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王妃教育と、ライバル令嬢の出現
しおりを挟むガルディア王宮・書庫の間
「リリエル様、本日から“王妃教育”が本格的に始まります」
侍女長のエリザベートが厳しい声で告げる。
「礼儀作法、外交言語、歴史、宮廷舞踏……すべてが“国家の顔”にふさわしくなければなりません」
「……はい、覚悟はできています」
正直、気が重い。
王太子妃として認められたとはいえ、それは“未来の王妃”としての責任を背負うということ。
(でも、もう逃げないって決めたから)
私は、筆を手に取り勉学に向かった。
⸻
教育の合間・レオニスとのひととき
「こんなに勉強するの、侯爵令嬢時代でもなかったわ……」
疲れた頭を抱えていると、レオニス殿下がふと現れた。
「お疲れのようだな。……ほら、これを」
差し出されたのは、冷たいフルーツのゼリー。
「え、これ……殿下が?」
「厨房に頼んだだけだ。だが、“お前のために”な」
ちょっとだけ、ほころぶ。
「……こうして甘やかすから、がんばれちゃうんですよ」
「それなら何度でも甘やかそう」
(……この人、本当にずるい)
⸻
ガルディア王宮・大広間
その日、王宮に招かれた一人の貴族令嬢がいた。
「この方は、ヴィオラ=エルフェンリート嬢。王太子殿下のご学友であり、かつての舞踏の名手です」
「初めまして、リリエル様。ようやくお目にかかれましたわ」
長く艶やかな栗色の髪。
深紅のドレスに身を包んだその女性は、完璧な作法で私に一礼する。
(……綺麗な人)
「こちらこそ、お会いできて光栄です。ヴィオラ様」
「ふふ……ずいぶんと可愛らしいご挨拶。でも、王妃になるには、まだまだ“お勉強”が必要そうですわね?」
一瞬、笑みの奥に冷たい色を見た気がした。
⸻
ライバル令嬢の宣戦布告
「私、レオニス様とは幼い頃から共に過ごしてきたのです」
庭園を歩きながら、ヴィオラはまるで昔を懐かしむように語る。
「剣の稽古にもついていきましたし、社交界でも隣に立った回数は数え切れないほど。
それだけ“ふさわしい”と周囲も思っていたのですよ」
「……それは、素晴らしいことですね」
「でも突然、異国から連れてこられた方が王妃になるだなんて……人々は納得すると思います?」
――やっぱり、そういうこと。
「私は殿下に命を救われ、そして――」
「命を救われたから恋に落ちた? それって、ほんの“感情の昂り”ではなくて?」
彼女の言葉は柔らかい。でも、芯は鋭利だった。
「私、本気で王太子妃の座を目指すつもりですの。……ですから、どうぞ負けないでくださいね?」
宣戦布告。それは、微笑の形をした刃だった。
⸻
王宮・舞踏練習室
「リリエル様、もう一度最初から!」
ミレーネの指導の声が響く。
(どうして、こんなにも足がもつれるの……)
何度やっても、ヴィオラのように華麗に舞えない。
彼女はまるで空気をも操るように、軽やかに舞うのに。
「ごめんなさい、ミレーネ……私、全然ダメね」
「いえ、努力は確実に実を結びます。……でも、あの方は、幼少期から訓練されてきた舞踏の貴族ですから」
分かっている。でも、悔しかった。
(私は“見合わない”のかしら。王太子妃として――レオニス様の隣に立つには)
そんな弱気を、かき消すように私は再び立ち上がった。
⸻
レオニスとの夜会前の会話
「ヴィオラ嬢とは昔からのお知り合いなのですね」
夜会前の控え室。私はそっと尋ねた。
「……まあな。だが、俺にとっては昔の話だ。今はお前がいる」
「ヴィオラ様は、美しくて、聡明で、舞踏も完璧です」
「だが、彼女は“お前ではない”」
レオニスは真っ直ぐに私の目を見る。
「お前が傷ついても、苦しくても、それでも立ち向かう強さを俺は知っている。
だから、俺はお前を選んだ」
心が、ぽん、と軽くなった。
「ありがとう、殿下」
「さあ、そろそろ舞踏会だ。……踊ってくれるか?」
「はい、喜んで」
⸻
舞踏会・ガルディア王宮
ヴァイオリンの旋律が夜の空気を染める中、私はレオニス殿下と共にフロアの中心へと進んだ。
皆の視線が集まる中、私は恐れずに一歩を踏み出した。
(失敗してもいい。けれど――私は逃げない)
殿下の手が、そっと私を導く。
足取りは、舞踏室での練習とは違って軽く、自然だった。
(殿下がいるから、怖くない)
ステップを踏みながら、私は心の中で何度も誓った。
(どんなに困難でも、この人の隣を歩く)
ヴィオラ嬢が視線を向けていた。
その奥にあったのは、驚き――そして、わずかな悔しさ。
(負けない。どんなに美しくても、“心”は譲れない)
⸻
舞踏会・終幕
夜会の終わり、殿下が耳元でささやいた。
「お前の舞踏、見惚れたぞ」
「……本当?」
「嘘をつく必要があるか? あの会場で、お前以上に輝いていた者などいなかった」
胸が高鳴った。
「私は……やっと、“王太子妃候補”になれた気がします」
「違う。“俺の未来の王妃”だ」
「……はい」
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