断罪された悪役令嬢、「地獄へ落ちろ」と言われました。

ちゅんりー

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王都の王宮、その玉座の間は、かつてないほどの恐怖に包まれていた。


「ひ、ひぃぃ……っ! な、何なんだ、その姿は……っ!」


アルフレッド王子は、腰を抜かして玉座からずり落ちていた。


彼の目の前に立っているのは、返り血(実際には途中で仕留めた魔物のもの)を浴び、漆黒の毛皮をなびかせた、まさに「死神」そのもののヴォルグ辺境伯である。


ヴォルグ様は一言も発さず、ただそこに立っている。だが、その背後に控える騎士たちが抱える「ニシンの缶詰」の山と、ヴォルグ様の圧倒的な威圧感が、王宮の近衛兵たちを完全に戦意喪失させていた。


「……物流を止めた理由を聞こうか、トウモロコシ……いや、殿下」


ヴォルグ様の低い、地を這うような声が響く。


「そ、それは……ミューが、あんな生意気な態度を……! リリィ、何とか言え! 君を守るためにやったことだろう!?」


アルフレッドが震える指で隣のリリィを指差した。すると、リリィはこれまでに見たこともないような冷ややかな目で王子を突き放した。


「……ちょっと、アルフレッド様。わたくしを巻き込まないでくださる? 物流を止めようなんて言い出したのは、あなたの身勝手な嫉妬じゃありませんか!」


「な、なんだと……っ!? 君だって、北の地を干上がらせろと言ったじゃないか!」


「わたくしは『お肌に悪いから寒いところは嫌い』と言っただけですわ! それを勝手に拡大解釈して、挙句の果てに辺境伯様を怒らせるなんて……。なんて無能なのかしら!」


リリィは鼻を鳴らすと、あろうことかヴォルグ様に向かって、精一杯の「清純な微笑み」を向けた。


「辺境伯様ぁ、わたくし、ずっとこの方に無理やり従わされていたんですの。わたくしのような清らかな乙女を、どうか助けてくださいませ。あ、もしよろしければ、あのミュー様の代わりに、わたくしが北の地へ……」


リリィがヴォルグ様の腕に縋り付こうとした瞬間。


ヴォルグ様は、まるで汚物を見るような目で彼女を一瞥し、一歩下がってそれを避けた。


「……。貴様のような、芯まで腐った肉のような女に、北の地の清らかな空気は吸わせん。……ミューの爪の垢を煎じて飲め」


「……っ! く、腐った肉……!?」


リリィの顔が絶望に染まる中、アルフレッドが今度は叫び声を上げた。


「お前、僕を売るのか! 僕たちは『真実の愛』で結ばれていたはずだろう!?」


「真実の愛? そんなもの、美味しいお食事や宝石があってこそのものですわ! 今のあなた、ただの借金まみれの王子じゃない! もう愛想が尽きましたわ、このマザコン男!」


「マ、マザコン……っ!? 貴様、本性を現したな、この狐女め!」


「なんですって!? このトウモロコシ野郎!」


玉座の前で、かつての「運命のカップル」が、髪を振り乱し、顔を真っ赤にして罵り合いを始めた。


その醜い争いを、ヴォルグ様と北の騎士たちは冷めた目で見つめていた。


――一方、その様子を、王都に残しておいた密偵の魔法具(映像転送機能付き)で鑑賞していた私は。


「ぶっ、はははははは!! あははははは!! アンナ、見て、今の! 殿下が『トウモロコシ野郎』って言われてショックで白目剥いてるわよ!」


城の食堂で、私はお腹を抱えて椅子から転げ落ちそうになっていた。


「お嬢様、笑いすぎですよ……。でも、確かにこれは傑作ですね。あんなに熱烈に愛し合っていた二人が、死神……いえ、辺境伯様の一睨みでここまで壊れるなんて」


アンナもポップコーン(私が開発した新おやつだ)を放り込みながら、呆れたように画面を見つめている。


「真実の愛なんて、胃袋が満たされていない状況では、ただの幻想に過ぎないのよ。それにしてもリリィ様、最後に私のポジションを狙おうとするなんて、商魂たくましいわねぇ。まあ、ヴォルグ様に秒速で拒絶されていたけど!」


私は涙を拭いながら、お代わりのココアを啜った。


ヴォルグ様が王都で行ったのは、武力による制圧ではない。ただ「存在感」を見せつけ、彼らの脆い関係性に最後の一撃を加えただけだ。


「さあ、これで街道の封鎖も解除されるわね。ヴォルグ様、早く帰ってこないかしら。お土産のスパイスと一緒に、この爆笑エピソードを肴に乾杯したいわ!」


私は窓の外、ヴォルグ様たちが帰ってくるであろう南の空を見上げた。


かつての敵が自滅していく姿は、どんな高級デザートよりも後味が良かった。


「お元気で、殿下、リリィ様。……あ、もうお元気なわけないわね。あはは!」


私の明るい笑い声が、平和を取り戻した北の城に、いつまでも響き渡っていた。
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