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新学期が始まって、2ヶ月が過ぎようとしていた。アンジェラはひとまず平穏な生活を送っていた。ジャネットの様子は相変わらずだったが、セリアがなるべく側にいるようにしてくれたお陰で、先日のように表立った嫌がらせをされることは無くなっていた。
今日は休日。普段ならばゆっくりと朝を過ごすところだが、アンジェラは授業がある日と変わらない時間に目を覚ましていた。
「今日は何かあるの?」
ベッドの上で寛いでいたセリアが不思議そうな顔をして尋ねた。
「剣術大会よ!王立学院の3校の剣術クラブが、今年はこのクインス校で試合をするの」
「そういえば、昨日は競技場の方が賑やかだったわね……私には縁のない場所だけど」
「私も武術は特別得意な訳ではないけど、応援は楽しいわよ。選手は精鋭揃いだし、特にロータス校には卒業したら騎士団に入る方も多くて、」
「今すぐ支度するわ」
観戦に誘うまでもなく、騎士団、という言葉を聞いた途端に目を輝かせ身支度に取り掛かろうとするセリアの様子に、アンジェラは思わずふふ、と笑った。少し前に話していた、騎士のような逞しい方に憧れているというのは本当だったようだ。
競技場の観客席は、大勢の生徒で賑わっていた。他校の制服の生徒もあちこちで見かける。アンジェラが大会に来たのは勿論、オーウェンを応援するためだ。手強い上級生も参加する校内の予選を勝ち抜き、見事クインス校の代表の一人に選ばれたのだ。
(殿下が出られるのは、1試合目と4試合目……あら?)
審判の席の上方に大きく張り出された対戦表を眺めていたアンジェラは、オーウェンの最初の相手が変更されているのに気がついた。
「アスター殿下って、第二王子の方よね。誰かの代理かしら」
セリアも異変に気がついたようだ。アスターはオーウェンのすぐ下の弟君。ロータス校に昨年入学したのはアンジェラも知っていたが、剣術クラブにも所属していたとは初耳だ。2年生であのロータス校の選手になるとは、相当な実力を備えているのだろう。
いつの間にか周囲の生徒達も、二人の王子が剣を交える試合の話題で持ちきりだった。
どうやら、今朝になってロータス校の選手が体調を崩し、既に代表に選ばれていたアスターが彼の代わりも務めることになったようだ。
二人はあまり折り合いが良くないと聞く。兄弟なのに別の学校に通うのはそのためだ、と。その噂の真偽はアンジェラには分からないが、どんな相手でも誠実なオーウェンは全力で戦うに違いない、と確信していた。
開会式が終わり、最初の試合が始まろうとしていた。オーウェンとアスターが入場すると観客席から黄色い歓声が上がった。それに笑顔で手を振るアスターに対して、オーウェンは真剣な眼差しのまま右手を挙げて応じた。
普段は滅多に見せない表情から、アンジェラは目が離せなかった。
審判の合図に合わせて、二人は剣を構えた。
「始めっ!」
試合開始と同時にアスターが動いた。目にも止まらぬ動きで果敢に攻め立てていく。オーウェンは冷静にそれを受け流す。そして、時折繰り出される鋭い一撃を的確に捌いていった。
アスターの方も負けてはいない。攻撃を仕掛けられると、素早く身を翻し流れるような動作で防いだのだ。わっと歓声が沸いた。
そして、アスターは相手目がけて勢い良く剣を振り上げた。
「オーウェン様!」
アンジェラは夢中で叫んだ。
しかしオーウェンは動じなかった。遠くの観客席からだが、彼は一瞬笑みを浮かべたように、見えた。
攻撃を難なく押し返し、アスターの隙を見逃さず剣を振るうと、逆に相手の剣を弾き飛ばしてしまった。
金属音が響き渡る。
勝負ありだ。
「そこまで!」
審判の声と共に、会場からは喝采が起こった。
今日は休日。普段ならばゆっくりと朝を過ごすところだが、アンジェラは授業がある日と変わらない時間に目を覚ましていた。
「今日は何かあるの?」
ベッドの上で寛いでいたセリアが不思議そうな顔をして尋ねた。
「剣術大会よ!王立学院の3校の剣術クラブが、今年はこのクインス校で試合をするの」
「そういえば、昨日は競技場の方が賑やかだったわね……私には縁のない場所だけど」
「私も武術は特別得意な訳ではないけど、応援は楽しいわよ。選手は精鋭揃いだし、特にロータス校には卒業したら騎士団に入る方も多くて、」
「今すぐ支度するわ」
観戦に誘うまでもなく、騎士団、という言葉を聞いた途端に目を輝かせ身支度に取り掛かろうとするセリアの様子に、アンジェラは思わずふふ、と笑った。少し前に話していた、騎士のような逞しい方に憧れているというのは本当だったようだ。
競技場の観客席は、大勢の生徒で賑わっていた。他校の制服の生徒もあちこちで見かける。アンジェラが大会に来たのは勿論、オーウェンを応援するためだ。手強い上級生も参加する校内の予選を勝ち抜き、見事クインス校の代表の一人に選ばれたのだ。
(殿下が出られるのは、1試合目と4試合目……あら?)
審判の席の上方に大きく張り出された対戦表を眺めていたアンジェラは、オーウェンの最初の相手が変更されているのに気がついた。
「アスター殿下って、第二王子の方よね。誰かの代理かしら」
セリアも異変に気がついたようだ。アスターはオーウェンのすぐ下の弟君。ロータス校に昨年入学したのはアンジェラも知っていたが、剣術クラブにも所属していたとは初耳だ。2年生であのロータス校の選手になるとは、相当な実力を備えているのだろう。
いつの間にか周囲の生徒達も、二人の王子が剣を交える試合の話題で持ちきりだった。
どうやら、今朝になってロータス校の選手が体調を崩し、既に代表に選ばれていたアスターが彼の代わりも務めることになったようだ。
二人はあまり折り合いが良くないと聞く。兄弟なのに別の学校に通うのはそのためだ、と。その噂の真偽はアンジェラには分からないが、どんな相手でも誠実なオーウェンは全力で戦うに違いない、と確信していた。
開会式が終わり、最初の試合が始まろうとしていた。オーウェンとアスターが入場すると観客席から黄色い歓声が上がった。それに笑顔で手を振るアスターに対して、オーウェンは真剣な眼差しのまま右手を挙げて応じた。
普段は滅多に見せない表情から、アンジェラは目が離せなかった。
審判の合図に合わせて、二人は剣を構えた。
「始めっ!」
試合開始と同時にアスターが動いた。目にも止まらぬ動きで果敢に攻め立てていく。オーウェンは冷静にそれを受け流す。そして、時折繰り出される鋭い一撃を的確に捌いていった。
アスターの方も負けてはいない。攻撃を仕掛けられると、素早く身を翻し流れるような動作で防いだのだ。わっと歓声が沸いた。
そして、アスターは相手目がけて勢い良く剣を振り上げた。
「オーウェン様!」
アンジェラは夢中で叫んだ。
しかしオーウェンは動じなかった。遠くの観客席からだが、彼は一瞬笑みを浮かべたように、見えた。
攻撃を難なく押し返し、アスターの隙を見逃さず剣を振るうと、逆に相手の剣を弾き飛ばしてしまった。
金属音が響き渡る。
勝負ありだ。
「そこまで!」
審判の声と共に、会場からは喝采が起こった。
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