独りぼっちだった少女と消えた婚約

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オーウェンは第4試合でもウィステリア校の選手を制した。勢いづいたかに見えたクインス校だったが、他の代表は思うように勝利を収めることができず、剣術大会は最も多く勝利したウィステリア校の優勝に終わった。

自分の学校が優勝を逃したのは残念だったが、アンジェラは、戦うオーウェンの姿を直に見られたこと、応援できたことに喜びを噛みしめていた。隣のセリアも満足げな表情をしていた。二人は熱気の残る競技場を後にし、寮へ帰ろうとしていた。

「やっぱり来てよかったわ。素敵な未来の騎士様もたくさん拝めたし。でも、他校の選手はすぐ帰っちゃうのね。せっかく集まったのに、交流会みたいなものもないなんて。定期試験も近いし、仕方ないのかしら」

「残念だけど、毎年この日に開催する決まりなのよ。でも、数ヶ月先の創立記念日には、ロータス校も、ウィステリア校も集まる豪華なパーティーが開かれるわ」

「それは楽しみね……あら、選手が来るみたい」

セリアは競技場の外にある建物を指した。見ると、着替えを済ませた選手がぱらぱらと出てきていた。彼らが出てくる度に、出待ちの生徒が歓声を上げていた。

「ねえ、ここで少し待ってみない?他校の代表にも会えるかもしれないわよ」

「ふふ、私は構わないわ」

アンジェラの提案をセリアは快く受け入れてくれた。二人はずらりと並んだ生徒の後ろの方へ回った。

歩いてくる選手の所属校に関係なく、セリアは周囲の生徒と一緒になって歓声を上げていた。

しばらくして、建物の方から黄色い声が聞こえてきた。アンジェラは目を見開いた。オーウェンが姿を現したのだ。すかさず女子生徒が集まって周りを取り囲んだ。

「おめでとうございます、オーウェン様!」

「素晴らしい剣さばきでしたわ」

一応通路には線が引かれており、そこから先に出てはいけない決まりなのだが、それももはや意味をなしていなかった。二人の前にいた人も皆オーウェンの方へ駆けていった。

「すごい人気。まあ、あのアスター王子にも、優勝校の代表にも勝ったものね」

「そうね……」

きゃあきゃあとはしゃぐ女子達を眺めていたアンジェラは、後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにはエリックが立っていた。

「殿下とお話しされたいのですね」

「え、ええ」

「この後、殿下は私との簡単な打ち合わせのために、あの回廊にいらっしゃいます」

エリックは建物の陰にある回廊を手で示した。

「ほんの少しですが、時間を作れるかと」

「あの、なぜそれを教えてくださるのですか」

「規則を守っているのはお二人だけでしたので。それに」

アンジェラの疑問に答えるエリックは言葉を区切り、微笑んだ。

「殿下は以前、喜んでおいででしたから。近しいご友人以外の方と、初めて愛読書の話ができたことを」

アンジェラはエリックに丁寧に感謝を伝え、セリアと教えられた場所へ向かった。しかし、セリアは回廊に入る手前で立ち止まった。

「私はそこのベンチで休んでるから。殿下とお話しするのは久しぶりでしょう?」

「で、でも」

確かに、近ごろのオーウェンは忙しかったようで、授業や食事の時間以外ではなかなか姿を見かけることがなく、挨拶をすることもできなかった。
しかし、これまで彼と接した時には、側にセリアやハンナなど、他の誰かがいたのだ。中庭での一件の時もだ。

独りで何かを上手くできる自信など、アンジェラにはない。

「あなたは少しずつ、変わっている」

俯くアンジェラの心に、明るい声がすっと差し込んだ。

「前よりも表情が柔らかくなったし、今日だって、試合の状況に私と一喜一憂してたじゃない。感情を表に出せるようになったのね。アンジェラは少しずつ、本来の自分を取り戻していると思うの」

「ほんとう?」

「もちろん。この私が保証するわ」

得意げに胸を張るセリアにつられて、アンジェラは微笑みながら頷いた。
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