【完結】断罪の日、私は“隣国の王子”に拾われた

22時完結

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王太子の再来、そして私に向けられる疑惑と……初めての嫉妬

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    レオンハルト様に拾われてからというもの、私の生活は一変した。

あれほど冷たく見えたこの王宮で、私は今、**“守られている”**と実感している。

けれど——この穏やかな日々が、いつまでも続くとは思っていなかった。

そして、それは案の定、唐突に訪れた。



「アリア=ルヴィエール様に、王太子殿下より謁見のご要請がございます」

その名を聞いた瞬間、私は凍りついた。

——王太子、カイル=フォン=レグナード。

かつて私と婚約していた人。そして、私を断罪し、すべてを奪った人。

あの人が、私に会いたいと……?



「断ってください。私は今、レオンハルト様の保護下にあります。会う必要はありません」

そう言った私に、レオンハルト様はただ静かに頷いた。

「お前の意志を尊重する。だが、奴の目的が気になるのも事実だ」

「……罠、でしょうか?」

「恐らくは。王太子が今さらお前に関心を向けるとは思えん。裏がある」

彼の言葉に、私は頷くしかなかった。

だがその一方で、心の奥にかすかな動揺が残った。

あの人が、私に何を言いたいのか——知りたくなかったわけでは、ない。



数日後。私の意思に反して、王宮内で偶然を装った“再会”が起こった。

場所は、王宮の小さな回廊。私は側仕えのリゼと散歩中だった。

「……久しいな、アリア」

その声が背後から響いたとき、私は全身が硬直するのを感じた。

振り向けば、そこには整った金髪をなびかせるカイル王太子が立っていた。

「……王太子殿下」

言葉を選び、丁重に一礼する。

だが、彼の目は懐かしさでも謝罪でもなく——奇妙な“関心”で私を見つめていた。

「ずいぶんと雰囲気が変わったな。まるで別人のようだ」

「ええ。私は変わりました。……殿下が、私を変えてくださったのですから」

一瞬、彼の瞳が揺れたように見えた。

それでも私は笑ってみせた。

あの頃の私のように、哀れな“令嬢”には戻りたくなかったから。



それから数日、王太子がやけに頻繁に私の周囲に現れるようになった。

もちろん、正式な謁見でもない限り、私が応じることはなかったけれど——

そのたびに、レオンハルト様の表情が曇るのがわかった。

「……面白くない」

ぽつりと、ある日彼が呟いた。

「……何がですか?」

「奴が、お前に興味を持っているのが。我慢ならない」

それは、ほんの少し怒ったような声音だった。

(……レオンハルト様が、嫉妬している?)

王子である彼が、そんな感情を口にすることに私は戸惑いつつも、
心のどこかが熱くなっていた。

「私は、もう王太子殿下に何の感情もありません」

「……本当か?」

「ええ。私が見ているのは、あなたです。……レオンハルト様」

そう伝えると、彼の目がほんの少し見開かれ——やがて、穏やかに細められた。



ところが、事態はさらに複雑になる。

第一王妃が開催する“王家の縁談候補者選定の夜会”に、私にも出席要請が届いたのだ。

「そんなの、明らかに私を陥れる罠です……!」

「だが、断れば『都合が悪いから逃げた』と見なされる。貴族社会とは、そういうものだ」

「……っ、そんな理不尽!」

怒りとも悔しさともつかない感情に、私は拳を握りしめる。

だが、レオンハルト様は静かに言った。

「ならば、正面から堂々と出ればいい」

「……!」

「俺がついている。お前を守ると、誓った」

その一言で、私の心は決まった。

もう逃げない。過去に縛られる自分から、決別するのだ。



夜会当日。

会場は、王宮の中央舞踏会場。

煌びやかなドレスに身を包んだ貴族令嬢たちが、次期王妃の座を狙って集まっている。

その中に、かつての“悪役令嬢”として名を馳せた私が現れたことで——場は一瞬、凍りついた。

「……あれは、ルヴィエール令嬢?」

「どうしてあんな人が……?」

「レオンハルト殿下に気に入られたのですって。信じられないわ」

そんなささやきが耳に入る。

けれど私は、笑っていた。

レオンハルト様が、私の隣にいてくれるから。

そして彼は、私の腰に手を添えて言った。

「この者が、俺の選んだ婚約者候補だ。異論のある者は、ここで口にするといい」

会場が、またしても凍りついた。

王太子であるカイルでさえ、レオンハルト様の“明言”には動揺を隠せなかった。



夜会の中盤、思いがけない試練が訪れる。

「王妃様のご意向で、各令嬢に知識と教養を問う“試問”がございます」

取り仕切り役の貴族が告げたその言葉に、私は小さく息を呑んだ。

これが“罠”なのは明らかだった。

私の答えが少しでも誤れば、過去の断罪と結び付けられかねない。

だが——

「問題を、お願いします」

私は一歩、前に出た。

そして、落ち着いた声で次々と問いに答えた。

歴史、礼儀、法律、政治。

貴族令嬢として当然知っていた知識を、私は臆せず披露していった。

ざわ……と、空気が変わる。

「……まさか、ここまでとは」

「むしろ、他の令嬢より遥かに正確……?」

「これは、噂で聞いていた人物像と違うぞ……?」

ざわめきはやがて、尊敬と羨望の混じった視線に変わっていた。



夜会が終わったあと。

カイル王太子が、私のもとに歩み寄ってきた。

「アリア……君は、俺の知っている君じゃない」

「そうですね。貴方の知っている私は、もういません」

「……あのとき、誤解だったかもしれない。君を裁いたことを、後悔している」

「その言葉が、三年前に聞けていれば。ですがもう、遅いのです」

私は、レオンハルト様の腕にそっと自分の手を重ねた。

「私は、今の私を信じてくれる人の隣にいますから」

そのとき、レオンハルト様ははっきりとカイル王太子に告げた。

「お前が過去を悔やむのは勝手だ。だが、アリアはもう俺のものだ。手出しは許さん」

その言葉に、王太子が悔しげに歯を噛みしめるのが見えた。

(終わったんだ——本当に、私と王太子は)

そして私は、そっと胸の奥に残っていたしこりを手放した。



その夜、寝台に座った私は、レオンハルト様にぽつりと尋ねた。

「私を、選んでくれてありがとうございます」

「選んだのではない。最初から、俺にとってお前しかいなかった」

「……っ!」

レオンハルト様の大きな手が、私の頬をそっと包む。

その温もりに、心の底から涙が溢れそうになった。

「俺の隣にいろ、アリア」

「はい……ずっと、隣にいます」

こうして私は、“過去”を乗り越え、
レオンハルト様の“未来”に歩き始めたのだった。
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