悪役令嬢ドールは婚約破棄も無表情で承る!

ちゅんりー

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宰相府の執務室は、今日ばかりは「結婚式準備室」と化していた。

「……却下です」

ドールの冷徹な声が響く。

「ええーっ!? ダメなの!?」

アークがカタログを抱えて悲鳴を上げる。

「ダメに決まっています。……『参列者全員に純金の記念メダルを配布』? 正気ですか?」

ドールは赤ペンで見積書にバツ印をつけた。

「金相場を考えてください。こんなものを配ったら、式場の予算だけで国家予算が傾きます」

「でも、私たちの結婚だよ? それくらいのインパクトがないと!」

「インパクトなら、引き出物を『宰相府特製・激落ちくん(掃除用洗剤)』にすれば十分です。実用的で喜ばれます」

「夢がない! あまりにも夢がないよドール君!」

アークは机に突っ伏した。

二人の前には、山のようなカタログと見積書の束が積まれている。

式場、料理、衣装、装花、演出……。

決めるべきことは山積みだが、二人の意見はことごとく対立していた。

**ラウンド1:式場選び**

「私は『王立大聖堂』を予約したいんだ! ステンドグラスが最高に美しいし、王族の挙式といえばここだろう?」

アークが目を輝かせて提案する。

ドールは電卓を叩く。

「……大聖堂の使用料、金貨五〇〇枚。さらに聖歌隊、パイプオルガン奏者への謝礼、警備費……合計金貨八〇〇枚」

ドールは無表情で首を横に振った。

「高すぎます。コストパフォーマンスが悪いです」

「じゃあどこでやるんだい?」

「宰相府の中庭です」

「……は?」

「使用料タダ。移動コストゼロ。警備はいつもの衛兵を使えば追加料金なし。……合理的です」

「職場結婚式!? 嫌だよ、休日にまで職場を見たくない!」

アークが全力で拒否する。

「それに、中庭じゃ狭すぎる! 招待客一〇〇〇人が入り切らない!」

「立食パーティー形式にして回転率を上げれば可能です」

「うどん屋じゃないんだから!」

**ラウンド2:ウエディングケーキ**

「ケーキは高さ五メートルの『愛のタワー』にしよう! 飴細工で二人の像を作って!」

「食べきれません。食品ロスです」

ドールはバッサリ斬り捨てた。

「高さは一メートルで十分。……残りは発泡スチロールのダミーケーキで代用します」

「ハリボテ!?」

「見栄えは変わりません。……入刀する部分だけ本物のスポンジを入れておけば、写真映えは確保できます」

「君のその、徹底した『中身より外見(コスト)』精神、いっそ清々しいよ……」

**ラウンド3:演出**

「じゃあ、これならどうだ! 誓いのキスの瞬間に、一万羽の白鳩を空に放つ!」

「鳥の糞害が懸念されます。……クリーニング代および衛生面のリスクから、却下」

「なら、夜空に一万発の花火を!」

「火薬類取締法および騒音問題により却下。……周辺住民から訴訟を起こされます」

「ぐぬぬ……! じゃあ何ならいいんだ!」

アークが涙目で食い下がる。

ドールは涼しい顔で提案書を出した。

「『キャンドルサービス』の代わりに、『各卓を回っての集金(会費回収)ツアー』はいかがでしょう?」

「……強盗かな?」

アークは力なく椅子に沈んだ。

「……ドール。君は、私との結婚式が嬉しくないのかい?」

その声が、少しだけ真剣な響きを帯びていた。

ドールは手を止めた。

アークは拗ねているのではない。傷ついているのだ。

「……嬉しくないわけではありません」

ドールは正直に答えた。

「ですが、たった数時間の儀式に大金を投じる意味が理解できません。……そのお金があれば、新居の家具を揃えたり、将来の子供の教育費に回したりできるはずです」

ドールなりの、未来を見据えた建設的な意見だ。

しかし、アークは静かに首を振った。

「違うんだ、ドール」

アークはドールの手を取り、真剣な眼差しで見つめた。

「私は……見せつけたいんだよ」

「見せつける?」

「ああ。世界中にだ」

アークの手が、少し強くドールの手を握る。

「君はカイルに『捨てられた女』として噂になった。……婚約破棄のあの日、君は笑い者にされた」

「……まあ、事実ですね(本人は喜んでましたが)」

「私はそれが許せない。……だから、最高の結婚式を挙げて、君が『世界で一番愛され、価値のある女性』だと証明したいんだ」

アークの瞳には、熱い炎が宿っていた。

「金なんていくら掛かってもいい。……君があの日失った名誉を、何倍にもして取り返してやりたい。それが私のプライドなんだ」

ドールはハッとした。

(……この人、そんなこと考えてたんか)

(単なる浪費家のボンボンやと思ってたけど……私のために?)

ドールは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

これは『経費』ではない。『投資』だ。

アーク・レイブンという男が、ドール・ヴァレンタインというパートナーに捧げる、愛という名の投資。

それを「無駄遣い」と切り捨てるのは、あまりにも野暮というものだろう。

ドールは大きくため息をついた。

そして、赤ペンを置いた。

「……分かりました」

「えっ?」

「閣下の『プライド』という無形資産の価値……認めましょう」

ドールはカタログの山を引き寄せた。

「ただし! 青天井(使い放題)は認めません!」

ドールは宣言した。

「式場は『王立大聖堂』で承認します。……その代わり、装花は市場から直接仕入れてコストカット。聖歌隊は王立音楽院の学生アルバイトを使って人件費抑制!」

「ド、ドール!?」

「ケーキは五メートルを許可します。……ただし、飴細工の像は私が設計図を描いて、職人に値引き交渉します!」

ドールの目に、『戦闘モード』の光が宿る。

「鳩はダメですが、代わりに『シャボン玉』の演出なら許可します。機材は私が作りますので材料費のみ!」

「……君、まさか」

「やるからには、徹底的にやりますよ! 『最高に豪華』で、かつ『限界まで原価を抑えた』最強の結婚式をプロデュースして見せます!」

ドールはニヤリ(無表情だが目が笑っている)とした。

「私の『経営手腕』の見せ所です。……閣下の顔を立てつつ、財布も守ってみせましょう」

アークは呆気にとられ、そして……嬉しそうに破顔した。

「ははっ! 頼もしいな! それでこそ私の妻だ!」

「さあ、忙しくなりますよ! まずは花屋への相見積もりから!」

「了解だ、マイ・ボス!」

こうして、二人の結婚準備は『戦争』から『共同プロジェクト』へと進化した。

ドールの鬼のようなコストカット術と、アークの圧倒的な美的センスが融合し、前代未聞の結婚式が作り上げられていくことになる。

(……待ってろよ、世間様。私の『市場価値』、ストップ高まで上げて見せるからな!)

ドールは電卓を片手に、新たな戦場へと飛び込んでいった。
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