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力の代償
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目を覚ました時、俺は地面に伏していた。
土の冷たさが、やけに鮮明だ。
いや――冷たいと感じられるほど、体の感覚が戻ってきたと言うべきか。
「……動け、ない」
指先に力を込めた、その瞬間。
内側から鈍い痛みが走った。
「っ……!」
声にならない。
筋肉痛とも、骨折とも違う。
神経ですらない。
――体の奥。
霊力そのものが、軋んでいる感覚だった。
『動くでない』
葛葉の声が、すぐ近くで響く。
『今の貴様は、器が割れかけておる』
「……器?」
『霊力を通す器じゃ』
『本来、貴様はまだ“尾”を扱える段階ではないのう』
尾を使った代償。
覚悟はしていたが、ここまでとは思わなかった。
呼吸をするたび、胸の内側がひりつく。
霊力を意識しようとすると、視界が歪む。
「……俺、死にかけてる?」
『そうじゃな……今は、我が抑えておる』
淡々とした声。
だが、どこか苦味が滲んでいる。
「……そっちは、平気なのか」
そう尋ねると、少しの間があった。
『もちろん、無事ではないのう』
短い言葉。
『尾を使った。たった一本でも、今の我には致命的に近い』
沈黙が落ちる。
――つまり、あの一撃は。
互いの限界を削り合った末の結果だった。
「……悪かった」
『謝るでない』
即答だった。
『あの場で力を使わねば、貴様も我も死んでおった』
それは事実だ。
理解できるからこそ、胸が重い。
『じゃが、覚えておけ』
葛葉の声が低くなる。
『尾は“切り札”じゃ』
『今のお前が使えば、二度目で霊脈は焼き切れる』
「……三度目は?」
『三度目を使えば、身体が崩れる』
『完全に、じゃ』
はっきりとした死の宣告だった。
俺は、ゆっくりと天を仰ぐ。
木々の隙間から見える空は、何事もなかったかのように穏やかだ。
「……じゃあ、強くならないとな」
「尾を使わなくても、戦えるように」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
体は痛む。
正直、今すぐ眠りたい。
それでも――
諦める理由にはならなかった。
『……そうじゃな』
葛葉の声に、微かな笑みを感じる。
『期待しておるぞ』
『呪いの抑制が始まったからか、霊力は確かに目覚めつつある』
その直後、胸の奥がずきりと疼いた。
「……っ」
『代償じゃ』
『今日はもう霊力を動かすでない。一日は術の使用を禁じる』
「分かった……」
立ち上がろうとして、失敗する。
足に力が入らない。
だが、情けなさより先に、奇妙な実感が湧いた。
――生きている。
――戦って、まだ生きている。
その時だった。
遠く、森のさらに奥。
視界に映らぬ場所で――何かが蠢いた。
地下。
人の世から切り離された、妖力の濃度が異常に高い空間。
巨大な石柱の間で、影が揺れる。
「……今のは、何だ」
低く、湿った声。
水面のような結界に、微細な波紋が広がっていた。
「この領域で、九尾の波長が……?」
別の影が、苛立たしげに舌打ちする。
「あり得ん。あれは葬ったはずだ」
「いや……」
最初の影が、結界に手を触れる。
「完全ではなかった、ということか」
空間が、わずかに歪む。
波紋の中心点――そこには、人の気配が混じっていた。
「それに人間……?」
「しかも、古く懐かしい気配だな」
影が、嗤う。
「西園寺……か」
その名を口にした瞬間、空気が冷えた。
「面倒だな。だが――」
影は、ゆっくりと立ち上がる。
「我が完全に復活するまで、後わずか」
「九尾が力を取り戻す前に……叩く」
――
再び、森。
俺は、ようやく身を起こしていた。
全身が重く、霊を感じるたびに痛む。
それでも。
「……誰かに、見られた気がする」
理由はない。
ただ、背筋がざわついた。
『勘じゃが……間違ってはおらぬ』
葛葉の声が、低くなる。
『尾を使った代償は、力だけではない』
『――存在を、知られたのじゃ』
胸が、嫌な音を立てる。
「……敵が、動く?」
『ああ』
『この気配……王かのう』
短く、断定的に。
『ここからは、時間との勝負じゃ』
痛む体を引きずりながら、俺は歩き出した。
無能と呼ばれていた時間は、もう終わった。
だが代わりに――
この力で、
より強大な敵と向き合わねばならない。
そんな予感が、確かにしていた。
土の冷たさが、やけに鮮明だ。
いや――冷たいと感じられるほど、体の感覚が戻ってきたと言うべきか。
「……動け、ない」
指先に力を込めた、その瞬間。
内側から鈍い痛みが走った。
「っ……!」
声にならない。
筋肉痛とも、骨折とも違う。
神経ですらない。
――体の奥。
霊力そのものが、軋んでいる感覚だった。
『動くでない』
葛葉の声が、すぐ近くで響く。
『今の貴様は、器が割れかけておる』
「……器?」
『霊力を通す器じゃ』
『本来、貴様はまだ“尾”を扱える段階ではないのう』
尾を使った代償。
覚悟はしていたが、ここまでとは思わなかった。
呼吸をするたび、胸の内側がひりつく。
霊力を意識しようとすると、視界が歪む。
「……俺、死にかけてる?」
『そうじゃな……今は、我が抑えておる』
淡々とした声。
だが、どこか苦味が滲んでいる。
「……そっちは、平気なのか」
そう尋ねると、少しの間があった。
『もちろん、無事ではないのう』
短い言葉。
『尾を使った。たった一本でも、今の我には致命的に近い』
沈黙が落ちる。
――つまり、あの一撃は。
互いの限界を削り合った末の結果だった。
「……悪かった」
『謝るでない』
即答だった。
『あの場で力を使わねば、貴様も我も死んでおった』
それは事実だ。
理解できるからこそ、胸が重い。
『じゃが、覚えておけ』
葛葉の声が低くなる。
『尾は“切り札”じゃ』
『今のお前が使えば、二度目で霊脈は焼き切れる』
「……三度目は?」
『三度目を使えば、身体が崩れる』
『完全に、じゃ』
はっきりとした死の宣告だった。
俺は、ゆっくりと天を仰ぐ。
木々の隙間から見える空は、何事もなかったかのように穏やかだ。
「……じゃあ、強くならないとな」
「尾を使わなくても、戦えるように」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
体は痛む。
正直、今すぐ眠りたい。
それでも――
諦める理由にはならなかった。
『……そうじゃな』
葛葉の声に、微かな笑みを感じる。
『期待しておるぞ』
『呪いの抑制が始まったからか、霊力は確かに目覚めつつある』
その直後、胸の奥がずきりと疼いた。
「……っ」
『代償じゃ』
『今日はもう霊力を動かすでない。一日は術の使用を禁じる』
「分かった……」
立ち上がろうとして、失敗する。
足に力が入らない。
だが、情けなさより先に、奇妙な実感が湧いた。
――生きている。
――戦って、まだ生きている。
その時だった。
遠く、森のさらに奥。
視界に映らぬ場所で――何かが蠢いた。
地下。
人の世から切り離された、妖力の濃度が異常に高い空間。
巨大な石柱の間で、影が揺れる。
「……今のは、何だ」
低く、湿った声。
水面のような結界に、微細な波紋が広がっていた。
「この領域で、九尾の波長が……?」
別の影が、苛立たしげに舌打ちする。
「あり得ん。あれは葬ったはずだ」
「いや……」
最初の影が、結界に手を触れる。
「完全ではなかった、ということか」
空間が、わずかに歪む。
波紋の中心点――そこには、人の気配が混じっていた。
「それに人間……?」
「しかも、古く懐かしい気配だな」
影が、嗤う。
「西園寺……か」
その名を口にした瞬間、空気が冷えた。
「面倒だな。だが――」
影は、ゆっくりと立ち上がる。
「我が完全に復活するまで、後わずか」
「九尾が力を取り戻す前に……叩く」
――
再び、森。
俺は、ようやく身を起こしていた。
全身が重く、霊を感じるたびに痛む。
それでも。
「……誰かに、見られた気がする」
理由はない。
ただ、背筋がざわついた。
『勘じゃが……間違ってはおらぬ』
葛葉の声が、低くなる。
『尾を使った代償は、力だけではない』
『――存在を、知られたのじゃ』
胸が、嫌な音を立てる。
「……敵が、動く?」
『ああ』
『この気配……王かのう』
短く、断定的に。
『ここからは、時間との勝負じゃ』
痛む体を引きずりながら、俺は歩き出した。
無能と呼ばれていた時間は、もう終わった。
だが代わりに――
この力で、
より強大な敵と向き合わねばならない。
そんな予感が、確かにしていた。
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