【完結】断罪の日、私は“隣国の王子”に拾われた

22時完結

文字の大きさ
5 / 8

二人の距離、そして現れた“隠された令嬢”

しおりを挟む
    王宮で行われた公開質問の日から、一週間が過ぎた。

民の前でレオンハルト様と並び立ち、共に“未来を誓った”ことで、
私に向けられていた冷ややかな視線は、少しずつ柔らかなものへと変わり始めていた。

けれど、そんな穏やかな日々の裏で——

“もう一つの戦い”が、静かに幕を開けようとしていた。



「アリア、今夜は執務を早めに切り上げる。少し散歩でもしよう」

そんな言葉をかけられたのは、初夏の柔らかな夕暮れのことだった。

王宮の裏庭に咲くバラ園は、夕陽に照らされて美しく輝いている。

レオンハルト様と二人きりで歩くその時間は、まるで夢の中のようだった。

「……この景色、昔からお好きなのですか?」

「いや。あまり来たことはない。ただ……お前がここを好みそうだと思って」

「——!」

不意にそう言われて、私は思わず足を止めた。

(……そんなことを言われるなんて)

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

「アリア」

「……はい?」

「お前がここに来てから……いや、俺が“お前を選んでから”だな。いろいろなことが変わった」

「……それは、悪い方に、でしょうか?」

「逆だ。世界が、少しだけまっすぐに見えるようになった」

——その瞬間。

私は、レオンハルト様の瞳を、初めて正面から見た気がした。

冷たくも鋭いと噂されていたその眼差しには、
今はもう、私へのまっすぐな“想い”しか宿っていない。

「……アリア、お前を抱きしめてもいいか?」

「っ……はい……」

レオンハルト様が私を優しく引き寄せると、
その腕の中に包まれて、私はただ静かに目を閉じた。

その夜、私は眠る前にこう思った。

——私は、この人の隣で生きていきたい。ずっと。



だが、その翌朝。

王宮に一つの報せが届く。

「アリステリア嬢が、体調を崩して入院されたそうです」

「……彼女が?」

「はい。ですが、それだけではなく……おそらく、彼女の“正体”に関する情報も、届くかと」

メイド長が手渡した報告書には、信じがたい内容が綴られていた。

『アリステリア=グランツ嬢は、公爵家の養女であり、
 実の出自は“王都郊外の魔道師一族”に連なる、いわば“庶民階級”である可能性が高い』

(……なぜ、それを今まで隠していたの?)

真相を確かめようとしたその時。

王宮を訪れた一人の少女が、私のもとへと案内された。

「失礼いたします。アリア様、少しお時間をいただけませんか?」

それは、透き通るような金の髪と、緑の瞳を持つ、どこか憂いを帯びた少女だった。

「私は、ユーフェミア=アルステッドと申します。……アリステリアの、実の妹です」

「……!」

私が声を失っていると、彼女は深く頭を下げた。

「姉は……姉は、ずっと“王家の花嫁”になることを望んで育てられました。
 でも、あの人は本当は……ただ、“家のために”望まれただけだったのです」

彼女の話によれば——

アリステリアは、公爵家の本当の娘ではなく、
若き日のグランツ公爵が愛した“魔道師の娘”だったという。

王家との縁談を実現させるため、
彼女はその素性を封じられ、“完璧な淑女”として育てられた。

だが、その裏では——常に“本物ではない自分”との葛藤に苦しんでいたらしい。

「姉は、あなたに嫉妬していました。真っ直ぐに愛されるあなたが、羨ましかったのです。……でも、あなたのことを“嫌って”いたわけではないのです。きっと」

「……ユーフェミアさん」

私の声は、自然と柔らかくなった。

「あなたの話を聞いて、私は少し、彼女のことがわかった気がします。ありがとう。伝えてください。——私は、もう誰も恨んではいません、と」

「……はい」

少女は、静かに微笑んだ。



その日の夕方。

私は、レオンハルト様にこのことを伝えた。

「……アリステリア嬢の出自。あなたは、最初から知っておられたのですか?」

「察していた。だが、それを公にしても、彼女を追い詰めるだけだと思った」

「優しいのですね、あなたは」

「……そう言われるのは、慣れていないな」

私たちは、そっと微笑み合う。

——けれど、物語はまだ終わらない。



数日後。

王宮の中庭に、一人の人物が現れた。

「久しぶりだな、アリア」

その声に振り向くと——

そこにいたのは、私の元・婚約者であり、王太子・カイルだった。

「……何のご用件でしょうか、殿下」

「お前に伝えておきたい。俺は、お前を手放して正しかったとは思っていない」

「——今さら、何を」

「レオンハルトに負けるのが癪なだけだ。だが、それでも……お前が“他人の手に渡る”のは、腹立たしい」

(この人は、やはり……)

自分が選ばなかったくせに、失ったと気づいた瞬間に惜しくなる。

そんな“浅はかな執着”に、私はもう縛られない。

「私が誰のものであるかは、あなたに関係ありません」

きっぱりと言い放つと、カイルは一瞬驚いた顔をして、それから嘲るように笑った。

「……ずいぶん変わったな、アリア。いい目をするようになった」

その言葉に、私は自信を持って答える。

「ええ。私はもう、“捨てられる令嬢”ではありませんから」



そして——その日の夜。

レオンハルト様は、私を庭へと連れ出した。

星の下で、彼は静かに問いかけた。

「アリア。俺の妃になってくれ」

「——はい。喜んで」

涙がこぼれるほどの幸福と共に、
私は彼の腕の中で、強く、優しく、抱きしめられた。

それは、かつて誰からも祝福されなかった令嬢が、
ようやく掴んだ“真実の愛”の証だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

政略結婚のはずでしたが、黒の公爵に「君を愛するつもりしかない」と言われました。

ちよこ
恋愛
没落寸前のエーデル伯爵家の令嬢ルイーズは、この国最大の権勢を誇る黒の公爵エルハルトと政略婚を結ぶことになった。 釣り合わない縁談に社交界はざわめいたが、ルイーズは「家同士の利害が一致した取引に過ぎない」と割り切っていた。 ところが初夜、公爵は開口一番こう言った。 「私は君を愛するつもりしかない」 政略婚のつもりでいた令嬢と、最初から決めていた公爵の、少し不器用な初夜の話。​​​​​​​​​​​​​​​​

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません

由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。 破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。 しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。 外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!? さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、 静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。 「恋をすると破滅する」 そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、 断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...