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正式婚約と、突然の帰国命令
しおりを挟むガルディア王宮・謁見の間
「これより、王太子レオニス=フォン=ガルディアと、リリエル=クローデル嬢との婚約を正式に発表する」
老王の威厳ある声が、玉座の間に響いた。
場にいた貴族たちはどよめき、そして次第に拍手へと変わっていった。
「殿下……本当に、ここまでしてくださるなんて」
「俺が望んだからだ。誰に何を言われようと、お前が隣にいるのが当然だと思っている」
そう囁いたレオニス殿下の声に、私の胸はいっぱいになった。
(“仮”ではない、私はもう――)
「正式な、王太子妃候補……なんですね」
「いや、王妃にするつもりだ」
さらりと口にされて、思わず頬が熱くなった。
⸻
ガルディア王宮・庭園
正式な婚約が発表されたその夜、私は庭園にひとり佇んでいた。
(こんなにも幸せでいいのかしら……)
そう思っていたところへ、ミレーネが慌ただしく駆け寄ってきた。
「リリエル様、大変です。……ラウディス王国より、緊急の書状が届きました」
「……ラウディスから?」
「はい。“前侯爵令嬢リリエル・クローデル殿の帰国を強く要請する”とのことです」
「……なぜ今さら」
内容を確認すると、そこにはこうあった。
『かつて処刑された身である以上、リリエル・クローデル殿の生存は国家に混乱を招く可能性がある。
よって、当国にて再審議を行う必要がある』
(まさか……再び、裁判にかけようというの?)
恐ろしさに膝が震えた。
⸻
王宮・執務室
「殿下、あの書状をどうお考えですか?」
「簡単な話だ。ラウディスは、お前が“生きている”ことそのものが都合悪いのだろう」
レオニス殿下は静かに言った。
「かつての冤罪。それを覆されたとなれば、誰かが“責任”を問われる。彼らはそれを恐れている」
「でも、いまさら帰国して再審議など……命を狙われる危険だってあります」
「分かっている。だから、俺がついていく」
「……え?」
「王太子妃を奪うというのなら、王太子自ら同行し、“その是非”を正面から問うまでだ」
「……でも、それは殿下にとっても危険です」
「お前だけを危険な目に遭わせるわけにはいかない」
彼の言葉に、胸が熱くなった。
(この人は、本当に……私を守るために)
⸻
ガルディア・王政会議
「王太子殿下。ラウディスへの同行は危険すぎます」
「……それでも、俺は行く」
老王はため息をついた。
「お前は、私の跡を継ぐ王太子だ。命を危険にさらして良い立場ではない」
「ならばこそ、今この問題を見過ごすべきではありません。
将来、ガルディアの王となる者が、婚約者一人守れぬと思われては、それこそ恥です」
その言葉に、王政会議の面々は息を呑んだ。
「……分かった。だが、決して無茶をするな。護衛は十倍つけよう」
「感謝いたします、父上」
そして私は、覚悟を決めた。
「私も参ります」
「当然だ」
ふたりは静かに頷き合った。
⸻
出立の日
出立の朝、私は再び“あのときの道”を馬車で進んでいた。
処刑された記憶が、脳裏をかすめる。
(あの広場……あの断罪の言葉……)
だけど、今回は違う。
私はレオニス殿下とともにあり、ガルディア王国の“未来の王太子妃”として帰還するのだ。
「怖いか?」
「……少し。でも、殿下がいれば大丈夫です」
「そうか。なら安心した」
手が重なり合う。
あたたかくて、心強い――“運命を共にする”と決めた手だった。
⸻
ラウディス王宮・謁見の間
「リリエル・クローデル。よく戻ったな」
玉座に座るのは、私のかつての主君――ラウディス王。
「この者は、我が婚約者です」
レオニス殿下がきっぱりと言い放つ。
「王太子殿下。これは我が国の内政問題であります。婚約云々で関係のない第三国が干渉するのは――」
「干渉ではない。これは、“王族の婚約者に対する名誉の問題”だ。
この者を再審にかけようというのなら、ガルディア王国が“全力で”それに抗議する」
重たい沈黙が広がる。
(……この場で、殿下が私を守ってくれている)
「では……改めて問いましょう。
ラウディス王国は、何を根拠に彼女の帰国と再審を求めたのですか?」
「……過去の証拠に不備が見つかり、処刑を取り消したとはいえ、
その決定は我が国の司法における最終判断ではないと考えております」
「……つまり、証拠不備を無視してでも処刑を“正当化”したいと?」
「それは……っ」
言葉に詰まるラウディス王。
そのとき、後方から別の声が響いた。
「やめてください、父上。もう、これ以上は……!」
現れたのは――
「……フィオナ様?」
⸻
謁見の間・逆転
フィオナ王女は震える声で言った。
「私、知っていました。リリエルが冤罪だったことも、本当は彼女が何も悪くなかったことも……」
「フィオナ、黙るのだ」
「いいえ。私が黙っていたから、彼女はあんな目に遭ったんです!」
衝撃的な告白に、場は騒然とした。
「……あなたが証言してくれれば、あの時の裁判の流れも変わっていたかもしれないのに……!」
「ごめんなさい……! 本当に、ごめんなさい……!」
フィオナ王女は涙を流して、私の前で頭を下げた。
「……リリエル。もしも許されるなら、私は――」
「それ以上は申しません。……けれど、真実を語ってくださったことには、感謝します」
私は穏やかに返した。
⸻
ガルディアへの帰還
帰還の道すがら、馬車の中は静かだった。
でも、言葉では言い表せないほど、心が軽くなっていた。
「……終わったな」
「はい」
「これでもう、誰にもお前を責めさせない」
「殿下……」
静かに、彼が私の額にキスを落とす。
「お前は俺の婚約者だ。これから先、何があろうとずっと」
「……はい。ずっと、そばにいます」
私たちは、再び強く、手を握り合った。
⸻
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