、老公爵を「死神」の眼光で射抜く。


「ひ、ひぃっ! い、いえ! 名誉回復のお話でして……!」


「名誉なら、俺がこの地で保障している。……ミューはもう、どこへも行かん。な、ミュー」


ヴォルグ様が、少しだけ照れ臭そうに、けれど力強く私を引き寄せた。


「もちろんですわ! さあ、おじ様。陛下にはこうお伝えください。『ミュー・ド・ラ・パンは、死神の地をパラダイスに変えるのに忙しいので、王都の面倒はそちらで勝手に見てください』ってね!」


私はヴォルグ様の胸に顔を埋め、最高の幸せを噛み締めた。


「……。分かった。陛下には、貴殿が……恐ろしく逞しく、そして幸せそうだと伝えておこう」


老公爵は、逃げるように部屋を後にした。


「ふふ、これで本当に、邪魔者は誰もいなくなりましたわね、ヴォルグ様」


「……ああ。長旅で腹が減った。ミュー、貴様の料理を腹一杯食わせてくれ」


「お任せください! 今夜は特製スパイスを全部使った、豪華フルコースですわよ!」


私たちは、かつての「婚約破棄」がもたらした、最高の結果を喜び合い、共に調理場へと向かった。


私の悪役令嬢としての物語は、ここで一旦幕を閉じる。


けれど、美味しいものに囲まれた私たちの「パラダイス」は、これからが本当のメインディッシュなのだ。
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