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優しすぎる旦那様
しおりを挟む結婚から三日が経った。クラリスは朝早く目を覚まし、窓を開けて庭を眺めるのが日課になっていた。秋の朝は少し肌寒く、薄手のナイトガウンでは身震いしてしまう。
「おはようございます、奥様」
エマがノックとともに入ってきた。いつものように朝食の準備について説明してくれるのだが、今日は何か違った。
「旦那様から、お体を冷やさないようにとのことで」
エマが差し出したのは、美しい刺繍が施されたショールだった。深い青色の生地に、銀糸で繊細な花模様が描かれている。
「これは?」
「昨夜、旦那様が街まで出かけられ、お選びになったそうです」
クラリスは驚いた。アルベルトが自分のためにわざわざ外出したというのか?
「朝の庭は冷えるから、必ず身に着けるようにと」
エマの言葉に、クラリスは混乱した。互いに干渉しないという約束はどうなったのだろう。でも、確かに朝は寒い。実用的な配慮だと思うことにした。
ショールを羽織って朝食を取りに向かうと、食堂にはアルベルトの姿があった。新聞を読みながら、静かに紅茶を飲んでいる。
「おはよう、クラリス」
「おはようございます」
クラリスは向かい側の席に座った。使用人が朝食を運んでくる。パンとチーズ、果物にスープ。シンプルだが、どれも美味しそうだった。
「そのショール、似合っているな」
アルベルトが新聞から顔を上げて言った。クラリスは顔が熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます」
「朝は冷えるからな。風邪をひかれては困る」
そう言って、アルベルトは再び新聞に目を落とした。クラリスは彼の横顔を見つめながら、なぜこんなに配慮してくれるのか疑問に思った。
朝食を終えて部屋に戻ると、デスクの上に小さな包みが置かれていた。
「これも旦那様からです」
エマが説明してくれる。包みを開けると、中には美しい万年筆が入っていた。
「読書がお好きと伺ったので、日記でも書かれてはいかがかと」
添えられた手紙にはそう書かれていた。確かにクラリスは本を読むのが好きだったが、いつそのことを話したのだろう。
その日の午後、クラリスは庭を散歩していた。秋の庭は美しく、色とりどりの花が咲いている。ベンチに座って本を読んでいると、足音が近づいてきた。
「読書中だったか。邪魔をしたかな」
振り返ると、アルベルトが立っていた。
「いえ、そんなことはありません」
「この庭は私の母が作ったものなんだ。花が好きな人だった」
アルベルトは隣のベンチに座った。クラリスは彼の表情を見て、少し驚いた。普段の無表情とは違い、どこか優しい表情をしていた。
「お母様は、どのような方でしたか?」
「優しい人だった。この庭で、よく私に本を読んでくれた」
アルベルトは遠くを見つめながら話した。クラリスは、彼の中にある優しさを感じた。
「君は、ここでの生活はどうだ?不自由していないか?」
「はい、とても快適です。皆さんが親切にしてくださるので」
「そうか。それは良かった」
アルベルトは微かに微笑んだ。その笑顔を見て、クラリスの心は少しだけ温かくなった。
夕方、部屋に戻ると、またしても贈り物が待っていた。今度は美しい茶器セットだった。
「午後のお茶の時間を、より楽しんでいただければと」
手紙にはそう書かれていた。クラリスは困惑した。これは明らかに干渉しすぎではないだろうか。
でも、その優しさが嬉しくないわけではなかった。むしろ、心の奥で小さな花が咲いているような気がした。
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