【完結】断罪の日、私は“隣国の王子”に拾われた

22時完結

文字の大きさ
4 / 8

婚約発表と、現れたもう一人の“花嫁候補”

しおりを挟む
    夜会でレオンハルト様が「私を婚約者候補に指名した」と宣言してからというもの、
王宮内の空気は一変した。

これまで私を陰で「断罪された令嬢」と嘲笑していた人々は、
今では一転して、距離を置きながらも頭を下げるようになった。

けれど私は、そうした態度の変化に一喜一憂することもなかった。

今の私は、“誰かの価値”によって生かされているのではない。

自分の足で立ち、自分の意思で進んでいる。

その自信は、レオンハルト様の隣に立てたことで、初めて得られたものだった。



そんな中、レオンハルト様からひとつの報せを受けた。

「アリア、正式に“婚約”を発表する。三日後、王家主催の晩餐会だ」

「——!」

それは、まるで夢のような話だった。

あの日、すべてを奪われたあの晩餐会で、今度は“選ばれる”側として名を告げられる。

私は震える声で、彼に問うた。

「……私で、本当にいいのですか?」

「お前以外に誰がいる?」

レオンハルト様は、まるでそれが当然のことのように言った。

「……はい。ありがとうございます。私も……あなたと生きたい」

そうして私は、生まれ変わった自分として、再び晩餐会の席に立つ決意をした。



そして——晩餐会当日。

大広間には、国内外の貴族たちがずらりと並び、
まるで舞踏会のような華やかさを放っていた。

けれど私の心は、穏やかだった。

レオンハルト様が隣にいて、私の手をしっかりと握っていてくれるから。

「紹介しよう。これより私の婚約者となる、アリア=ルヴィエールだ」

その声が響いた瞬間、空気が一気に変わった。

息を呑むような静寂。

だが次の瞬間、どこからともなく拍手が巻き起こる。

「まあ……!」

「まさか、レオンハルト殿下が婚約を!」

「しかも、あのアリア様と……!」

私の耳にも、次々と驚きと祝福の声が届く。

(……これが、あの日見た“景色”)

もう、涙は流さない。
私はただ、まっすぐに前を見据えて微笑んでいた。

だが——この幸福な瞬間に、影が差し込む。



「少々、よろしいでしょうか?」

その声に、私は振り向く。

そこに立っていたのは、優雅に微笑む一人の令嬢だった。

「私、アリステリア=グランツと申します。公爵家の長女でございます」

(アリステリア……?)

その名を聞いた瞬間、会場がざわついた。

なぜなら——彼女は「王家が新たに招いた縁談候補」の筆頭だったからだ。

「突然のご無礼、申し訳ございません。ですが、殿下の婚約発表が“決定事項”ではないと伺っております。よろしければ、私にも“候補”としての立場を示す場をいただけませんか?」

丁寧な言葉と、完璧な立ち居振る舞い。

それでいて、はっきりと私に対して宣戦布告するような気配を隠さない。

私は思わず言葉を詰まらせた。

だが——

「必要ない」

レオンハルト様が、即座に断言した。

「俺はアリアを選んだ。それ以上でも、それ以下でもない」

「……それでも、“王家の血統”を重視する周囲の声を、殿下はどうご説明なさるのですか?」

彼女の冷静な指摘に、場が再び静まり返る。

だが、レオンハルト様はまったく揺るがなかった。

「俺が王になるならば、王妃に必要なのは“血筋”ではなく、“信頼”だ」

「——!」

「そして、アリアは俺にとって唯一、心から信頼できる人間だ」

その言葉に、私の胸が高鳴った。

同時に、アリステリア嬢はほんの一瞬だけ、表情を曇らせた。

だがすぐに微笑みに戻り、恭しく頭を下げる。

「……承知いたしました。ですが、王家に仕える者として、私はまだ諦めません」

そう告げて、彼女は静かにその場を下がった。

(……これは、簡単には終わらない)

私の胸に、微かな不安が芽生える。



晩餐会の翌日。

私のもとに、匿名の“告発状”が届けられた。

内容は——

『アリア=ルヴィエールは、過去に魔法薬の不正使用で王家に損害を与えた罪人である』
『そのような者を王配候補に据えるなど、正気の沙汰ではない』

——まるで、あの三年前の悪夢が、再び始まるかのようだった。

けれど今の私は、逃げなかった。

レオンハルト様のもとへすぐに駆け寄り、全てを正直に話した。

「……誰かが、意図的に動いている。間違いない」

「やはり、アリステリア様でしょうか……?」

「断定はできん。だが、“王太子派”と呼ばれる一派が動いている可能性もある」

私は、息を呑んだ。

王太子カイルの側近たちは、いまだに私を“邪魔な存在”と見ているのだろう。

「……潰されてしまうかもしれません。私の存在が、レオンハルト様の……」

「違う」

その瞬間、レオンハルト様が私を抱き寄せた。

「お前がいるから、俺は戦える。アリア、お前の過去を恥じるな」

「……っ」

「誰が何と言おうと、俺がお前を守る」

その言葉に、私はただ——頷いた。



その夜。

私は初めて、レオンハルト様の執務室に呼ばれた。

「……明日、王宮で公開質問が行われる」

「公開質問……?」

「民の前で、俺とお前が“なぜこの婚約を結ぶのか”を語る場だ。王家の透明性と正当性を示すためだと」

私は、震えそうになる心を必死に押し殺した。

「……私に、できますか?」

「できる。お前はもう、誰かに守られるだけの存在じゃない。俺の隣に立つにふさわしい」

その言葉が、私を勇気づけてくれた。



そして——運命の日。

広場に集まった民衆の前で、私は立っていた。

何百、何千もの視線が私に注がれる中、私は堂々と告げた。

「私は、レオンハルト殿下の隣に立つ覚悟を持っています」

「かつて私は、断罪されました。無実の罪で、すべてを失いました。ですが、それでも私を信じてくれる人がいて……私はここにいます」

「私は、過去に負けません。そして未来を、殿下と共に歩みたいと願っています」

その言葉に、最初は静まり返っていた広場が、やがて拍手に包まれていく。

——そして、レオンハルト様も言った。

「俺は、アリアを選んだ。この選択を、命を賭けて守ると誓う」

その場にいた誰もが、その想いに心を動かされた。

そして私は、彼の隣に、ようやく胸を張って立つことができたのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

処理中です...