【完結】悪役令嬢の私、婚約破棄されたはずが隣国の冷酷王太子に溺愛されています

22時完結

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お忍び外出で、まさかの溺愛警報発令!?

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王宮・午前

「外に……出る、ですか?」

朝の書斎でそう告げられ、私は思わず聞き返した。

「そうだ。王宮の生活にも慣れてきただろう。そろそろ街を見ておいた方がいい」

レオニス殿下は淡々とそう言いながら、書類の一枚をめくる。

「街……ですが、私、まだ滞在間もないですし、準備も……」

「護衛は俺がする。問題ない」

「い、いえ、そういう意味では……」

この人は、どうしてこうも毎度さらっと“俺が護る”と言ってしまえるのだろう。

(いや、ありがたいけれど……)

「俺の婚約者としての立場を学ぶにも、実際に庶民の目に触れ、話を聞くことは有意義だ」

「……それは、確かに……」

私は観念してうなずいた。

「では、どのような服装で?」

「お忍びだ。平民の娘らしい格好に変えろ」

「えっ、平民の――」



着替え室

「うそ……私、こんな姿、初めて……」

鏡に映る自分の姿に、思わず絶句した。

リボンもフリルもない、麻布のシンプルなワンピース。上品だけど地味で、髪も緩くまとめただけ。

「令嬢の風格が抜けきっていないな」

「だ、殿下!」

「そのままだとすぐ気づかれる。もう少し肩の力を抜け」

「ぬ、抜くって……こ、こうですか?」

「……まだ堅い」

「~~っ、難しいです!」

呆れたような笑みを浮かべながら、レオニス殿下は私の肩にそっと手を置いた。

「無理に隠す必要はない。だが、お前の本質を知ってもらう機会にしたい。気負うな」

その言葉に、胸の中がほんの少しあたたかくなる。

「……はい。殿下となら、安心です」

「当然だ。何があっても、俺が護る」

(その一言で、どれほど心強いか……この人、本当に“仮初め”なんですか?)



市街地・昼

「わあ……」

初めて見るガルディアの市街地は、活気に満ちていた。

石畳の通りに、果物や花、布を売る露店が並び、賑やかな声が飛び交う。

「こんなに人が……」

「治安はこの五年で大きく改善された。国民の暮らしも豊かになってきている」

レオニス殿下は隣を歩きながら、小さく解説してくれる。

時折、彼の正体に気づきそうな人もいたが、彼の着こなしと雰囲気で、誰も確信は持てないようだった。

「……おや? あれはリリエル様では?」

突然、声がかかり、私は足を止めた。

「えっ……?」

そこにいたのは――

「クローデル家に仕えていた、ユージンさん……!」

「まさかここでお会いするとは。よくぞご無事で……!」

ユージンはラウディス王国の騎士団に所属していた、父に忠実な部下だった人物だ。

「わたくし、今はガルディアに……レオニス殿下の庇護下におります」

「おお、それはそれは……。本当に……」

彼は目を潤ませて言った。

「私はずっと、あの裁判が不当だったと思っておりました。殿下に拾われたと聞いた時、神に感謝したのです」

(そんなふうに、思ってくれている人がいたなんて……)

「……ありがとう、ございます」

ふと、レオニス殿下が無言で彼を見ていたことに気づく。

「……リリエル。そろそろ行くぞ」

「あ、はい……」

「ではまた、どこかで――」

軽く頭を下げて別れたその時――

「……妬いてなどいない」

突然、レオニス殿下がつぶやいた。

「え?」

「お前に慕う男がいたからと言って、気にしているわけではない」

「えっ、な、何のことですか!?」

「ただし……」

殿下が立ち止まり、振り返る。

「俺の“婚約者”を見つめる視線には、注意すべきだろうな」

「…………」

(これは……明らかに、嫉妬――!?)

「ま、まだ“仮”の婚約者なのですが……」

「仮でも、本気だ。俺にとってはな」

耳まで熱くなる。

「…………っ!」

(まさかの、お忍び外出で告白みたいなことをされるなんて聞いてません!)



街のはずれの花畑

人の少ないエリアに広がる野花の丘で、私たちは一息ついた。

「ここは、子供の頃よく来た場所だ」

「殿下が……?」

「王宮に縛られる前の、数少ない自由な時間だった」

彼の横顔は、少しだけ柔らかく見えた。

「今日の街歩き、楽しかったか?」

「はい。とても……」

「なら、また来ればいい」

「……次は、お忍びじゃなくても?」

「そうだな。だが、そのときは“本物の婚約者”としてだ」

――心臓が飛び跳ねそうになった。

「……そんなこと、簡単に言わないでください」

「簡単ではない。だが、俺はお前を選んだ。仮初めであっても、後悔はしていない」

私は言葉を失った。

(この人は、本当に……“私”を選んでくれているんだ)

目の前の花畑が、涙でにじんで見えた。
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