悪性の腫瘍 -もしこれが遺書になるのなら-

レゲーパンチ

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 まず初めに。

 これは一応ながら、ノンフィクションで書く文章だが。
 どうせネタだろ、だとか。いわゆる死ぬ死ぬ詐欺なんだろ?だとか。そういう気持ちで読んでもらえたほうが有り難い。
 私は日本にインターネットが広まった当初から――当時はまだ小学生だったが、その頃からネット世界に入り浸っていた。今ではインターネット黎明期と揶揄される時代を、実際に経験した者である、が。
 その頃からネット上では、自らを病気だのなんだと言って、見ず知らずの人達の同情心を煽って、注目を浴びたがる輩が多かったのは覚えている。ウェブマネーに代表されるネット通貨が広まって以降は、○○な事情があるので募金してください、という類もちらほら見かけた。そしてそれらは今もなお、ネット上で軽く検索すれば嫌というほど出てくる。
 もちろん中には自らの実名を公表して、懸命に闘病生活を送っていらっしゃる方もいる。だけどそれ以上に、自分を病人あるいは障碍者だと騙ったり、もしくは自殺をほのめかす、いわゆる構ってちゃん気質な人間が多いのが事実だ。だってその方が注目を浴びやすいし、ネタになるし、あわよくば・・・という話はキリが無いのでここまでにするけれど。
 とにかく。今回私が書くこの文章も、どうせその手の類なんだろ?と思われるだろう。そして私には、この文章の内容が嘘偽りの無い真実である、ということを証明する術がない。厳密に言えばできなくもないが、そうなったら身バレしてしまう。それは嫌だ。色々と恥ずかしすぎる。
 だから、その手のことでは争うつもりはない。そもそも、どう思われようと私には関係ない。今までずっとやってきたことを、やるだけ。自らの思うがままにキーボードを打ち込んで、文章を垂れ流して、ネット上に晒すだけなのだから。

 今は家でノートパソコンを開いている。
 入院は近日中。いつ入院するかは身バレする可能性があるので言いたくはない。無論だが、どこの病院に入院するかなんて書くつもりもない。
 最初のきっかけは、健康診断。精密検査を受けろという封筒が送り付けられてきて、専門の医院に行ってみたら、見つかった。いつ、どこに発生したのかも書くつもりはない。現時点では、腫瘍の検査が悪性だった、としか言えない。
 ・・・と言うより、詳しい話を教えてくれない。先生、言葉を濁さないでください。ハッキリ言ってください。ステージの話なら分かりますから話してください。いや待ってください、私を診察室から出さないでください。まずはご家族への説明からって何なんですか意味が分かりません。
 なんで教えてくれないんですか。親と話す前に私に話してくださいよ。教えてくださいよ。・・・一部部位を切除する、とだけは教えてくれました。
 父は当座のお金を用意してくれて、母は入院準備を整えてくれた。私も今ではいい年したオッサンなのだから、それくらいは自分で、いやでもやっぱりお金はください。元気になったら働いて返しますからハイ。
 ・・・働ければ、だけどなぁ。まず元々の仕事ができそうにない。そもそも日常生活を普通に送れるかどうかが怪しい。保険は怪我関係のものしか入ってないから病気関係には使えない。今に至るまで積み立てた貯金は大幅に消えるだろう。
 どうしよう。どうしていいか分からない。体が痛いから鎮痛剤を飲んで誤魔化しているけど、それも日に日に効き目が薄くなってきている。まだ処方されてから2週間くらいしか経ってないのに、もう効かなくなってる。
 ――なるほど、これが病気というものか。よく分かったよ。

 親からは、治る病気だとは聞いている。
 腫瘍さえ切ればどうにかなる、だけど腫瘍を切り取るためには一部分ごと切り取る必要があるから、場合によっては障碍者手帳が発行されるかも、と聞いている。命は助かるから、一緒に頑張ろうと言ってくれた。
 ・・・それだったら。もう手遅れだ、と言われたほうが良かった。
 いい年したオッサンの両親なのだから、父も母もいい年しているに決まっている。
 本来なら、私が親の面倒を見るべきだ。それなのに、こんなザマになるなんて。中途半場に治療費が掛かって、もし無事に退院できたとしても、親には迷惑を掛けてしまう。
 実際、親戚から言われた。もうアンタいい年しているのに、親に甘えるなんて、と。言い返せない。正論極まりない。愛想笑いで返すことができなかったから、余計に怒られてしまった。何がおかしいんだ、と。
 周囲には、そう振る舞っている。見かけだけは明るく、楽しく。この際だから病室に積みゲーを持ち込んで楽しもうかなぁ、最近はアニメ見放題チャンネルで色々見放題なんだよ、と。親戚からは、もうアンタいい年しているのに何言ってんだ、と鼻で笑われた。うん、それでいいです。そう思ってもらえたら十分です。
 ――今。私の手元には、手錠が用意してある。大人向けのエッチなお店で買った物だ。それと幾つかの薬品。詳細は控えておく。
 これであとは人気のないところまで車で行って、薬品を使って、両手は手錠を使って車のハンドルに拘束すれば、と。そういう準備を、整えている。整えてしまった。そういう考えが、どうしても頭の中をよぎってしまう。
 ・・・中途半端に生き長らえるくらいなら、今のうちにサックリ逝った方が、世のため人のためになるのでは、と。私は、そう思っている。

 この文章が目指すものは、夏目漱石の『こころ』。皆様ご存知、遺書パートがやたら長いアレ。文字数に換算すると9万7千文字以上だとか。
 一応ながら、今は死ぬつもりも無い。見たいアニメがあるとか、あの人の新作を読みたいとか、食べたい物があるとか、何かと理由を付けて・・・いや、この程度のことで取り止める時点で、ハナから自殺する気なんて無いのだろうか?
 少なくとも、今はそのつもりはない。入院して、詳しい容態を聞いて、それからのことを考えてからでも遅くは無いと、言い訳している。
 言い訳相手は、自分自身。自問自答。こんなの周囲の人間に話せるわけが無い。だからこうしてネット上に、見えない誰かに対して愚痴っているだけだ。
 しょせんこれは愚痴なんだ。グチグチ文章を垂れ流しているだけなんだ。だから真剣に読む必要はない。真に受ける必要も無い。
 どうせ相手は見ず知らずの、どこに住んでいるかも分からない謎の人間だ。よく分からない誰かだ。そんな人間に余計な感情を抱く必要も無い。
 今現在、日本では一日あたり3千~4千人の人が亡くなるそうだ。世界規模で言えば、一日あたり16万人。だから私1人が死んだところで、大した話にはならない。私の周囲を取り巻く環境には何かしらの影響を及ぼすだろうが、これを読んでいる人には何の実害も無いだろう。
 もしこれが著名人であればニュースになるし、ここ近年ではSNSを介して発表される場合もあるが・・・それはある程度は名が知れた人の話。
 私には、そんなものは無い。ネット上をフラフラ彷徨って、面白そうなところを見つければしばらく居座って、だけど諸々の事情があってそこから出て行って、また新しい場所を見つけて・・・どれだけの場所を行き来して、どれだけのハンドルネームを使ってきたかも覚えていない。
 今はこんな名前で、変な文章を垂れ流してはいるが。これもまた自分としては、面白いからやっている、書きたいからやっている。ただ、それだけ。


 だから今も、キーボードを叩き続けている。
 スマホ入力は趣味じゃない。こっちの方が慣れてるんだ。
 それにどうせ近々入院するのだから、暇になる。暇つぶしが欲しい。何か書かないとやってられない。何かで気を紛らわさないと夜も眠れない。
 ――だから、書けるだけは書いてみる。
 オチもヤマもない、つまらない文章になるだろう。だって私、思ったことを思い付きのままに、ダラダラ書いているだけなんだから。
 下書き?プロット?要らんそんなの。ていうかこの手の文章だと、そんなの用意できない。だって入院するのはこれが初めてだし、悪性腫瘍の摘出手術を食らうのも人生初めてだよ。これからどうなるか、なんて分からないよ。
 ええと、私マジで助かるの?社会復帰できる?自殺するまでも無く死んじゃうエンドとか無いよね?・・・何も、分からない。怖い。
 まぁ、でも。今日は生きている、それだけは確かた。
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