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舞踏会の奇跡と、再会の涙
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王家による正式な認可を得てから数日後。
私とレオンハルト様は、いよいよ“王妃選定舞踏会”の準備に入っていた。
「この舞踏会は、お前を“次期王妃”として紹介する場でもある。華やかに、そして堂々と行こう」
「……はい」
けれどその直前に、私の元へ届けられた一通の手紙が、全ての始まりだった。
『お願い。最後に、一度だけ会って話をさせて——アリステリア』
⸻
人目を避け、王宮の離宮に用意された小さな客間。
扉を開けると、そこには痩せ細ったアリステリアの姿があった。
「……本当に、来てくれたのね」
「アリステリア様……いいえ、アリステリア」
彼女は微笑みながら、静かに言った。
「こんなにきれいな顔になって……もう、完全に“王子の花嫁”の顔だわ」
「あなたは、なぜあのような手紙を?」
「私じゃないわ。あれは……グランツ家の父が勝手に出したの。私はもう、誰の命令にも従いたくないのに」
彼女の声は、まるで囁きのように弱々しかった。
「私……レオンハルト王子に恋をしたことなんて、一度もなかったのよ」
「……え?」
「でも、“王家に嫁ぐ”という夢だけは、ずっと、ずっと心にあった。だから、あなたが彼に選ばれたと知ったとき、正直……どうしても、許せなかった」
「……」
「でももうわかったの。あなたは“愛された”から、ここに立てている。私は……“役割を演じただけ”だったの」
その時、アリステリアの目に、ぽろりと涙が浮かんだ。
「ねえ、アリア。あの時、あなたのドレスを踏んづけたの、覚えてる?」
「……ええ、もちろん」
「本当は、あの時少し……私も壊れかけてたのよ。見下されるのが怖くて、誰よりも完璧であろうとして、でも心の中ではずっと“自分じゃない自分”を演じてた」
私は、思わず彼女の手を握った。
「……あなたも、苦しかったのね」
「……ありがとう。あなたに“勝ちたい”と思ったこと、恥ずかしくて、でも本当は羨ましかったの。あなたのように、誰かを真っ直ぐに愛したかった」
「あなたも、きっとできる。愛される価値は……あるから」
その言葉に、アリステリアは静かにうなずいた。
「このまま王都を離れるわ。もう二度と、誰かの“代役”になる人生は送りたくないから」
「……行ってらっしゃい」
それが、私たちの最後の会話となった。
⸻
そして、舞踏会当日。
王宮の大広間には、各国の貴族たちが集まり、煌びやかな音楽と香りが空間を満たしていた。
「アリア、これを」
レオンハルト様が差し出したのは、王家の紋章が刻まれた小箱。
「……これは?」
「中を見てごらん」
箱を開けると、そこには美しい瑠璃色の指輪が収められていた。
「これは、俺の母が王妃だった時代に身につけていた“愛の証”だ」
「……そんな大切なものを……」
「これをお前に贈る。俺はもう、お前以外の誰をも見ない」
涙がこみ上げる。
でも、それを押し込めて、私は静かに答えた。
「ありがとうございます。私も、もう……迷いません」
⸻
その直後、場内に音楽が響き渡る。
「レオンハルト王子と、その婚約者アリア嬢による、記念の第一舞踏です!」
貴族たちが拍手を送る中、私たちはゆっくりと歩み出た。
王子の手が私の腰に添えられ、視線が絡む。
「……緊張してるか?」
「少しだけ。でも、大丈夫です。あなたがいれば」
「その言葉、何よりも嬉しい」
そして始まったダンスは——まるで夢の中のようだった。
音楽に合わせて、私たちのステップが静かに重なる。
(これは、私たちが選んだ未来。誰にも邪魔させない)
美しい旋律と共に、私はこの瞬間を全身で受け止めた。
舞踏の最後、レオンハルト様が私の手を取って跪き、そっと手の甲に口づけを落とす。
「愛している、アリア。……永遠に、お前だけを」
「私も……あなたを愛しています」
その瞬間、会場から割れるような拍手が沸き起こった。
私たちは、堂々と“愛される者と愛する者”として、この舞踏会の主役となったのだ。
⸻
その夜。
星が降るような空の下、私たちはバルコニーに立っていた。
「……今日という日は、きっと一生忘れられません」
「俺もだ。お前が隣にいてくれたら、どんな未来も怖くない」
レオンハルト様が肩を寄せると、私はその胸に甘えるように寄り添った。
温かく、穏やかで、そして揺るぎない。
これは、私の愛と居場所が確かに“ここにある”という証——
私とレオンハルト様は、いよいよ“王妃選定舞踏会”の準備に入っていた。
「この舞踏会は、お前を“次期王妃”として紹介する場でもある。華やかに、そして堂々と行こう」
「……はい」
けれどその直前に、私の元へ届けられた一通の手紙が、全ての始まりだった。
『お願い。最後に、一度だけ会って話をさせて——アリステリア』
⸻
人目を避け、王宮の離宮に用意された小さな客間。
扉を開けると、そこには痩せ細ったアリステリアの姿があった。
「……本当に、来てくれたのね」
「アリステリア様……いいえ、アリステリア」
彼女は微笑みながら、静かに言った。
「こんなにきれいな顔になって……もう、完全に“王子の花嫁”の顔だわ」
「あなたは、なぜあのような手紙を?」
「私じゃないわ。あれは……グランツ家の父が勝手に出したの。私はもう、誰の命令にも従いたくないのに」
彼女の声は、まるで囁きのように弱々しかった。
「私……レオンハルト王子に恋をしたことなんて、一度もなかったのよ」
「……え?」
「でも、“王家に嫁ぐ”という夢だけは、ずっと、ずっと心にあった。だから、あなたが彼に選ばれたと知ったとき、正直……どうしても、許せなかった」
「……」
「でももうわかったの。あなたは“愛された”から、ここに立てている。私は……“役割を演じただけ”だったの」
その時、アリステリアの目に、ぽろりと涙が浮かんだ。
「ねえ、アリア。あの時、あなたのドレスを踏んづけたの、覚えてる?」
「……ええ、もちろん」
「本当は、あの時少し……私も壊れかけてたのよ。見下されるのが怖くて、誰よりも完璧であろうとして、でも心の中ではずっと“自分じゃない自分”を演じてた」
私は、思わず彼女の手を握った。
「……あなたも、苦しかったのね」
「……ありがとう。あなたに“勝ちたい”と思ったこと、恥ずかしくて、でも本当は羨ましかったの。あなたのように、誰かを真っ直ぐに愛したかった」
「あなたも、きっとできる。愛される価値は……あるから」
その言葉に、アリステリアは静かにうなずいた。
「このまま王都を離れるわ。もう二度と、誰かの“代役”になる人生は送りたくないから」
「……行ってらっしゃい」
それが、私たちの最後の会話となった。
⸻
そして、舞踏会当日。
王宮の大広間には、各国の貴族たちが集まり、煌びやかな音楽と香りが空間を満たしていた。
「アリア、これを」
レオンハルト様が差し出したのは、王家の紋章が刻まれた小箱。
「……これは?」
「中を見てごらん」
箱を開けると、そこには美しい瑠璃色の指輪が収められていた。
「これは、俺の母が王妃だった時代に身につけていた“愛の証”だ」
「……そんな大切なものを……」
「これをお前に贈る。俺はもう、お前以外の誰をも見ない」
涙がこみ上げる。
でも、それを押し込めて、私は静かに答えた。
「ありがとうございます。私も、もう……迷いません」
⸻
その直後、場内に音楽が響き渡る。
「レオンハルト王子と、その婚約者アリア嬢による、記念の第一舞踏です!」
貴族たちが拍手を送る中、私たちはゆっくりと歩み出た。
王子の手が私の腰に添えられ、視線が絡む。
「……緊張してるか?」
「少しだけ。でも、大丈夫です。あなたがいれば」
「その言葉、何よりも嬉しい」
そして始まったダンスは——まるで夢の中のようだった。
音楽に合わせて、私たちのステップが静かに重なる。
(これは、私たちが選んだ未来。誰にも邪魔させない)
美しい旋律と共に、私はこの瞬間を全身で受け止めた。
舞踏の最後、レオンハルト様が私の手を取って跪き、そっと手の甲に口づけを落とす。
「愛している、アリア。……永遠に、お前だけを」
「私も……あなたを愛しています」
その瞬間、会場から割れるような拍手が沸き起こった。
私たちは、堂々と“愛される者と愛する者”として、この舞踏会の主役となったのだ。
⸻
その夜。
星が降るような空の下、私たちはバルコニーに立っていた。
「……今日という日は、きっと一生忘れられません」
「俺もだ。お前が隣にいてくれたら、どんな未来も怖くない」
レオンハルト様が肩を寄せると、私はその胸に甘えるように寄り添った。
温かく、穏やかで、そして揺るぎない。
これは、私の愛と居場所が確かに“ここにある”という証——
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